Phantoms of the past - 124

17. 閉じられた秘密の部屋



 ダンブルドア先生との話がすべて終わり、私はようやくマクゴナガル先生の部屋をあとにした。ハリーがルシウス・マルフォイを追いかけて出て行ったのは少し前のことだったが、もしかしたら途中で追いつくかもしれない。私は松明の明かりが僅かに揺らめくだけの暗い廊下を少し小走りになりながら進んだ。すると、いくつかの階段を降りたところで、見覚えのある後ろ姿を見つけて私は呼び止めた。

「ハリー!」

 私が大きな声で呼び掛けると、ハリーはびっくりしたのか大きく肩を揺らしてこちらを振り返った。

「追い付けて良かったわ。ルシウス・マルフォイを追いかけて行ったようだから、気になっていたの」

 駆け寄りながらそう言うと、ハリーは一瞬ぎこちない表情をして口籠った。もしかしたら、ルシウス・マルフォイに何かされたりしたのだろうか。「大丈夫? ハリー」と訊ねると、ハリーは軽く頭を振ってから「大丈夫だよ。何から話すべきか考えてたんだ」と言った。

 それからハリーは大広間へ向かう間、ルシウス・マルフォイとの間に何が起こったのかや、私がずっと気になっていたどうしてロックハート先生も一緒に秘密の部屋に連れてきたのかも話して聞かせてくれた。ロックハート先生が逃げ出そうとしていたと聞いた時は呆れ果てたけれど、ドビーが無事に自由になれたと分かった時には私もハリーと同じように嬉しくなった。

「ハナはダンブルドアとの話は終わったの?」
「ええ。ダンブルドア先生が日記に吸い取られたジニーの魂は日記が壊れた時にジニーの中に戻っただろうって仰っていたわ」
「良かった。じゃあ、ジニーはもう大丈夫なんだね」
「あとは心のケアが必要でしょうけど、それはきっと心配いらないわ。素敵な家族がたくさんいるもの」
「うん、僕もそう思うよ」

 暗い廊下を並んで歩きながら、私達はにっこり笑い合った。そうして、最後の階段を下りて玄関ホールに差し掛かると、私は杖を取り出してスコージファイを掛けてから大広間の扉を開けた。私達はまだドロドロのままだったのだ。

 そうして綺麗さっぱりになった私達が大広間に入ると、そこにはパジャマ姿のホグワーツ生達が大はしゃぎして、秘密の部屋の怪物が永遠にいなくなったことや、襲われた生徒達が元に戻ったこと、そして、ジニーが無事に帰ってきたことを祝っていた。この数ヶ月間暗い雰囲気が漂っていたことが嘘のように誰もが笑っていて、私とハリーが入ってきたことにもほとんど気付いていないようだった。しかし、1人だけ、真っ先に気付いた人がいた。

「ハリー! ハナ!」

 ハーマイオニーだった。ダンブルドア先生が回復薬を飲ませたと話していたから、もうすっかり回復して大広間に来ていたのだろう。私達の存在にいち早く気付いたハーマイオニーは満面の笑みでこちらに駆け寄っくると、興奮気味に叫んだ。

「貴方達が解決したのね! やったわね!」
「ハーマイオニー! ああ、本当に良かった」
「僕達、君が戻ってきて嬉しいよ」
「私も2人が無事で本当に嬉しい。ロンから話を聞いたの。1人200点も! それに特別功労賞まで! 3人共とっても素晴らしかった!」

 ハーマイオニーは未だに興奮冷めやらぬまま、ハリーをハグしてそれから私に思いっきり抱きついた。ジニーが無事で、ハーマイオニーが戻ってきた。それだけで、今夜は素晴らしい夜に違いなかった。

「それから、ロンが貴方に謝りたいことがあるって話していたの――私、本当に信じられないんだけれど……ちょっと、ロン! 早くハナに謝りなさい!」

 そういえば、ロンが謝りたいことがあると話していたんだった――私はハーマイオニーの話を聞いて、秘密の部屋でロンと鉢合った際にロンが言っていた言葉を思い出した。どうやらハーマイオニーは先にその話を聞いていたようで、「本当に信じられない!」ともう一度言いながら少し離れたところに立っていたロンを呼びつけた。

「あの、ハナ――」

 バツが悪そうにしながら私の前にやってくると、ロンが口を開いた。

「僕、君のことをスリザリンの継承者だって疑っちゃったんだ……あの、ほんの何時間かだけだけど……だから、本当にごめん。君はそんなことしないって僕、分かってたのに。現に君はジニーを助けに来てくれた」

 まさかロンに疑われていたとは思わず、私は目をぱちくりとさせた。けれども同時に、もしかしたら私が彼らに話せない秘密を多く抱えていることが、そう思わせた原因の1つなのかもしれないと思った。だとしたら、疑わせてしまったのは私の責任だ。ロンは何も悪くはない。

「言わなきゃ分からなかったのに」

 私は少しだけ笑いながら言った。それを聞いたハーマイオニーの方がなぜか「ハナ! もう少し怒らなきゃ!」と怒っていて、私はそれを見てまた笑った。

「私、謝りたいことがあるって聞いた時から貴方のことを許そうって決めていたのよ、ロン」
「え?」
「だって、言わなきゃ分からなかったことでも、貴方はこうして謝ってくれた。それって中々出来ることじゃないわ。だって、言わなければバレないんだもの」
「僕……君を疑ったことが申し訳なくて……」
「それじゃあ、蛙チョコ1つ奢ってくれるってことでどう?」

 ニヤッと笑って私が言うと、ロンは「ありがとう……!」と嬉しそうにしていたし、ハリーもニッコリしていたが、ハーマイオニーだけはちょっと不満げで、私のために怒ってくれていたハーマイオニーに私はもう一度感謝を込めてハグをした。

 それから、私とハリーの元にはたくさんの人が訪れた。フレッドとジョージはジニーが助かったことを本当に喜んで「君達がジニーを助けてくれた!」と私とハリーとロンに順番にハグをして、なんと頬にキスまでした。フレッドとジョージにキスされたハリーとロンがちょっと複雑な顔をしながら頬を拭っていて、それを笑っていたら私の頬はハーマイオニーがゴシゴシ拭っていた。(「ハナに気安くキスするなんて!」)

 ハリーの元にはジャスティン・フィンチ-フレッチリーもやって来た。ジャスティンはハリーの手を握って疑って済まなかったと何度も何度も謝っていて、ハリーはとても嬉しそうにしていた。

 一方、私の元にはマンディとリサとパドマが大慌てでやって来て、勝手に寮を抜け出したことを叱られたり、無事を喜ばれたりした。3人は「貴方と一緒だと心臓がいくつあっても足りないわ!」と言っていて、私は平謝りするしかなかった。

 私を心配していたのは、同室の子達だけではなかった。ハッフルパフのテーブルにいたセドリックは、私を見つけるなり走り寄って来て、今にもハグをしそうな勢いで両肩をがっしり掴んで「君が無事で良かった……」と言った。セドリックが触れている場所がなんだか熱くて、私は一瞬ドキリとした。

「マクゴナガル先生が説明してくれたんだ。今夜、城で何が起こったのか――怪我はないかい?」
「大丈夫よ。私、ピンピンしてるわ」

 心配させないようにニッコリ笑うとセドリックはなぜだが私の頭の後ろの方をじっと見つめて黙りこくった。私の後ろに何かあるのだろうか。もしかして、リドルに背中を踏みつけられた足跡が残っていたのだろうか。スコージファイで消したと思ったんだけれど――。

「君が無事で本当に良かった」

 次の瞬間、私はセドリックにぎゅっと抱き締められていた。それはウィーズリーおばさんはもちろんのこと、ハーマイオニーやフレッド、ジョージに抱きしめられた時とはまったく違う感覚だった。甘くて爽やかな香りが胸いっぱいに広がって、まるで全身が電気ケトルになったかのように急に熱くなった。

 それから、ヒューと誰かが口笛を吹くのが背後から聞こえた。あれはフレッドとジョージだと思うけど、それを確認することが出来なかった。なぜなら私は全身金縛りの魔法に掛かったかのようにカチンコチンになっていたからだ。やがて身体を離したセドリックが私を見ておかしそうに笑いながら言った。

「ハナ、大丈夫かい?」

 当然ながら全然大丈夫じゃなかった私は、このあと夜通し続いたパーティーの内容を何ひとつ覚えていなかったのだった。