The symbol of courage - 008
1. メアリルボーンの目覚め
黒ふくろうはロキと名付けることにした。名前の由来は北欧神話に登場する悪戯好きの神様だ。私を知己と呼んでくれた彼らに敬意を表して、そう呼ぶことにしたのだ。黒ふくろうも満更ではないらしく、名前を呼ぶとご機嫌だった。
「さて」
ダイアゴン横丁から帰宅した私は買ったばかりの杖を握り締め、リビングであの真っ新な羊皮紙と睨めっこしていた。前にジェームズ達がホグワーツの外では魔法を使ってはいけない、と言っていたけれど、『賢者の石』を途中まで読んでいる私は知っているのだ。ホグワーツきっての才女、ハーマイオニーが入学前にあらゆる魔法を試してお咎めがなかったことを。つまり、ホグワーツ入学前なら魔法を使ってもお咎めがない、と言うことだ。
「我、ここに誓う。我、よからぬことを企む者なり」
真っ直ぐに杖の先を羊皮紙に向けて呪文を唱えると、思った通り、羊皮紙にはみるみるうちに文字が浮かび上がってきた。けれど浮かび上がってきた文字は想像していたものとは全く違うものだった。
我らが知己、レイブンクローの幽霊に捧ぐ
プロングズ、パッドフット特製
現れた文字に私はギョッとした。まさか、こんなものを私に残しているだなんて思いもしなかったのだ。中を見ると絵や文字がぎっしり詰まっている。冒頭はこうだ。
まず初めに、多くの魔法はアフリカに起源を持つということを忘れてはならない。我々はそのことに気付くまでに膨大な時間を要した。
アフリカにある最も国際的な評価を得ている魔法学校に『ワガドゥー』がある。その魔法学校の卒業生達は、天文学、錬金術、変身術――特に自己変身術――に精通している。何故自己変身術が得意なのか。それはヨーロッパで杖が発明される以前、アフリカの魔法使いや魔女達は手や指の動きだけで魔法を使っていたからに他ならない。
自己変身術の中で最も難しいとされる
そこから
とっても重大なものを貰ってしまった。私はドキドキしながら羊皮紙に杖を向け「悪戯完了」と唱えた。姿くらましとか分からない単語もあったけど、それは追々勉強していけばいいだろう。それより、これはなくさないように大事に持っておかなければならない。私は真っ新に戻った羊皮紙を、寝室のクローゼットの中にあるホグワーツのトランクの中に仕舞った。
「これだけじゃないわ。残り1つを試してみないと」
さて、羊皮紙の次は浴室にある魔法道具である。杖を握り、腕まくりしながら浴室に向かうと私は改めてそこにぶら下がっている魔法道具を眺めた。とても奇妙でそれでいて綺麗な魔法道具だった。真鍮製の丸い球体で、所々に星型の穴が空いている。
私は添えられていたメモをしっかりと確認してからその魔法道具に杖を向けた。一度深呼吸をして、そして、
「
はっきりとした口調で唱えた。
すると、真鍮製の球体から夜空が生まれた。小さな浴室の天井は深い青の
「素敵……」
それは、言葉にならないほど幻想的で素晴らしい光景だった。これをいつかハリーに見せることが出来たらどんなに素敵だろうと思った。ジェームズが残してくれたあのリリーへの愛が溢れた自伝小説並みの手紙も、テレビへの悪戯も、その全てをハリーに見せてあげられたらどんなに素晴らしいか。いつか、私は貴方の父親の友達だったのだと伝えられたら、どんなにいいか。
私はその美しい魔法が解けるまで、飽きることなくずっと見つめていた。