The symbol of courage - 009

2. ホグワーツ特急と組分け儀式



 8月の1ヶ月間を私は、ほとんど勉強に費やした。
 買った教科書を読み耽り、試せる呪文はなんだって試して練習した。有り難いことに私はなかなか魔法との相性がいいらしく、練習した呪文はいくつか失敗もあったけど、最終的にはどれも成功した。私は本当に魔女だったのだ。

 ダイアゴン横丁にはあれからもう一度行って、本屋さんで変身術と呪文学、闇の魔術に対する防衛術、それから無言呪文についての本とホグワーツの歴史という本を買い足した。店員さんは私がまだ入学前にも関わらず無言呪文の本を欲しがったので、目をまん丸にさせていた。

 ダンブルドアとは手紙を何度かやり取りをした。賢者の石については、無事に保管してあった金庫から回収し、ホグワーツ内で守りを固めるとのことだった。ダンブルドアは誰がヴォルデモートの手先なのか既に知っているようだったので、もしかすると忠告は必要なかったかもしれないけれど、ダンブルドアは「また何か気付いたことがあれば教えて欲しい」と書いてくれていた。

 そんなこんなで夏休みはあっという間に過ぎ、遂に9月1日がやってきた。出発時刻の11時に間に合うよう余裕を持って家を出て、電車に乗ってキングズ・クロス駅を目指したのだけれど、ふくろうを持っている私は車内で注目の的だった。けど、そんな視線が気にならないほど私はソワソワとしていた。因みにロキはとっても不機嫌そうだった。

 10時に家を出て、キングズ・クロス駅に着いたのは10時半前だった。駅は人でごった返していて、私は9と4分の3番線を目指してキョロキョロしながら駅の中を進む。ロキはここに来て更に人が増えたことが嫌なのか、不機嫌そうに嘴をカチカチと鳴らしていた。

「ごめんね、ロキ。もう少し待ってて」

 やっと9番線と10番線のプラットホームが見えて来たと思ったら、目の前にくしゃくしゃ頭の男の子が立っているのが見えて私は立ち止まった。男の子はずんぐりとした男性とほっそりとした女性、それから男性にそっくりな男の子と話をしていた。ハリーとダーズリー一家だ。

 ハリーは驚くほど痩せていて小柄で、そしてジェームズにそっくりだった。私は泣きたくなるのと、抱き締めたくなるのと、ダーズリー一家にパンチをお見舞いしたくなるのをどうにか我慢しながら、彼の後ろ姿を見つめていた。今までどれほど寂しく辛かっただろう。

 ダーズリー一家はニヤニヤと意地悪そうな笑みでハリーを見て何かを話していた。きっと、プラットホームが分からないハリーをバカにしているのだろうと思ったが、確かここはロンとハリーが出会うシーンだったはずだ。折角の親友との出会いを邪魔は出来ないと、私は一足先に9と4分の3番線のプラットホームへ向かうことにした。柵に向かって歩くなんて、ちょっと――いや、かなり怖い。

「う、わあ……」

 意を決して柵を通り抜けるとそこには紅色の蒸気機関車が停車していた。プラットホームは子どもたちとそれを見送る家族とでごった返している。

 先頭の車両は満杯だったので、空いているコンパートメントを探して後方の車両へ向かった。たくさん物を入れても重さを感じさせない悪戯仕掛け人特製トランクのお陰で、私は他の人よりも移動がスムーズだった。中には学用品のリストに書いてあるものはもちろん、彼らがくれた服や浴室に吊るしてあった魔法道具、例の手引き書に買った本など、たくさんの物を入れているのだけれど、本当に軽いのだ。もちろん、同じ機能がついているポシェットも持って来た。

 例の魔法道具を持って来たのはホグワーツで使おうと思ったからだった。この夏休みの間、お風呂に入る時は毎日魔法を掛けて夜空と森を楽しんでいたのだけれど、次の夏休みに家に帰った時にはこれを使えないことに気付いたのだ。なら、寮のベッドの中で使おうと思い立ったのである。あとはダンブルドアに見せてあげようと思ったのも持って来た理由の1つだ。見せる時間があればいいけれど。

 歩いて歩いて、ようやく最後尾の車両近くに空いているコンパートメントを見つけて、私はそこに乗り込んだ。トランクを荷物棚に詰め込み、鳥籠は座席の上に置いた。ロキはようやく喧騒から解放されてホッとしたようで、羽根の隙間に顔を入れて早速眠りの体勢に入っていた。

 ホグワーツに到着するのは夜だということは分かっていたので、私は予めポシェットの中に入れていた変身術の本を取り出してそれを読んで時間を潰すことにした。この変身術の本は2回目にダイアゴン横丁へ行った時に購入した本で、1年生の教科書には書いていないことがたくさん載っている本なのだ。

「やあ、ここ空いてるかい?」

 11時になる少し前にコンパートメントの扉が開いて、男の子が1人顔を覗かせた。私は読んでいた本にしおりを挟んで顔を上げると、

「ええ、空いてるわ」

 と答えた。顔を覗かせていた男の子はそんな私の顔を見ると「あれ、ハナじゃないか。久し振り」とにこやかに挨拶をする。顔を覗かせてきたのはフレッドとジョージのどちらかだった。うーん、多分ジョージだと思う。自信がないけれど。

「座りたいのは僕達じゃないんだけど、大丈夫かい?」
「ええ、ここは私しかいないから大丈夫よ。えーっと、貴方はジョージ?」

 私がそう言うと、ジョージは一瞬驚いた顔をしたあと、「正解」とウインクして一旦通路に戻っていった。しばらくするとジョージは、フレッドと、そして小柄な男の子と共に重そうなトランクと白ふくろうが入った鳥籠を運び込んできた。「やあ、レディ」と軽い調子で挨拶をしてくるフレッドに「こんにちは、フレッド」と挨拶をしながらも、私は男の子に釘付けだった。

「ありがとう」

 やっと鳥籠が座席の上に、トランクがコンパートメントの隅に収まる頃には男の子は汗でびっしょりだった。運び込むのを手伝ってくれたフレッドとジョージにお礼を言いながら、男の子がそんな額の汗を拭うと、

「それ、何だい?」

 フレッドが急に男の子の額を指差して言った。

「驚いたな。君は……?」

 フレッドの言葉を引き継ぐようにジョージが言った。私はそんな彼らのやりとりをただただ、座って見ていた。

「彼だ。君、違うかい?」

 また、フレッドが訊ねた。そんな彼らに男の子は「何が?」と首を傾げている。フレッドとジョージは男の子の額に釘付けになりながら、声を揃えて言った。

「「ハリー・ポッターさ」」

 これが私とハリー・ポッターの最初の出会いだった。