Side Story - 1992年04月

ノーバート・4

――Harry――



 禁じられた森でスネイプとクィレルの話を盗み聞きして以降、毎日ハナの元へ通い異常がないか確認するのがハリー達の日課となっていたが、ドラゴンが生まれてからというもの出来ず終いになっていた。というのも、ハグリッドの説得の方が忙しかったからだ。走り去っていくマルフォイを目撃してからというもの、マルフォイがずっと薄ら笑いを浮かべているのでなんとかバレる前にドラゴンを手放して貰いたかったのだ。

 しかし、この説得がなかなか上手くいかなかった。「外に放せば? 自由にしてあげれば?」とハリー達が何度促しても、ハグリッドは「そんなことは出来ん。こんなにちっちゃいんだ。死んじまう」と頑なに首を縦に振ろうとしないのだ。そんなハグリッド曰くちっちゃな・・・・・ドラゴンはたった1週間の間に3倍くらいに成長していたので、ハリーにはハグリッドの目がおかしくなっているとしか思えなかった。

 しかも、ハグリッドはドラゴンの面倒を見るのに忙しくて、家畜の世話の仕事をろくにしていなかった。小屋の中にはブランデーの空き瓶や鶏の羽がそこら中に散らかっていたし、ドラゴンはドラゴンで鼻の穴からしょっちゅう煙を噴出していたので、ハリー達はいつ小屋が燃えるかとヒヤヒヤした。

「この子をノーバートと呼ぶことにしたんだ」

 ドラゴンをうっとりと見つめながらハグリッドが言った。

「もう俺がはっきり分かるらしいよ。見ててごらん。ノーバートや、ノーバート! ママちゃんはどこ?」

 そんなハグリッドを見て、ロンが「狂ってるぜ」とハリーに囁いたがハリーもまったく同意見だった。しかし、そんなことを言っていてもハグリッドはドラゴンを手放してはくれない――一体どうやったらこの状態のハグリッドを説得出来るのだろう――ハリーは頭を悩ませながらも再度説得を試みた。

「ハグリッド、2週間もしたら、ノーバートはこの家ぐらいに大きくなるんだよ。マルフォイがいつダンブルドアに言いつけるか分からないよ」

 うっとりしているハグリッドに聞こえるように大声でハリーがそう言うと、ハグリッドは少しだけ現実に戻ってきたようだった。「そ、そりゃ……俺もずっと飼っておけんぐらいのことは分かっとる。だけんどほっぽり出すなんてことは出来ん。どうしても出来ん」とハグリッドは唇を噛んだ。その時だ。

「チャーリー!」

 ハリーはピーンと閃いてロンに向かって叫んだ。

「チャーリーだ、君のお兄さんのチャーリー。ルーマニアでドラゴンの研究をしている――チャーリーにノーバートを預ければいい。面倒を見て、自然に帰してくれるよ」

 これ以上ないというほどの名案だった。これにはハグリッドも納得せざるを得なかったようだった。渋々ながらもハグリッドはとうとう、チャーリーに頼みたいというふくろう便を送ることに同意したのだった。


 *


 チャーリーにふくろう便を送ったはいいものの、いくらヘドウィグでもイギリスとルーマニア間の往復は時間が掛かるようだった。手紙の返事はまだかまだかと待ちながら、次の週はのろのろと過ぎた。しかし、時折廊下でハナとばったり出くわすので、ハリー達はその度に「なんでもない」と誤魔化さなければならなかった。ハナがハリー達の様子がおかしい訳を聞き出そうとするからだ。

「貴方達、最近何かあったの……?」

 ハナは心配そうにハリー達を見て言った。

「なんでもないよ。なんにもない」
「ハナ、私達、あー、その、テストの勉強を始めたの」

 ハーマイオニーの言葉にハリーとロンは全くその通りだ、という顔を取り繕った。それに、ハーマイオニーがずーっと先に行われる試験の勉強を始めたことは強ち嘘ではなかった。

「もうテストの勉強を始めたの?」
「ええ、そうなの。それで、毎日談話室で勉強をしていて――今日も授業が終わったらすぐに戻るの」
「そう。何もないならいいのよ。勉強頑張って」
 
 ハナはハリー達の様子がおかしいのは本当にそれだけではないと分かっているようだったが、それ以上深くは追求してこなかった。けれども、ハリー達が「なんでもない」と答えるたびにハナが一瞬悲しそうな顔をするのがハリーは心苦しかった。仲間外れにされていると思っているのかもしれない。それでも、スネイプに狙われているハナのことを考えると、ドラゴンの件に巻き込むのははばかられた。

「ハナ、絶対怪しんでるわ」

 ハナと別れるとハーマイオニーが声を潜めながら不安気に言った。そんなハーマイオニーに「何を今更」という顔をしてロンが答えた。

「そりゃそうさ。僕達、不自然過ぎる。頻繁に会いに行ったと思ったら、今度は会いに行かなくなるんだから」
「なら、どうしたら良かったっていうの? ねぇ、ドラゴンの件だけでもハナに相談しましょうよ、ハリー」
「ダメだ。ハナは寮が違うし、僕達に合わせて寮を出入りしてたらそれこそスネイプに狙われやすくなる。僕達、チャーリーからの手紙を待たなくちゃ」

 チャーリーからの手紙は水曜日の夜に届いた。手紙には「喜んでノーバートを引き受けるよ」と書いてあり、ハリー達はホッと胸を撫で下ろした。一番心配だった、ルーマニアまでノーバートを運ぶ方法も、チャーリーを訪ねてルーマニアに向かう友達に任せることで解決出来そうだった。唯一大変なのは一番高い塔にノーバートを連れて行くことだったが、ハリーには透明マントがある。

「できなくはないよ……僕ともう一人とノーバートぐらいなら隠せるんじゃないかな?」

 しかし、いいことばかりではなかった。なんとこの日の夜、ロンがノーバートに噛まれてしまったのだから――。