The symbol of courage - 010

2. ホグワーツ特急と組分け儀式



 フレッドとジョージはその後しばらくハリーに見惚れていたけれど、ウィーズリー夫人の呼ぶ声がするとコンパートメントを去って行った。コンパートメントの中にはハリーとそれから私の2人だけが残されることとなった。

「ええっと、ハリー? どうぞ、座って。それから、 初めまして。私、ハナ・ミズマチっていうの」

 立ったままのハリーに向かいの席を勧めると、ハリーは「ありがとう」と言って私の向かいに座った。改めて見ると、ハリーはとてもジェームズにそっくりだった。ジェームズと違うところは緑の目とそれから、ジェームズよりもはるかに大人しそうに見えるところだろう。

「僕はハリー・ポッター。よろしく、ハナ」
「ええ、よろしく、ハリー」

 今日に至るまで、心の準備をしっかりしてきたので、私はうっかり泣いてしまうことなくハリーと初めましての握手を交わした。あとは気を抜いてうっかり「ジェームズ!」と呼ばないように気を付けなければならない。ダンブルドアから口止めされているので、うっかり口に出してしまっても、どうして私がジェームズを知っているのか、ハリーに説明することが出来ないからだ。

 ふと窓の外を見ると、私達のコンパートメントの近くでは、ウィーズリー夫人がちょうどロンの鼻を無理矢理拭いている所だった。ウィーズリー一家とはダイアゴン横丁で遭遇したきりだけれど、それでもあの一家がとても素敵な一家だということはよく分かった。きっと、映画や本を読んでいなくてもそう思ったに違いない。

「とっても素敵な家族よね」

 同じようにプラットホームにいるウィーズリー一家を見ていたハリーに私は言った。

「うん。僕もそう思う。えーっと、君は家族とお別れをしなくていいの?」
「私は血の繋がった家族はいないの」
「僕、あの、知らなくて――ごめん」
「平気よ。私の後見人になりたいと言ってくれた人がいたんだけれど、その人も亡くなってしまって、今は別の人が後見人になってくれたの。でも、とても忙しい人だから、見送りには来られないわ」
「僕も両親が亡くなって、今は親戚の家にいるんだ。でも、その、あんまり、良くない」
「ならハリー、これから貴方はとっても楽しくなるわ」
「どうして?」
「ホグワーツはとっても素晴らしいところだからよ」

 ハリーは私の言葉にいまいちピンと来ていないようだったけれど、それでもこれからの生活にワクワクしているような顔をしていた。これからきっと大変なことが待ち受けるだろうけれど、それ以上に楽しい経験もいっぱいさせてあげるからね、ハリー!と私は硬く決心をした。見た目は同い年なのに中身は大人なので、どうしても我が子目線で見てしまっていけない。

「ここ空いてる?」

 やがて11時になり汽車がホグワーツへと向けて出発すると、コンパートメントにはロンが増えた。フレッドとジョージは不安気な弟の面倒を見ることより、タランチュラを見ることの方が大事らしく、ロンに「真ん中辺りまで行く」と言ったあと、ハリーに手早く自己紹介を済ませ、私に「弟達をよろしく」とウインクして去って行った。相変わらず慌ただしい双子である。

 フレッドとジョージが去ったあとは自然とハリーの話になり、そこからお互い自己紹介代わりに自分達の境遇を話した。ロンはハリーの稲妻の傷痕に興味津々だったし、ハリーはロンの家族のことについて興味津々だった。それから私がマグル生まれだけれど、後見人は魔法使いだと話すとロンはそういう事例が珍しいのか不思議そうにしたし、ハリーは羨ましがった。もちろん、後見人がダンブルドアであることは話さなかった。

 お互いのペットの話もした。ヘドウィグはふくろう百貨店で私と出会ったことを覚えているらしく、私と目が合うと約束は守ったよとでも言うように「ホーゥ」と得意気に鳴いていて、ハリーはそれを見て「ヘドウィグは君のことが好きみたい」と言っていた。けど、ヘドウィグは私よりロキのことが好きなようだった。ロキも満更ではなさそうなので、そのうち2羽は恋仲になるかもしれない。

 ロンは私達のペットのふくろうも羨ましそうにしながら、自分のペットのスキャバーズを見せてくれた。私が友人の言っていることを聞き間違えていなければ、彼がワームテールであり、ピーター・ペティグリューなのだ。ジェームズを裏切り、ヴォルデモートに売った張本人なのだ。

 友人は常々、ピーターに対してコロコロと意見を変えていた。親世代の話をするときは「ピーターは絶対可愛かったと思う!」と話していたし、かと思えば子世代の話をするときは「裏切って最低!」と心底憎らしげに言っていた。その友人の反応を見るに、彼は決して悪い人ではなかったのだと思う。きっと私もあの時紹介されて仲良くしていたら、彼に対してここまで冷え切った気持ちにならなかったかもしれない。

 しかしながら、彼と友情を育まなくった私は、今すぐにでもスキャバーズを捕まえて、ダンブルドアの目の前に差し出したいという気持ちしかなかった。彼の生存は明らかな証拠である。ダンブルドアの目の前に差し出せば、きっとシリウスはアズカバンから出られる――

「ハナ、そんなに怖い顔してどうしたんだい?」

 ロンにそう声を掛けられて、私はハッと顔を上げた。見れば、ハリーもロンも私を恐々と見ているのが分かった。今、私はどんな顔をしていたのだろうか。ダンブルドアに順序が大切だと忠告されたばかりだというのに、こんなことではハリーを守るどころか足を引っ張ってしまうかもしれない。

「ごめんなさい。ちょっと考え事をしてしまって」

 苦笑しながらそういうと、ハリーもロンもあからさまにホッとした様子だった。けれども、スキャバーズだけは何かを感じ取ったのか、怯えた様子を見せていた。彼と実際に会うのはこれが初めてだけれど、もしかしたら私が誰なのか分かってしまったのかもしれない。

 今度ダンブルドアにジェームズ達が他の人にどこまで私の話をしているのか、確認した方がいいのかもしれない。私はスキャバーズから窓の外に視線を移しながら、そんなことを考えていた。