The ghost of Ravenclaw - 016

3. マージおばさんと夜の騎士バス

――Harry――





 ハリー、誕生日おめでとう! 元気?
 ダーズリー家に電話しようと張り切っていたのだけれど、ロンからおじさんを怒らせたと手紙が来て諦めることになったの。貴方がダーズリー一家にひどいことをされていないといいけれど(もし、されていたら私が飛んでいって吹き飛ばすわ!)。

 1週間前に日刊予言者新聞に載っていたウィーズリー一家の記事をロンから聞いたかしら? 私、新聞を読んで知ったんだけれど、とっても素敵だと思わない? あんなに素敵な家族にいいことがあって、それに、ジニーもニコニコ笑っていて、私、とっても嬉しかったの。ガリオンくじはウィーズリー一家にこそ相応しいと思ったわ。

 今日(30日だから、ハリーからしたら昨日ね)、ハーマイオニーから手紙が届いてこの夏はフランスにいるって聞いたの。フランスの魔法界はどんな感じなのかしら? アフリカに魔法学校があることは知っているんだけれど、あちらにもホグワーツのような魔法学校はあるのかとっても興味があるわ。もし、あるとしたら、どんな学校なのかしら。考えるだけでワクワクするわ!

 それから、私はいろいろと事情があって、30日から漏れ鍋に泊まっています。この夏の残りは漏れ鍋で過ごすことになりそう。実は今、イギリスの魔法界でとある事件が起こっていて……ホグワーツの先生方はその対策に追われているの。私の同居人も来年度からD.A.D.Aの新しい先生に決まって、その事件の影響でとても大変なの。それで、家に1人になってしまうから、彼は私のことを心配して漏れ鍋にいるよう勧めたのよ。彼が安心してくれるなら、私もその方がいいと思って。もし、ダーズリー一家が嫌になったら、いつでも漏れ鍋に来てね。その時は一緒にダイアゴン横丁を探検しましょう!

 ハナより 愛と友情を込めて

 追伸 パーシーがヘッドボーイだって話を貴方も聞いた? 私、ヘッドボーイっていうのはずーっと1番成績がいい人のことを言うのだと思っていたんだけれど、どうも違うみたい。そうじゃないって漏れ鍋の店主が教えてくれたの。



 魔法のバースデー・カードを気の済むまで眺めたあと、ハリーはハナの手紙を読んで驚くのと同時に羨ましくて仕方なくなった。なんと漏れ鍋に1ヶ月以上も泊まるという。今すぐ漏れ鍋に行って、ハナの言うように一緒にダイアゴン横丁を探検出来たらどんなに素晴らしいだろう。まだ入ったことのない店に行ったり、アイスクリームを食べて午後を過ごしたり……それはきっとダーズリー一家と過ごすより遥かに楽しいはずだ。

 しかし、とある事件というのはなんだろう。ハリーはもう一度ハナの手紙を読んでみたが、その事件がどんな事件なのかは一切書かれていなかった。もしかしたら手紙には書けないような事件なのかもしれない――ハリーはそう考えると、手紙を一旦脇に置き、今度は長方形の箱を取り上げた。

 箱の中にはゴーグルが1つ入っていた。中に説明書きが入っていて、「クィディッチ競技用ゴーグル――豪雨の中でも視界抜群!」と書いてある。ハリーは心躍らせながらゴーグルを手にした。ベルトは深紅の皮製で「ハリー・ポッター」と金の文字で刻印がされている。はめてみると、眼鏡の上からでも問題なく装着出来て、ハリーは試合で使用することが出来るのなら絶対にこれをつけよう、と心に決めた。

 ハリーはゴーグルを箱の中に戻すと、最後の包みに取り掛かった。取り上げてみると、茶色の包みにミミズののたくったような字が書かれていて、ハリーはこれが誰からのものなのかすぐに分かった。ホグワーツの森番、ハグリッドからである。

 外側の包みを破り取ると、何やら緑色で革のようなものがチラッと見えた。すると、包みをすべて取り去る前に、奇妙な震え方をしたかと思うと、得体の知れない中身が大きな音を立ててパクンとハリーの指を噛もうとした。まるで顎があるようである。

 ハリーはハグリッドが一体何を送ってきたのかと、一瞬身がすくむ思いがした。ハグリッドがわざと危険なものをハリーに送ってくるはずはないと思いたかったが、ハグリッドには巨大蜘蛛と友達だったり、凶暴な三頭犬を誰かから買ったり、違法なドラゴンの卵を小屋に持ち込んで孵化させた前歴があった。わざとでなくても危険なものを送ってくる可能性は十分に有り得た。

 もう一度包みを突いてみると、またもや得体の知れない何かがハリーを噛もうとした。ハリーはベッドの脇にあるスタンドに手を伸ばすと、それを片手にしっかりと握り締め、臨戦態勢を整えた。それから、意を決してもう片方の手で包みを掴み、剥ぎ取った。

 中から出てきたのは、本だった。スマートな緑の表紙に鮮やかな金の飾り文字で、『怪物的な怪物の本』と書いてあったように思うが、それをしっかり確認する前にその本は背表紙を上にしてヒョイっと立ち上がると、ベッドの上をガサガサ横這いに動いた。それはまさに奇妙な蟹のようである。

「う、ワ」

 ハリーは声を殺して叫んだ。その間にも本はシャカシャカと移動して、ベッドから転がり落ちたかと思うと、部屋の向こうに猛スピードで移動して行き、机の下の暗がりに隠れた。ハリーは、ダーズリー一家が熟睡していることを祈りながら、音を立てずに追いかけると四つん這いになって本の方に手を伸ばした。

「アイタッ!」

 本が噛み付いてきて、捕まるまいとして部屋の中をまたシャカシャカと走った。しかし、この怪物の本をそのままにしておくわけにはいかない――ハリーは部屋の中を追いかけ回した末、ようやくスライディングして本を押さえつけることに成功した。その瞬間、隣の部屋でバーノンおじさんが大きく呻いて、ハリーはドキリとした。

 これ以上騒ぎを起こさないよう気を付けながら、ハリーは暴れる本を両腕でがっちり締めつけ、急いで箪笥の中からベルトを引っ張り出して巻きつけた。そして、しっかりとバックルを締める様子を、ヘドウィグとロキ、エロールがしげしげと見ていた。怪物の本は怒ったように身を震わせたが、もうバタバタ暴れて噛み付くことは出来なかった。

 そうしてようやく落ち着いて、ハリーはハグリッドの手紙を読むことが出来たのだけれど、手紙にはなんとこの大暴れする本が「来年度役に立つ」と書いてあった。ハリーは噛み付いて大暴れする本が役に立つなんて、なんだか碌なことにならない気がしたが、ハグリッドやロン、ハーマイオニー、ハナのカードを並べて立てながら、ますますニッコリした。ハリーにとって、13歳の誕生日の始まりは、間違いなく、最高のものになったのだった。