The symbol of courage - 006

1. メアリルボーンの目覚め



 魔法界の銀行はグリンゴッツ魔法銀行というのが正式名称だった。周りのお店に比べたらとっても大きな建物で、ここにはたくさんの小鬼ゴブリンが働いていて、地下にはたくさんの金庫があるらしい。その地下の金庫にトロッコで向かうのだけど、これがジェットコースターのようでとにかく最高だった。何を隠そう私は絶叫系のアトラクションが大好きなのである。トロッコにだけ乗りにここに来たいとすら思った。

 私の金庫の番号は777番だった。ラッキー7! とちょっぴり嬉しくなったのは内緒だ。扉を開けると中には金貨や銀貨、銅貨が山積みになっていて、あんな大金が入った金庫の鍵をポンッと渡してしまうダンブルドアはなんて大金持ちなんだろうと思った。あれの他にも金庫を持っているってことだろうから、ダンブルドアのメインの金庫にはあれ以上にたくさん詰まっているのかもしれない。

 無事にお金を取り出し、一部はマグルのお金に換金もしたあとは、まず真っ先に郵便局へと向かった。郵便局は当然マグルの郵便局とは全く違って、高い天井にある止まり木に200羽以上のふくろうがいて、色も大きさも様々だった。郵便局員の人の話では、届ける速さや距離によってふくろうが違うらしい。私は事前に書いていたダンブルドア宛の手紙に、金庫のお礼とトロッコが面白かったと追記してから、手紙を速達で届けて貰うことにした。もちろん、手紙の内容は他の人に見られてもいいように直接的な内容は避けているけれど、ダンブルドアが読んだらすぐに気付いてくれるだろう。

 ダンブルドアへの手紙も出し終えたら、いよいよ学用品の買い物だ。通りの隅で入学許可証に同封されていた学用品のリストを見ながら、何をどこで買えばいいのか本に書かれてあったことをなんとか思い出そうとした。

「制服は確かマダム ・マルキンで、教科書はフローリッシュ・アンド・なんとか書店……」
フローリシュ・・・・・・・アンド・ブロッツ書店さ」
「そうそう、そんななま……え?」
「やあ、小さなレディ。また会ったね」
「何かお困りかな?」

 学用品リストを見て考え込んでいたからか、それとも彼らがあまりに自然に話し掛けてきたからか、一瞬こちらも反射的に返事をしてしまったが、確かに私は1人でここへ来たはずだ。見てみてば、私の両脇から同じ顔がぬっと学用品リストを覗き込んできている。

「貴方達は、さっきの……」

 ウィーズリーの双子、フレッドとジョージだった。彼らはどうやら2人だけのようで、ウィーズリー夫人も他の子ども達も近くに姿は見えなかった。

「ああ、俺達は非常に悲劇的なことに迷子なんだ」

 私が周りをキョロキョロしていることに気付いたのか、双子のどちらかが言った。ただ、絶対に迷子ではないことは火を見るよりも明らかである。それに、口調がどう聞いても悲劇的ではない。

「あー、僕達は母上殿を探している途中だった」
「なんたって迷子だからね」
「そしたら、郵便局の前で困っているレディを見つけた」
「あれは先程会った麗しいお嬢さんじゃないか」
「これは僕達の出番に違いないと思って声を掛けたんだ」
「あ、自己紹介がまだだったな。俺はフレッド・ウィーズリー」
「僕がジョージ・ウィーズリー」
「「双子さ」」
「ええっと、ハナ・ミズマチです」

 半ば圧倒されながら、2人が差し出して来た手を握り返して私も自己紹介をした。要約すると、ウィーズリー夫人から逸れたフリをして2人でダイアゴン横丁で遊ぼうとしていたところ、困っている私を見つけたから声を掛けたということらしい。お喋りでお調子者だけれど、とっても親切なところはなんだかジェームズを思い起こさせた。ジェームズもお喋りでお調子者だけれど、とっても優しかった。

「それで、何に困ってたんだ?」
「私、どこで何を買えばいいのか分からなかったの。制服とか鍋とか教科書は分かるんだけど――」
「なら、僕達が案内してあげるよ」
「お母様はいいの? 貴方達が居なくなってきっと心配してるわ」
「大丈夫さ。さあ、行こう」

 フレッドとジョージはダイアゴン横丁をほとんど知り尽くしているように思えた。彼らは私が場所を思い出せなかった薬瓶や望遠鏡、秤が買える店に連れて行ってくれたし、学用品リストに書かれていない羊皮紙や羽根ペン、インク瓶が買える店にも案内してくれた。

 彼らは家族の話もしてくれた。私と同じ1年生になるロン――なんとロンは本名ではなく、本名はロナルドというらしい!――という弟がいること、ジネブラ――家族にはジニーと呼ばれているらしい――という末の妹の話、兄のパーシーが今年監督生に選ばれて張り切っていることなど、どの話も面白おかしく話すので私はクスクス笑いが止まらなかった。

「貴方達の家族はとっても素敵ね」
「君の家族は?」
「私はもう随分前に両親も祖父母も亡くしたの。今は一緒には住んでないけれど、後見人の人にとても良くしてもらってるわ」
「両親がいないってそういう意味だったのか」
「僕達てっきり君が今日1人で来ただけだと思って」
「いいの、気にしないで」

 数年前に向こうの世界で両親や祖父母を亡くして、本格的にこの世界に来て早々、ジェームズを亡くし、友人や職場の人にも会えなくなったので、本当に平気かと問われると自信がないけれど、初対面でそこまで気を遣わせるわけにはいかない。笑って「平気よ」と答えると、私の心情を知ってか知らずか、彼らは「いつか我が家に招待するよ」と言ってくれた。きっとウィーズリー一家はとても素敵な家族に違いない。

「じゃあ、あとは分かるかい?」
「ええ、本当にありがとう!」

 分からないところは全て回れたので、悪戯グッズを売っている店に行くというフレッドとジョージとは、マダム・マルキンの店の前で別れた。そろそろウィーズリー夫人に見つかりそうなものだけれど、今日はロンの買い物があるからフレッドとジョージどころじゃないのかもしれない。

「フレッド! ジョージ! またホグワーツ特急で!」

 去って行く2人に手を振ると彼らはパチンとウインクをした。