Phantoms of the past - 098

14. スリザリンの怪物と嘆きのマートル



 5月になった。季節はすっかり夏になり、空も湖も抜けるような明るいブルーへ変わった。温室でもキャベツと同じくらい大きく育った花々が咲き乱れ、過ごしやすいとてもいい季節となった。しかし、そんな季節とは裏腹に、ホグワーツにはどこか暗い雰囲気が漂っていた。以前はよく響いていた笑い声が聞こえなくなったのだ。ダンブルドア先生がいないという不安感は思った以上に大きいようだった。

 私はというと、動物もどきアニメーガスの練習を全てキャンセルせざるを得なくなり、ひどく焦っていた。その上ハーマイオニーとペネロピーが襲われた一件以来自由に行動出来なくなったので、ジニーに接触することも難しかった。ジニーが1人の時に接触したいのに、ジニーが1人でいる時がないのだ。

 ジニーに接触するのと同じくらい苦労したのは、ハリーとロンとのやり取りだった。以前のようにこっそり誰もいない教室で話をするということが出来なくなったからだ。そこで私達は何かあると手紙を書き、朝食の席で手渡しをするようになった。しかし、私はリドルの日記の秘密もジニーの件についても2人には何も話していなかった。こんなこと簡単に話せることではないだろう。

 ハリーとロンは近頃では、ハグリッドが残してくれたヒントであるクモを探しているようだった。しかし、おかしなことに、城の中にはクモが全くと言っていいほどおらず、なかなか苦戦しているようだ。それにやはり、行動に制限が掛かっているのが一番苦戦している要因らしい。ハリーは授業のたびに先生が引率することにうんざりしていると話していた。

 一方、マルフォイはこのホグワーツの現状をおおいに楽しんでいた。父親であるルシウス・マルフォイがダンブルドア先生を停職にしたことを自慢気に話し、毎日首席にでもなったかのように肩をそびやかして歩いているのだ。私は廊下でその姿を見るたびに、何度吹き飛ばしてやろうと思ったか知れない。しかし、吹き飛ばしてやると杖を握るたびに頭の中でリーマスが囁くのだ。

「ハナ、男の子は吹き飛ばしてはいけないよ」


 *


 結局、何も手立てがないまま、5月も下旬を迎えた。ここ最近では、私がジニーを気にしていることが本人に伝わってしまったのだろう。ジニーは何か話したそうにしながらも、あからさまに私を避けるようになった。私を助けたことを後悔させてやると言いながら、私自身はほとんど何も出来ていなかったのだ。近頃では、同室の子達に怖い顔をしている、と言われることが増えたように思う。

 そんな事態が動いたのは、あと1週間で6月になろうかという日のことだった。

「ハナ、君に話したいことが山ほどあるんだ」

 朝食のために大広間へ向かうと、珍しく先に大広間に来ていたハリーとロンがレイブンクローのテーブルまでやってきて言った。どうやら2人は随分と前から私を待ち構えていたようである。

「貴方達、一体何があったの?」

 どうやら知らない間に何かがあったようだ。私はハリーとロンを見て思った。ハリーの目はまるで徹夜明けをしたサラリーマンのようにギラついていたし、ロンは疲れ切ってげっそりしていからだ。これで何もないという方が無理な話である。

「僕達――あー――ここじゃ、話せない」
「ええ、そうでしょうね。手紙は書いてきた? 何があったか、知りたいわ」
「うん、急いで書いたから読みづらいかもしれないけど……」
「平気よ。それより、ロン。貴方大丈夫?」

 ハリーが手渡してくれた手紙を受け取ると、私は未だにげっそりとした様子のロンを見て訊ねた。するとロンは、

「僕は君をレイブンクローに組分けた組分け帽子をこれほど恨んだ日はないよ……」

 と心底恨みがましくそう言ったのだった。