Side Story - 1971年11月

湖の畔での出会い

――James――



 今年の9月1日に僕は念願のホグワーツ生になった。やっと自分の杖を持つことが許され、本格的に呪文を学ぶことが出来るこの瞬間をきっと誰だって待ち望んでいたに違いない。学校が始まってもう2ヶ月ちょっとが過ぎたけれど、気の合う友達も出来たし、ホグワーツの城の中にある隠し通路だって少し見つけて、僕のホグワーツ1年目は最高の滑り出しと言えた。

 11月の最初の日曜日、僕はシリウスと二人で「どちらが新しい隠し通路を見つけるか」という勝負をしていた。このシリウスというのが代々スリザリンの一族の生まれなのにグリフィンドールに組分けされた面白いやつで、僕ととにかく気が合うんだけど――この話は長くなるのでやめておこう。

 とにかく11月の最初の日曜日、僕はシリウスと2人で勝負をしていた。本当は同じグリフィンドールの1年生で僕とシリウスと同室のリーマスとピーターも誘ったんだけど、どちらからも断られてしまった。リーマスは数日前に医務室で寝込んだばかりだからと言っていたし、ピーターは勝負に勝てる自信がないとか宿題が溜まっているとかなんとか言っていた。

 そういうわけで僕はホグワーツの城内や校庭を歩き回っていたのだけれど、ちょうど湖の辺りを歩いている時、不思議なことが起こった。先程までは確かに誰もいなかったと思ったのに、気が付いたら、ぶなの木の下に女の子が寝ていたのだ。フードの中の色が青だからレイブンクローの女の子だ。

 なんだか興味を唆られて、僕は女の子のそばに歩み寄った。目を閉じたまま眠っている女の子はどこかアジア系を思わせる顔立ちで、髪は黒だった。ぶなの木に生い茂る葉の隙間から漏れる太陽の光を浴びて、まるで女の子を縁取るように黒髪が茶色く透けている。知らない生徒だ。

「おーい、そこで寝てたら風邪引くよ?」

 僕が声を掛けると、女の子はゆっくりと瞼を持ち上げて目を覚ました。アジア系の顔立ちだからてっきり目の色は黒か茶色だと思っていたのに、開かれて見ればそれは珍しいヘーゼル色だった。女の子はそんなヘーゼルの瞳でこちらをジーッと見つめたあと、

「ハリー・ポッター?」

 と呟いた。どうやら寝惚けているのか、僕を誰かと人違いをしているらしい。

「ハリー? 確かに僕はポッターだけど――僕はジェームズだよ。ジェームズ・ポッター」

 一体誰と間違っているのだろうかと思いつつ、いつまでも寝転がっている女の子に手を差し出しながらそう訂正すれば、彼女は「ごめんなさい」と謝りながら手を握り返した。グッと力を込めて引き起こす。

「寝惚けて知り合いと間違えたみたい。それから、起こしてくれてありがとう。ミスター・ポッター」
「どういたしまして。君は……」
「レイブンクローのハナ・ミズマチよ」

 ハナ・ミズマチと名乗った女の子の顔を僕はやっぱり知らなかった。だけど、僕はグリフィンドール生だし、ホグワーツ歴もまだ2ヶ月ちょっとなので、知らない生徒がいてもおかしくはないのかもしれない。ただ、こんなに目立つ容姿の生徒を見たことも名前を聞いたこともないのは少し不思議だった。しかも、素直に「君、何年生? 見ない顔だね」と訊ねても答えてくれないのだ。彼女は何やら思案を巡らせたあと、

「それは次に会う時までの貴方の宿題ということにしましょう、ミスター・ポッター」

 と答えた。まさかこんな返しが返ってくるとは思わず、僕は一瞬ポカンとしたけれど、すぐに「面白い」と思った。それに、隠されると暴きたくなるのが僕の性分だ。けれど、

「いいね」

 と答えた次の瞬間、僕がたった1回瞬きをしている間に彼女は目の前から忽然と姿を消していた。それを見た時、僕は隠し通路を発見するよりももっと面白いものを見つけた気がした。

「流石ホグワーツ。そうこなくっちゃ」

 彼女が後々、僕の未来に大きく関わってくることを、僕はまだ知らない。


[追記]
この話は第1章のデータ版用に書き下ろしたお話です。 一部機種依存文字を平仮名に変換していますが、内容はデータ版と同じです。