Side Story - 1992年04月

ノーバート・2

――Harry――



 ハグリッドと図書室で会ってから1時間後――ハリー、ロン、ハーマイオニーは3人でハグリッドの小屋へと向かうことになった。図書室を出る直前、分厚い本を何冊も抱えて奥の方へと向かっているハナを見つけたので、ハリーはハナもハグリッドの小屋へと誘おうかと思ったが、それはやめることにした。ハーマイオニーが止めたのだ。

「ハリー、私達、賢者の石のことにこれ以上ハナを関わらせるべきではないわ」

 そういうわけでハリーは3人でハグリッドの小屋へとやってきたのだけれど、こんなにいい天気だというのにハグリッドの小屋はカーテンがぴっちり閉められていた。先程の図書室でもそうだったが、今日のハグリッドはどうも様子がおかしい。カーテン意外にも、ハリーが扉を叩くとなぜか必要以上に周りを警戒していたし、もうそれほど寒い時期ではないのに中では暖炉の炎が轟々と上がっていて、窒息しそうなほど暑かったからだ。

「それで、お前さん、何か聞きたいんだったな?」

 ハグリッドが3人にお茶を淹れながら言った。3人は他にもイタチの肉が挟んであるサンドイッチも勧められたが、そちらは遠慮することにした。

「ウン。フラッフィー以外に『賢者の石』を守っているのは何か、ハグリッドに教えてもらえたらなと思って」

 お茶だけを受け取りながら、ハリーが答えた。単刀直入に聞いてみようという作戦だったが、どうやらこれは失敗だったようだった。ハグリッドはすぐに顔をしかめて、「もちろんそんなことは出来ん」とはっきりと言った。

「まず第一、俺自身が知らん。第二に、お前さんたちはもう知りすぎておる。だから俺が知ってたとしても言わん。石がここにあるのにはそれなりのわけがあるんだ。グリンゴッツから盗まれそうになってなあ――もうすでにそれも気付いておるだろうが。大体フラッフィーのことも、一体どうしてお前さんたちに知られてしまったのか分からんなぁ」

 ハリーは今回ばかりは教えてもらえないのだろうかとガッカリした気分だったが、そこでハーマイオニーが次の作戦を思いついたようだった。

「ねえ、ハグリッド。私達に言いたくないだけでしょう。でも、絶対知ってるのよね。だって、ここで起きてることで貴方の知らないことなんかないんですもの」

 ハーマイオニーはおだてる作戦に出たのだ。優しい声で話し掛けると、効果覿面てきめんで、ハグリッドの髭がピクピクと動いて口元がニッコリと弧を描いたのが分かった。

「私達、石が盗まれないように、誰が、どうやって守りを固めたのかなぁって考えてるだけなのよ。ダンブルドアが信頼して助けを借りるのは誰かしらね。ハグリッド以外に」

 更に追い討ちをかけると、ハグリッドは「それくらいなら言ってもかわまんだろう」と言って遂に誰が守りを固めたのか話し出した。まずはハグリッドのフラッフィー。そして、スプラウト先生やフリットウィック先生、マクゴナガル先生と何人かの先生が魔法の罠を掛けたらしい。ハグリッドは指を折って先生の名前を挙げている。しかし、

「それからクィレル先生、もちろんダンブルドア先生もちょっと細工したし、待てよ、誰か忘れておるな。そうそう、スネイプ先生」

 最後に意外な名前が出てハリー達はビックリして思わず声を上げた。

「スネイプだって?」
「ああ、そうだ。まだあのことにこだわっておるのか?」

 驚いて声を上げたハリー達にハグリッドが言った。ハグリッドは前にフラッフィーのことやニコラス・フラメルの件について口を滑らせた時、ハリー達が「スネイプが盗もうとしている」と言ったことを覚えていたのだろう。あの時も「お前さん達が間違っとる!」と言って聞き入れてくれなかったが、ハグリッドは未だにその考えを変えていないようだった。

「スネイプは石を守る方の手助けをしたんだ。盗もうとするはずがない」

 しかし、ハリーには新たに分かったことがあった。それは、他の先生達がどんなやり方で守ろうとしたのか、スネイプは簡単に知ることが出来た、ということだ。しかし、クィレルの呪文とフラッフィーの出し抜き方は分からなかった――だから、スネイプはあの日、森にクィレルを呼び出したのだ。

 そして、スネイプはクィレルがハナのことについても何か知っているのではないかと考えていた。それはクィレルがハナのことを気にしていたからだ。きっと、クィレルはスネイプがハナを狙っていると随分前から気付いていて、ハナを気に掛けていたに違いないとハリーは思った。

「ハグリッドだけがフラッフィーを大人しくさせられるんだよね? 誰にも教えたりはしないよね? たとえ先生にだって」

 フラッフィーの出し抜き方を知られてしまっては賢者の石どころかハナにも危険が迫ってくるかもしれない。不安になってハリーが訊ねると、ハグリッドはダンブルドア以外は誰一人として知らない、と断言した。

「そう、それなら一安心だ」

 これでしばらくはハナも賢者の石も安全だろう。ハリーはホッと胸を撫で下ろすと、緊張が解けたからか、急にまた部屋の暑さが気になって来た。気が付けばハリーもロンもハーマイオニーも汗だくで、今にも茹ってしまいそうになっていた。

「ハグリッド、窓を開けてもいい? 茹だっちゃうよ」

 しかし、ハグリッドは窓を開けることを許してはくれなかった。何かを気にするように暖炉の方をチラリと見ている。ハリーは一体何を見ているのだろうかと、自分も暖炉の方に視線を移した。するとそこには、

「ハグリッド――あれは何?」

 炎の真ん中、やかんの下に大きな黒い卵が置いてあったのだった。