Blank Days - 007

ポッター家

――Remus――



 僕達がホグワーツに入学してからというもの、夏休みに入って早々に母親と大喧嘩してジェームズの家に世話になるのが、シリウスの常だった。そこからシリウスは夏休みのほとんどをポッター家で過ごして、ホグワーツへと向かう。僕は狼人間なこともあって、夏のほとんどをジェームズの家で過ごすなんてことは出来なかったけれど、毎年8月の満月が終わって1週間程度、泊まりに行っていた。ピーターは狼人間ではなかったものの、毎年泊まる時期は僕と同じだった。

 しかし、5年生の終わりの夏休みはいつもと違っていた。ハナの家に忍び込む計画があってので、僕はピーターに内緒で7月の満月の翌々日にもジェームズの家に泊まりに行くことになっていたからだ。本当はピーターにも話せたらどんなにいいかと思うのだけれど、ダンブルドアと約束をしているからこればかりは仕方がない。話したくても話せないのだ。

「家出した?」

 そんなわけで7月の満月の翌々日に僕は煙突飛行でポッター家にやってきたのだが、そこには更なるいつもと違うことが待ち受けていた。なんと、シリウスが遂に家出をしたと言う。

「いつもの家出じゃないぞ。今回は本気だ。僕はもう二度とあの家には戻らないと決めて家を出てきたんだ」

 ポッター夫妻に挨拶を済ませ、ジェームズの部屋に入るなり家出の件をカミングアウトしたシリウスは、どこか深刻そうな表情で話した。

「リーマス、スリザリンにシリウスの弟がいるだろう? レギュラス――あいつが、ハナのことを探っているらしいんだ。屋敷しもべ妖精ハウス・エルフのクリーチャーに開心術を使わせた可能性がある。それでシリウスは慌てて家を出てきたんだ。ハナの秘密がこれ以上バレないように」

 ジェームズも渋い表情で言う。

「父さんと母さんには大喧嘩してもう戻りたくないと説明してるから、リーマスも話を合わせてくれ」
「もちろんさ。でも、どうしてレギュラスがまたハナのことを……」

 もしかして、スネイプがレギュラスに話をしたのかと思ったが、どうやらそれは違うようだった。レギュラスは4年前、シリウスがハナと図書室で話をしているのを見ていたのだと言う。しかもそれはハナがシリウスに違う世界からやってきたことを打ち明けた日でもあった。

「そこからずっと探っていたのか、スネイプと連絡を取り合っていたのかは分からない……本当にクリーチャーに開心術を使わせたのかどうかも分からない……ただ、あいつは例のあの人に心酔しているから、もし僕の記憶が読まれていたとしたら、洗いざらい話すかもしれない」

 シリウスは自分がハナの人生を滅茶苦茶にするのではないか、と思っているようだった。もし、レギュラスが図書室でのシリウスとハナの話を最初から最後まで聞いていたとしたら? もし、心を全部読まれたとしたら? もし、例のあの人に報告したら? そう考えると居ても立っても居られなくて、シリウスは家を飛び出してしまったのだろう。

「でも、実はほとんど何も得ることが出来なかったかもしれない。そうだろ?」

 シリウスを励ますようにジェームズが言った。

「それで、この数日話し合っていたんだけれど、僕達は閉心術の訓練に入るべきだと思う。動物もどきアニメーガスに代わる次の課題さ」
「僕達だけでかい?」
「もちろん。だって、ダンブルドアに訓練なんか頼めないじゃないか。僕達、見られちゃまずい記憶だらけなんだから」

 僕はジェームズの言葉に「確かに」と頷かざるをえなかった。ダンブルドアの好意でホグワーツに入学させて貰ったにもかかわらず、僕はダンブルドアには話せないことばかりだった。

「あとは、閉心術もそうだけど、スリザリン避けの魔法を本格的に開発しくちゃならないだろうって話してたんだ。それから、他にも魔法道具か何かがあった方がいいかもしれない。いざって時ハナが危険を察知したり出来る何か――これから忙しいぞ」

 ジェームズはそう言って、ニヤッと笑った。多くの場合、彼は歩くトラブルメーカーと言わざるを得なかったけれど、こういう時、1番頼りになるのは不思議とジェームズだった。みんなを明るい方へ引っ張って行く不思議な力があるのだ。

「僕達がすべきことは、全てやろう」

 どうしてたった数回会っただけの女の子にここまでしようと思えるのか、きっと僕達の中の誰も上手く説明が出来ないだろう。けれども会った回数が全てではないのだ。それに、友達を助けたいと思う感情に理由なんて必要ない。そして、

「我らが知己のために」

 涙で別れた友達の笑顔をもう一度見たいと思う感情にも――。