Phantoms of the past - 113

16. スリザリンの真の継承者

――Harry――



「ハナ……?」

 再び出て来た親友の名前に、ハリーは眉根を寄せた。先程からリドルはハリーと同じくらいハナにも興味があるようだったけれど、どうしてハナに興味があるのかさっぱり分からなかったからだ。ジニーから何か興味深い話でも聞いたのだろうか? ジニーのことにいち早く気付いていたハナに興味を持った、とか。

「そういえば、ハナは君のことをずっと疑っていた――」

 ハリーはふと思い出して呟いた。

「僕に君の日記を持ち歩かないように言い聞かせたのはハナだった。だから僕は日記を持ち歩かなくなり、ジニーはそれを見つけることが出来たんだ」

 ハナはハグリッドがアラゴグの件でスリザリンの継承者であることを疑われ捕まったことをハリーに聞いて以来、日記を持ち歩かない方がいい、と言うようになった。あの時ハナは「マルフォイや他の人にそれをまた見られたら困るでしょう?」と言っていて、ハリーもそれで納得して持ち歩かなくなったのだけれど、今になって思えばそれが理由ではない気がした。ジニーのことに気付いていたくらいだ。きっとハナはあのころから日記が怪しいと思っていたに違いない。

「そう――ハナ・ミズマチ」

 リドルはまるで愛しい恋人の名前を呟くかのようにハナの名前を呼んだ。

「レイブンクローの才女で、学年一の優等生……マグル生まれの孤児で、後見人はあの・・アルバス・ダンブルドアだ。人を惹き付ける美貌と人望、そして、真実を見極める頭脳を持っている……変人の集まりのレイブンクロー生らしく、ゴーストのために花を摘むような変わったところがあるが……それに付き合っていた時笑いそうになるのを堪えるのが大変だったよ……あの頃はジニーを疑いもしていなかったが、結局誰よりも早くジニーのしでかしたことに気付いていたのは彼女だった」

 今までになく興奮したような口調でリドルは続けた。

「僕がどんなに彼女と話したかったか――だから、君の親友の1人である穢れた血が襲われた日、僕は意図的に彼女を助けた。1人で城内ほっつき歩いていた彼女の元へジニーを向かわせ、図書室には近寄らないよう言うように仕向けた。話す必要があったからだ。ジニーのことに気付いたのはそのせいだろうが、しかし、そんなに前から僕自身のことを疑っていたとは思わなかった……彼女の指示せいで、ジニーが日記を取り戻すことになった。僕の日記を開いて再び書き込んだのが、君ではなくジニーだったことを、僕がどんなに怒ったか。君には分からないだろう、ハリー」

 きっとバレンタインの日に、ジニーはハリーがリドルの日記を持っていることを知ったのだろう。そしてリドルが、これまでジニーがしでかしたこと――実際にはリドルがさせたことだが――を洗いざらい話してしまったらどうしよう、とパニックになり、寝室に誰もいない日を見計らって日記を取り戻したのだ。

 リドルは再びジニーが書き込んだことを残念に思う一方で、リドルには自分が次に何をしたらいいのかが分かっていた。新たな目的であるハリーとハナを秘密の部屋へ誘い出すにはどうしたらいいのかが。

「君とハナがスリザリンの継承者の足跡を確実に追跡していると、僕にははっきり分かっていた。ジニーから君達のことをいろいろ聞かされていたから、どんなことをしてでも君達は謎を解くだろうと僕には分かっていた――君達の仲良しの1人が襲われたのだから尚更だ。それに、君が蛇語を話すというので、学校中が大騒ぎだと、ジニーが教えてくれた……。ああ、それからそう、ハナもパーセルマウスだ。僕はそれを何ヶ月も前から知っていた。10月のある夜、50年振りにバジリスクを秘密の部屋から出してやった日のことだ――ダンブルドアと会った帰り、彼女がバジリスクの声を聞いたのを僕はジニーを通して見ていた」

 ハリーがロックハートの部屋で初めて奇妙な声を聞いた日に違いない、とハリーは思った。校長室への入口は3階にあるから、ハナにも良く聞こえただろう。なにせ、秘密の部屋の入口は同じ3階にあったのだから。

「君達を誘い出すために僕は、ジニーに自分の遺書を壁に書かせ、ここに下りてきて待つように仕向けた。ジニーは泣いたり喚いたりして、とても退屈だったよ。しかし、この子の命はもうあまり残されてはいない。あまりにも日記に注ぎ込んでしまった。つまりこの僕に。僕は、おかげで遂に日記を抜け出すまでになった。僕とジニーとで、君とハナが現れるのをここで待っていた。ハナが来なかったのは予想外だが……君が来ることは分かっていたよ。ハリー・ポッター、僕は君にいろいろ聞きたいことがある」

 ハリーは胃の中が沸々と煮えたぎるような怒りを感じながら「何を?」と固く拳を握り締め、吐き捨てるように訊いた。リドルがジニーにどんな仕打ちをしてきたのかを思うと、怒りが抑えられそうになかった。

「そうだな。これと言って特別な魔力も持たない赤ん坊が、不世出の偉大な魔法使いをどうやって破った? ヴォルデモート卿の力が打ち砕かれたのに、君の方はたった一つの傷痕だけで逃れたのはなぜか?」

 リドルは愛想良く微笑みつつも、その目はまるで飢えた獣のようだった。奇妙な赤い光がチラチラと漂っている。

「僕がなぜ逃れたのか、どうして君が気にするんだ? ヴォルデモート卿は君よりあとに出てきた人だろう」

 ハリーは突然出てきたヴォルデモートの名に訝りながら、慎重に訊ねた。すると、リドルが仕舞い込んでいたハリーの杖を取り出しながら言った。

「ヴォルデモートは――僕の過去であり、現在であり、未来なのだ……ハリー・ポッターよ」

 そして、取り出した杖で空中に文字を書き出すと、それは淡い光となってハリーの目の前に浮かび上がった。3つの言葉が、空中で揺らめきながら光っている。

 TOM MARVOLO RIDDLE

 それは、リドルのフルネームだった。リドルの名前を形成している16文字のアルファベットは、リドルがもう一度杖を振ると、順番を変え、今度は違う言葉を作り出した。

 I AM LORD VOLDEMORT

 自らがヴォルデモートなのだと――。