Phantoms of the past - 100

14. スリザリンの怪物と嘆きのマートル



 もうほとんど真相に辿り着いただろうと思うのに、あれから数日が経っても、私は先生達に真実を言えないでいた。リドルの日記をルシウス・マルフォイが所持していて、それをジニーの荷物に忍び込ませた証拠がどこにもないからだ。それに日記こそが犯人だとどうやって証明したらいいのだろう。伝え方を間違えて、ジニーが日記を持ち込み、悪さをしたと捉えられたら、ジニーはみんなから犯人扱いされてしまう。

 けれども、こうして手をこまねいている間にも日記の中でリドルは、虎視眈々と機会を狙っているだろう。ダンブルドア先生がいなくなり、行動がしやすくなったはずだし、リドルにとってこんなに絶好のチャンスはない。ダンブルドア先生がいない今、私がそれを事前に止めなければならない。今真相を知っているのは私しかいないのだ。ハリーやロンですら、日記こそが犯人でジニーを操っているなど想像もしていないだろう。

 こんな状態だというのに、ホグワーツでは通常通り学年末の試験を行うと、私がハリーからアラゴグの手紙を貰った日にフリットウィック先生からお知らせがあった。けれども、ホグワーツがこんな状態で勉強に身が入る生徒がいるはずもなく、あと3日もしたら試験が始まるというのに誰もが上の空だった。もしかしたら、一番上の空なのは私なのかもしれないけれど――。

「よい、知らせです」

 朝食の席でそんなことを考えながらぼんやりとトーストをかじっていると、マクゴナガル先生が新たな発表があると言って立ち上がった。すると、発表が何かを聞く前から生徒達の間に歓声が沸き起こった。「よい知らせ」というのが久し振りだったのだ。みんな口々に「ダンブルドアが戻ってくるんだ!」とか「スリザリンの継承者を捕まえたんですね!」などと言っている。グリフィンドールのオリバー・ウッドは「クィディッチが再開されるんだ!」と言って叫んでいた。しかし、みんなの予想はいい意味で裏切られた。

「スプラウト先生のお話では、とうとうマンドレイクが収穫出来るとのことです。今夜、石にされた人達を蘇生させることが出来るでしょう。言うまでもありませんが、そのうちの誰か1人が、誰に、または何に襲われたのか話してくれるかもしれません。わたくしは、この恐ろしい1年が犯人逮捕で終わりを迎えることが出来るのではないかと、期待しています」

 マクゴナガル先生がそう告げ終えた瞬間、ほとんどの生徒が大歓声を上げたけれど、私は素直に喜ぶことができなかった。蘇生した人のうちの誰かが「犯人はジニー・ウィーズリーだ」と言ったらジニーは一体どうなるだろう? そう考えると手放しで喜ぶことができなかった。グリフィンドールのテーブルを見れば、ジニーが落ち着かない様子でハリーとロンの元へ近付いている所だった。

 しかし、ジニーがロンの隣に座ってからほんの少しして、パーシーがやってくると、ジニーは弾かれたように立ち上がり、その場を去って行ってしまった。ロンが「パーシー!」と咎めている声だけが微かにレイブンクローのテーブルまで届いた。

「ごめんなさい。すぐに戻るわ」

 きっとハリーとロンに打ち明けようとして、出来なかったのだ。私はそう思ったら居ても立っても居られず、立ち上がった。今ここで、ジニーを追うしか、もう方法はない――同室の子達が「どこへ行くの!? ハナ!」と声を掛ける中、私はジニーを追いかけて玄関ホールへと続く扉へと向かった。騒がしい大広間から玄関ホールへと出ると、階段を上がって行くジニーの姿が見えた。私も階段を上がろうと急いでそちらへ足を向けると、

「ハナ!」

 誰かに腕を掴まれて私は引き止められた。振り返ればそこには息を切らせたジョージが立っている。一体、どうして私を追ってきたのだろう――驚いて目をパチクリとさせていると、ジョージは私の腕を握る手にぐっと力を入れた。

「1人でどこに行くつもりなんだ? いくらマンドレイクが収穫出来るからって1人で行動するのは危険だ」

 ジョージはきっと、大広間を出て行こうとする私を見て追いかけて来てくれたのだろう。ジニーを追いかけていた、なんて話していいのか分からず、ジョージの目をじっと見返すとその目はどこかリーマスに似ていた。いつも私を心配して、あれこれと注意をする時のリーマスの目にそっくりだ。

「私、行かなければならないの――ジョージ」
「危険だ、ハナ。大広間に戻ろう」
「でも、ジョージ、あの――私――」
「そこで何をしているのかね?」

 私がなんて説明しようかと考えあぐねていると、突然声を掛けられて私もジョージも跳び上がった。その声がスネイプ先生のものだったから尚更だ――2人でゆっくりと声のした方を向いて見ると、先程まで私とジョージしかいなかった玄関ホールには、いつの間にかスネイプ先生が立っていた。こちらをじっと睨みつけている。

「勝手な行動は慎むよう、言われているはずだが……。どうやらウィーズリーとミズマチには関係のないことだったらしい」
「スネイプ先生、違うんです。私達――」
「言い訳無用。レイブンクロー、10点減点!」
「そんな……!」
「グリフィンドールからも10点減点だ。さあ、これに懲りたら大広間に戻りたまえ」

 私とジョージは顔を見合わせると、仕方なく大広間へと足を向けた。ジョージにすら真実を話すことが憚られるのに、スネイプ先生にジニーの件を言えるはずがない――こんな状況で私ははたしてジニーを助けることは出来るだろうか。

 しかし私はこの時、何がなんでもジニーを追いかけるべきだったのだ。なぜならこの数時間後、ジニーは秘密の部屋に連れ去られてしまったのだから――。