Side Story - 1992年04月

ノーバート・6

――Harry――



 翌朝、たった一晩で150点もグリフィンドールから減点されたニュースは誰もが知ることとなった。みんながどうして150点も減ってるのかとあちらこちらで見受けられ、ハリーもハーマイオニーもネビルもなるべく小さくなりながら、大広間へ向かった。

 しかし、ハリー達が150点も減点した犯人だということは早々に知れ渡った。誰も彼もがハリーを見てはヒソヒソ話していたし、朝食を食べに大広間へ向かう際にはフレッドとジョージがハリーのことをハナに話しているのも見てしまった。

「ハリー達さ」
「夜中に抜け出したらしいな」

 ハリーはそれを目撃した時、胃が捩れる思いがした。ドラゴンの件はハナに何も話していない。もし、ハナが他の生徒達と同じようにハリー達がバカな真似をして点数を減らしただけだと思ったらどうしようと気が気ではなかったのだ。

 現にハリーは一晩にしてホグワーツ中の嫌われ者になってしまっていた。レイブンクロー生やハッフルパフ生までもがハリーの敵に回り、まさに針の筵状態だった。ここ最近は毎年寮対抗杯をスリザリンに取られていたので、今年こそ他の寮が寮杯を奪ってくれるんじゃないかとみんな楽しみにしていたのだ。

 どこへ行ってもみんながハリーを指差して、おおっぴらに悪口を言い、スリザリン生はハリーが通るたびに拍手をして囃し立て、「ポッター、ありがとよ。借りが出来たぜ!」と言った。

 けれどもハリーの心配を他所に、ハナはハリーの味方だった。ハリーとすれ違っても普通に接してくれたし、ハリー達が単なる悪ふざけで点数を減らしたわけではないと信じてくれていた。夜中に出歩いていたのには、何か理由があると考えてくれたのだ。

 それにロンもハリーの味方だった。ロンはなんとかハリーを励まそうとしてフレッドとジョージがホグワーツに入学してからずーっと点数を引かれっぱなしなことを持ち出したが、これはあまり効果がなかった。フレッドとジョージですら、1回で50点も引かれたりはしなかったからだ。

 ハリーはもう二度と関係のないことに首を突っ込むのはやめようと心に誓った。コソコソ余計なことを嗅ぎ回り挙句の果てにみんなの嫌われ者になるなんてもうたくさんだ、と思ったのだ。そこで、決意を新たにしたハリーは自分のいままでの行動に責任を感じ、ウッドにチームを辞めさせて欲しいと申し出た。

「辞める?」

 しかし、ウッドは首を縦には降らなかった。

「それがなんになる? クィディッチで勝たなければ、どうやって寮の点を取り戻せるんだ?」

 しかし、大好きだったクィディッチでさえ楽しくはなかった。練習中、他の選手はハリーに話しかけようともしなかったし、どうしてもハリーと話をしなければならない時でも「シーカー」としか呼ばくなったからだ。これでクィディッチを楽しめという方が無理な話だった。

 ハーマイオニーとネビルも似たような状況だった。ただ、2人は有名ではなかったおかげで、ハリーほど辛い目には会っていなかった。それでも誰も2人に話し掛けようとはしなくなり、ハーマイオニーは教室で注目を引くのをやめ、俯いたまま黙々と勉強するようになった。

 ハリーには試験の日が近付いていることがかえって嬉しかった。試験勉強に没頭していれば、その間は惨めな気分を思い出さずに済むからだ。しかし、それと同時にハナに会いにいく時間がほとんどなくなってしまったことをハリーは申し訳なく思っていた。唯一の救いは、スネイプがまだハナを狙う気配を見せていないことだった。

 そうして日々を過ごし、学年末試験まであと1週間となると、関係のないことにはもう絶対首を突っ込まない、というハリーの決心が試される事件が突然持ち上がった。その日の午後、図書館から帰る途中、教室から誰かのメソメソ声が聞こえてきたのだ。近寄ってみるとなんと、それはクィレルの声だった。

「ダメです……ダメ……もうどうぞお許しを……」

 クィレルは誰かに脅されているようだった。啜り泣くような声が廊下まで漏れ聞こえている。ハリーは首を突っ込まないという決心をうっかり忘れ、そっと近付いてみた。

「分かりました……分かりましたよ……」

 次の瞬間、クィレルが曲がったターバンを直しながら、教室から急ぎ足で出てきた。蒼白な顔をして、今にも泣き出しそうだ。足早に行ってしまったので、幸いにもハリーには気付かなかったようだった。

 ハリーはクィレルの足音が聞こえなくなるのを待ってから、慎重に教室を覗いた。しかし、そこには誰もいない。けれども、反対側の扉が少し開いたままになっていることにハリーはすぐに気付いた。そうして、関わり合いにならないという決心を思い出した時には、ハリーはもうその扉に向かっていた。

 扉の向こうには誰もいなかった。しかし、たった今この扉から出て行ったのはスネイプに違いないとハリーは思った。そして、今聞いたことを考えると、スネイプは間違いなくウキウキとした足取りで歩いていることだろう。遂にクィレルを降参させることが出来たのだから。

 ハリーは大急ぎで来た道を引き戻して図書室に戻ると、まだ勉強中だったハーマイオニーとロンに先程見聞きしたことを話して聞かせた。2人もハリーと同じようにスネイプがとうとうクィレルを降参させ、クィレルが賢者の石を守るために仕掛けた魔法を破る方法を知ってしまったと思ったようだった。

 しかし、賢者の石に辿り着くにはまず、フラッフィーを攻略しなければならない。これはハグリッドが自分とダンブルドアしか知らないと言っていたので、スネイプはまだ知らないかもしれない。けれども、図書室には何千冊もの本があるので、スネイプがその中からフラッフィーの突破方法を探し出したとしても不思議ではなかった。

「これだけの本がありゃ、どっかに三頭犬を突破する方法だって書いてあるよ。どうする? ハリー」

 ロンは再び冒険心が蘇って来たように期待の眼差しでハリーを見たが、ハリーよりも素早くハーマイオニーが答えた。

「ダンブルドアのところへ行くのよ。ずーっと前からそうしなくちゃいけなかったのよ。自分達だけで何とかしようとしたら、今度こそ退学になるわよ」
「だけど、証拠はなんにもないんだ!」

 今度はハリーが言った。

「クィレルは怖気づいて、僕たちを助けてはくれない。スネイプは、ハロウィーンの時トロールがどうやって入ってきたのか知らないって言い張るだろうし、あの時4階になんて行かなかったってスネイプが言えばそれでおしまいさ……みんなどっちの言うことを信じると思う? 僕達がスネイプを嫌ってるってことは誰だって知っているし、ダンブルドアだって僕達がスネイプをクビにするために作り話をしてると思うだろう。フィルチはどんなことがあっても、僕達を助けたりしないよ。スネイプとべったりの仲だし、生徒が追い出されて少なくなればなるほどいいって思うだろうよ。もう1つおまけに、僕達は石のこともフラッフィーのことも知らないはずなんだ。これは説明しようがないだろう」

 これにはハーマイオニーも納得した様子だったが、ロンだけは粘った。

「ちょっとだけ探りを入れてみたらどうかな……」
「ダメだ。僕達、もう十分に探りを入れすぎてる」

 結局ハリー達はダンブルドアにこのことを報告しなかった。スネイプが賢者の石だけではなく、ハナのことも狙っているのは分かっていたが、これも誰も信じて貰えないだろうとハリーは思っていた。先生が生徒を狙っているなんて、バカバカしい嘘だと思われるに違いない――。

 そして翌朝、そんなハリーの元にマクゴナガル先生から罰則の手紙が届いたのだった。


[追記]
この話は第2章38話から39話の間のお話です。
この続きは39話からどうぞ!