Phantoms of the past - 101

14. スリザリンの怪物と嘆きのマートル

――Harry――



 魔法省大臣であるコーネリウス・ファッジによってハグリッドが連行された夜、ハグリッドがハリーとロンに残してくれたヒントはとんでもないものだった。もしも、ウィーズリーおじさんの空飛ぶ車が禁じられた森の中で野生化していなかったら、2人共今ごろ間違いなくあのクモ達に食べられてしまっていたことだろう。ハリーはクモを追って森の中へと入ったあの夜の出来事を思い出して、そう思った。

 けれど、ハグリッドがかつてこっそり飼育していた巨大クモのアラゴグは、いくつかの真実をハリーとロンに教えてくれた。アラゴグは秘密の部屋の怪物ではなく、ハグリッドはスリザリンの継承者ではなかったことや、亡くなった女子生徒がトイレで発見されたことなどだ。きっと亡くなった女子生徒は嘆きのマートルに違いない、とハリーは思ったが、それを確認出来る手段は今のところなかった。

 ハリーは一刻も早くこの話をハナにも聞かせたかったが、ここ最近ではハナとこっそり話すことがとても難しくなっていた。ハーマイオニーとレイブンクローの監督生――パーシーは監督生が襲われたことにショックを受けていた――が襲われて以降、生徒達は勝手に行動しないよう、厳しく言い付けられていたからだ。手紙を出そうにもヘドウィグがいるふくろう小屋へも行けず、結局ハリーは朝食の席でハナに直接手紙を渡すしかなかった。

 そんなハナはというと、ハーマイオニーが襲われてからというもの、怖い顔をすることが増えたようにハリーには思えた。難しい顔で何かを考え込んでいたり、メラメラと炎を燃え上がらせたような目つきで何かをじっと見ていたり、かと思えば思い詰めたような悲しい顔をすることもあった。ハリーはハナが何か知っているんじゃないかと思ったが、それを聞く機会は一向にやってこなかった。

 ハナに話を聞く機会もそうだったが、マートルに話を聞く機会も一向にやってこなかった。クモを探すのですら一苦労したのに、先生の目を盗んで女子トイレに忍び込むなど到底無理な話だった。しかも、マートルの女子トイレは最初の犠牲者が出た場所の目の前にあるから尚更だ。ちょっとだけでも忍び込む機会があれば自分達の推理が正しいのか確認出来るのに――。ロンはポリジュース薬を作っていた時にその事実が分かっていたのなら、と悔しがっていた。

「よい知らせです」

 学年末試験開始の3日前、朝食の席でマクゴナガル先生が新たな発表があると言って話し出した。マンドレイクがついに収穫出来るようになり、石にされた生徒を蘇生させることが出来るだろうと教えてくれたのだ。マクゴナガル先生はそのうちの誰かが、誰に、または何に襲われたのか話してくれるだろうと話した。

 この知らせにはみんな大喜びだったが、喜んでいない生徒もいた。マルフォイとそれから、なんと、ハナもだ。ハリーがスリザリンのテーブルを見るとマルフォイは仏頂面だったし、レイブンクローのテーブルでは、どういうわけかハナが顔を青ざめさせている――それじゃまるで、ハナがスリザリンの継承者で、バレるのを恐れているみたいじゃないか――ハリーは一瞬そう思って、首を横に振った。そんなこと、あるはずがない。

 その時、ジニーがやってきて、ロンの隣に座った。緊張して落ち着かないのか、膝の上で手をもじもじとさせている。そんなジニーにロンがオートミールのおかわりをしながら「どうした?」と訊ねた。ハーマイオニーが戻ってくると分かって、ロンは機嫌が良さそうだ。

 しかし、ロンが訊ねてもジニーはなかなか話し出そうとしなかった。グリフィンドールのテーブルを端から端まで眺めながら、怯えた顔をしている。その表情が言ってはいけないことを漏らそうかどうか、躊躇っているドビーにそっくりだ。ジニーは何か知っているに違いない。ハリーはそう思った。

「あたし、言わなければならないことがあるの」

 ジニーは、ハリーの方を見ないようにしながらボソボソと言った。

「もうずっとハナに話そうかどうか迷っていたの……ハナは絶対気付いてるわ……でも、あたし、出来なかった……」

 ジニーの声は僅かに震えていた。しかし、どうにもそこから出てこないようだった。口を開くものの、言葉が出てこないのだ。ハリーは前屈みになって、ロンとジニーだけに聞こえるような小声で言った。

「“秘密の部屋”のことなの? ハナは何に気付いてるの? 誰かがおかしな素振りをしているの?」

 ジニーはスーッと深呼吸した。話そうと決意しているかのようだった。しかし、

「ジニー、食べ終わったのなら、僕がその席に座るよ。腹ぺこだ。巡回見回りが今終わったばかりなんだ」

 タイミング悪くパーシーが現れて、ジニーは弾かれたように立ち去って行ったのだった。