Phantoms of the past - 103

14. スリザリンの怪物と嘆きのマートル

――Harry――



 秘密の部屋の怪物がバジリスクだとすると、すべての辻褄が合うのではないかとハリーは思った。ハリーとハナにしか聞こえなかったあの姿なき怪しい声だって、バジリスクだとすれば説明がつく――蛇語はパーセルマウスの人にしか分かるはずがないからだ。

 襲われた人達だってそうだ。バジリスクは視線で人を殺せるとあるが、それはきっと直接目が合った時だけに違いない。コリンはカメラを通して見たし、ジャスティンはほとんど首無しニックを通して見たのだろう。ほとんど首無しニックは直接見たかもしれないけれど、ゴーストだから2回は死ねなかった。ハーマイオニーとレイブンクローの監督生は手鏡。そして、ミセス・ノリスは水面に映ったバジリスクを見た――なぜならあの日、廊下が水浸しだったからだ。

 間違いない、とハリーは思った。そして、ハーマイオニーの手から取り出した本のページをもう一度食い入るように見つめた。読めば読むほど辻褄が合う――致命的なのは、雄鶏が時をつくる声、というのもハリーは心当たりがあった。ジャスティンとほとんど首無しニックが襲われた日、ハリーはハグリッドと会って鶏が殺された話を聞いていたからだ。それに、クモが逃げ出すのはその前触れ、といのも合致する。

「何もかもピッタリだ!」

 ハリーは興奮気味に言った。けれども、ロンは何か引っ掛かることがあるらしく、何やら考えながらブツブツと呟いた。

「だけど、バジリスクはどうやって城の中を動き回っていたんだろう? とんでもない大蛇だし……誰かに見つかりそうな……」

 ハリーはまた本のページに視線を落とした。ロンの疑問の答えは、ハーマイオニーの筆跡できちんと書かれている――パイプだ。バジリスクは配管を使って城の中を移動していたのだ。だから、声は聞こえても姿が見えなかったのだ。すると、ロンが突然ハリーの腕を掴んで囁いた。

「“秘密の部屋”への入口だ!」

 ロンの声は嗄れている。

「もしトイレの中だったら? もし、あの――」
「――“嘆きのマートル”のトイレだったら!」

 信じられないような話に、ハリーとロンは体中を興奮が走るのを感じた。しかし、入口が分かったとして、一体誰がバジリスクを操っているのだろう? ハリーの他にパーセルマウスなのはハナしかいない――まさか――ハリーは再びよぎった考えに、身震いした。そして、今更ながらにハナが、石になった生徒達が蘇生することを喜んでいなかったことが気になって仕方がなかった。ハナはどうして青ざめていたのだろう?

「ハリー、もし、マルフォイの言っていたことが本当だったら……?」

 ロンもハリーと同じことを考えたのだろう。顔を青ざめさせ、震える声で言った。

「ハナはパーセルマウスだと僕達に教えてくれた。それに、クリスマス休暇の時、フレッドとジョージはなんて話してた? 2人は毎週日曜日、ハナがどこかへ消えているって言ってた。現にハナはミセス・ノリスが襲われた日、1人で玄関ホールにいた。それに、ハーマイオニーが襲われた時も……ハナは1人だった! マルフォイが言っていたことは正しかったんだよ、ハリー!」

 まさか、そんなことがあるだろうか。ハリーはすぐにでも「そんなことあるはずがない」と否定したかったが、今のところハリー以外に蛇語が話せるのはハナしかいなかった。それにロンが挙げた通り、ハナには怪しい点がいくつかある。

「マートルと仲が良かったのは、トイレに出入りする必要があったからだ。仲良くなっていれば、マートルはハナがいつ出入りしようが警戒しなくなる――」
「でも、ジャスティンとほとんど首無しニックが襲われた時、ハナはダンブルドアと一緒だった。あの日、ハナはダンブルドアにもパーセルマウスであることを話すと僕達に言っていたからきっとその話をしていたはずだ。そもそも、ハナがスリザリンの継承者なら、パーセルマウスであることを隠すんじゃないかな?」
「僕だってまだ信じられないけど……ハナは僕達が思うような人じゃなかったかもしれないじゃないか。パーセルマウスであることを話したことだって、僕達やダンブルドアを油断させるためかもしれないじゃないか。それに、ジャスティン達が襲われた日だって、襲ったあとにダンブルドアと会ったのかもしれないだろ?」

 ロンの言っていることは、もっともだと思う一方でハリーはどれだけ怪しい点があって、もしかしてと思うことがあっても、ハナだけは違うと思えてならなかった。マルフォイから話を聞いたあと、ハーマイオニーを含めて3人で話し合った時も感じたことだけれど、これは第6感というよりは、「生まれる前からそのことを知っている」という感じだった。心の底からハナが怪しいとは到底思えないのだ。

 けれども、今ここでロンにそのことを伝えても、ロンには分からないだろう。なぜなら、ハリー自身にもどうしてこんな風にハナのことを心から信用出来るのか分からないからだ。友達だから信じたい、とは違う。言うならば、まるで絶対裏切らないもう1人の家族のような――。

「ハナは絶対に違う」

 ハリーがはっきりと告げると、ロンは「またそれか!」と言いたげな目でハリーを見た。けれども、ハリーはこれだけは絶対に譲れなかった。

「僕やハナ意外に、パーセルマウスの人がいるはずだ。そいつが、バジリスクを操ってるに違いない」

 ロンはまだ何か言いたげにハリーを見ていたが、これ以上何を言っても無駄だと思ったのだろう。諦めたように「OK――分かったよ。そういうことにしよう。じゃあ、これからどうする?」と訊ねた。

「職員室へ行こう」

 ハリーが言った。

「あと10分でマクゴナガル先生が戻ってくるはずだ。まもなく休憩時間だ」

 もしハナが犯人だと思っていたのなら、こんな選択はしなかったかもしれないが、ハリーにはハナが無実だという確信があった。であるならば、この件はマクゴナガル先生に話して正しい犯人を捕まえてもらうべきだとハリーは思った。犯人さえ捕まれば、ロンだってハナを疑うようなことは言わないはずなのだ。だって、クリスマスの時もロンはハナを疑いたい訳じゃない、と話していたからだ。

 ハリーとロンは医務室を出ると他の先生達に見つかる前に素早く職員室へと向かった。ところが、向かった先でマクゴナガル先生に報告する前にハリーとロンはとんでもない話を耳にした。

「生徒が1人、怪物に連れ去られました」

 ジニーが秘密の部屋に連れ去られたという話を――。