The ghost of Ravenclaw - 013

2. アズカバンの脱獄囚



 ダンブルドア先生とリーマスとの話し合いは遅くまで続き、私達は主にこれから先の対応を話し合った。まず、リーマスに関してだけれど、真実薬を飲んだことで魔法省からの疑いは一旦逃れることとなった。魔法省も今回はしっかりと捜査をしているというていを示すことが出来れば良かったのだろう。しかしながら、教師として働くには今後も身の潔白が証明されなければならない。なのでリーマスは明日からホグワーツで寝泊まりしなければならないとのことだった。

 一番の懸念材料だったスネイプ先生は、シリウスが脱獄したと知り、リーマスが教鞭を取ることにますます反対したそうだけれど、ダンブルドア先生がどうにか話をつけて「9月1日以降であれば仕方なく脱狼薬を作る」と約束してくれたそうだ。けれどもスネイプ先生は完全にリーマスを信じているわけではないので、彼はいつかシリウスに手を貸すのではないか、と今後もリーマスを疑い続けるだろう。リーマスもそれを分かってはいたが、こうして職があり、脱狼薬を作ってくれるだけで十分有難い事だと話し、私がシリウスの件を伝えずに推薦したことも怒っていないと言ってくれた。

 そういうわけで私は明日からメアリルボーンの自宅に1人で過ごすこととなる――訳がなく、漏れ鍋で過ごすことになった。リーマスが私を1人にするのをひどく嫌がり、せめて多くの魔法使いがいる場所で過ごしてくれと懇願したからだ。もしかしたらシリウスが私まで狙うのではないかとか、私が1人でシリウスを探しに行ってしまうのではないかとか悪いことばかり考えているのかもしれない。

 この他にもシリウスの捜索に当たる逮捕任務部隊が結成されたことや、ハリーには護衛がこっそりつけられることなどをダンブルドア先生が教えてくれた。ホグワーツでも明日から本格的に魔法省と協議に入り、警備を強化せざるを得ないだろうとのことだった。因みに魔法省には私の件は伏せられているので、当然のことながら護衛はつかないそうだ。

 ダンブルドア先生は私にこの夏が終われば、信用出来る人物には自分のタイミングで秘密を明かしていいと言ってくれたけれど、ダンブルドア先生は夏が終わっても魔法省に私のことは言わないと話していた。もしかすると、ダンブルドア先生にとって魔法省は信用出来るものではないのかもしれない。

 シリウスの再逮捕にあたる逮捕任務部隊のメンバーは、ルーファス・スクリムジョールが局長を務めている魔法省魔法法執行部闇祓い局の闇祓いオーラーで構成されていた。統率するのはキングズリー・シャックルボルトである。魔法法執行部には他にも魔法警察部隊というものが存在するけれど、こちらは通常の犯罪に対する捜索と逮捕が主な仕事で、凶悪な犯罪に関しては闇祓いオーラー達が動くのだ。

 今回闇祓いオーラーが動いているのも、魔法省がシリウスを凶悪な犯罪者だと考えているに他ならなかった。シリウスが未だかつて脱獄者がいなかったアズカバンを脱獄したので、何か特別な力をヴォルデモートから授かっていてそれを使って脱獄したのでは、と魔法省は考えているのだ。そんな恐ろしい力を秘めた犯罪者には闇祓いオーラーが対処すべきだ、という訳である。因みに12年前にシリウスを捕まえたのも彼らだそうだ。

「さあ、ハナ、遅くなったけど夕食にしよう」

 話し合いが終わり、ダンブルドア先生が帰宅したのは夜の10時を過ぎたころだった。すっかり忘れてしまっていたが私達は何も食べずにいたのでお腹がぺこぺこで、作っていたカレーを温め直して食べることになった。いつもなら楽しく会話をしながら食べる夕食は、この日ばかりは言葉少なで、静かなものだった。

 夕食のあとはそれぞれ荷造りに取り掛かった。明日の朝には私もリーマスもこの家を出なければならなかったので、大急ぎで荷造りをする必要があったのだ。部屋の隅で一体何事だとこちらを見ているロキに「明日漏れ鍋に集合よ」と言い聞かせて、一足先に飛び立たせると、トランクに検知不可能拡大呪文が掛けられているのをいいことに、必要なものを片っ端から詰め込んだ。

 最後に残ったのは以前はリビングの暖炉の上に飾られていたジェームズやシリウス、リーマスと撮った写真だった。去年、フレッドとジョージが我が家に現れるようになったので、私の部屋に移しておいたものだ。私は置いていこうかどうしようか迷いに迷って、それをそっとポシェットの中に入れた。きっと、今年のクリスマスには帰って来られないだろうから――。


 *


「ハナ、漏れ鍋とダイアゴン横丁以外へは行ってはいけない。この家にも僅かな時間だろうと戻ってきてはいけない――来訪者探知機が君に悪意のある人物を探知してくれるとはいえ、1人では危険だからね」

 翌朝――私達は寝不足のままリビングに集まっていた。満月も近い上、寝不足にシリウスの脱獄、真実薬と続いたリーマスの顔色は最悪である。本来なら明日、ゴドリックの谷へ行きジェームズとリリーの墓参りをする予定だったのだけれど、今年はこんな状況なので中止するしかないだろう。

「大丈夫よ、リーマス。私、ちゃんと漏れ鍋とダイアゴン横丁で過ごすわ」

 リビングの暖炉の前に立ち、私がそう返事をするとリーマスは何度か頷きつつも、まだ安心出来ないという顔をしていた。私が毎年トラブルに自ら首を突っ込むので疑っているのだろう。リーマスは私の返事を聞いてもまだ忠告が足りないと思ったのか、もう一度「絶対に大人しくしているように」と釘を刺した。

「手紙を必ず書くように。私も出来るだけ手紙を書くよ。それから、君とゴドリックの谷へ行けなくて残念だ――」
「仕方ないわ。それに、ジェームズとリリーは逃げないもの。落ち着いたら改めて行きましょう」
「ああ、そうだね。そうしよう」

 私達は昨日私が正にこのリビングでシリウスとしたように、ぎゅっとハグをした。それからリーマスの背中に手を回すと、ポンポンと背中を軽く叩きながら、「私は大丈夫よ、リーマス。もし仮に・・・・シリウスが襲って来たらメッタメタのギッタギタにしてやるわ」と言った。するとリーマスは笑っているのか怒っているのか分からない、微妙な顔をした。

「ハナ、くれぐれも――」
「自分からは探しに行かない。分かってるわ。シリウスが向かってきたら、の話よ」

 リーマスは漏れ鍋まで見送りたかったようだけれど、このままホグワーツへ行くことになっていたのでここでお別れだった。念のため、あまりあちこち行かない方が良いだろうと話し合ったのだ。けれどもせめて見送りたいというので、私が先に煙突飛行で漏れ鍋に向かうことになった。リーマスは私が行ったあと、姿くらましする予定である。

「それじゃあ、リーマス。また9月1日に会いましょう」
「ああ。君が大人しくしてることを祈るよ」

 こうしてメアリルボーンでの夏は、1ヶ月も経たないうちに終わりを告げたのだった。