Phantoms of the past - 097

13. 4度目の襲撃と犠牲者



 ダンブルドア先生が停職となり、ホグワーツを追い出されてしまったことは、たちまち生徒の間に広がり、不安を煽った。このことによって唯一良かったと思えることは――いや、まったく良くないのだけれど――ダンブルドアの停職処分の話で、ハグリッドが魔法省に連行されたことがそれほど広まらなかったことだろう。

 マクゴナガル先生とフリットウィック先生は、私のメンタル面をとても気に掛けてくださり、何かあったらいつでも声を掛けるようにと話してくれた。友達であるハーマイオニーが襲われ、更に私の後見人でもあるダンブルドア先生がホグワーツを去ったことで、私がひどく落ち込むのではないか心配してくれたのだ。マクゴナガル先生は「貴方は女性ですから、フリットウィック先生に話しづらいこともあるでしょう。寮は違いますが、その時はいつでもわたくしを頼りなさい」と言ってくれた。

 マクゴナガル先生とフリットウィック先生と話をしたあと大広間に戻ると、約束していた通り、ハリーが事のあらましを書いた手紙を持って私のところへやって来てくれた。そこには、昨日私が必要の部屋にこもっている間にハリーがまたあの姿なき声を聞いたことやそのあとすぐ、何かに気付いたハーマイオニーが図書室へ向かったことが書いてあった。ハーマイオニーは何か重要なことに気付いたに違いない。例えば、秘密の部屋にいる怪物の正体、とか。

 手紙には他にも、透明マントを使ってロンと2人で夜にハグリッドに会いに行ったことも書いてあった。50年前の件を訊ねようと思ったらしい。しかしそこに魔法省大臣であるコーネリウス・ファッジがダンブルドア先生と共に現れ、ハグリッドを連行すると告げたのだという。ダンブルドア先生はそのことにとても怒っていてたが、先生自身もその場に遅れてやってきたルシウス・マルフォイに停職を言い渡されたそうだ。

 手紙には他にも、去り際にハグリッドとダンブルドア先生がメッセージを残してくれたことも書いてあった。ハグリッドは「何かを見つけたかったら、クモの跡を追っかけていけばええ」と言い、ダンブルドア先生も「ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる」と話したそうだ。しかし、ハリーはダンブルドア先生のヒントより、ハグリッドが残したヒントの方がずっと具体的で役に立つと思っているようだった。

 そして最後に一番重要なことが走り書きされてあった。金曜日の夕方、ハリーの荷物が荒らされ、リドルの日記が盗まれたというのだ。土曜の朝、私に伝えようと思っていたのだけれど、私がどこにもいなくて伝えられなかったという。

 ジニーだ、と私はピンと来た。ジニーはハリーがリドルの日記を持っていることに気付いて、取り戻そうとし、そして、見事それを取り戻したに違いない。日記を一度捨てていることから、ジニーはその日記がどんなに恐ろしいものか気付いていて、そんな恐ろしいものをハリーが持っていると知ってパニックになったのだ。自分が継承者だったことを知られるのが怖かったのかもしれないし、ハリーが次の継承者になるのが怖かったのかもしれない。とにかくジニーは取り戻さなくては、と思ったのだろう。

 ハリーが日記を持っていることにジニーがいつ気付いたのかは、簡単に推測出来る――バレンタインの日だ。ハリーがリドルの日記の秘密に気付いたことを私に話してくれた日、どうやって秘密に気付いたのか経緯を訊ねた時にハーマイオニーが話していからだ。マルフォイにリドルの日記が見られそうになった時、ジニーが顔を引きらせていた、と。

 ここまでくれば、どうやってジニーが日記を手に入れ、スリザリンの継承者として襲撃事件を起こしたのか想像するのはそれほど難しいことではない。夏休みの時、ルシウス・マルフォイがジニーの荷物の中に入れたのだ。ルシウス・マルフォイはフローリシュ・アンド・ブロッツ書店で、大鍋に入っていたジニーの教科書をわざわざ手に取って自ら大鍋に戻していた。その時、リドルの日記を滑り込ませたに違いない。そして、そんなことにまったく気付かなかったジニーは、両親が用意してくれた古本の1つだと思って日記を使っていたのだろう。

 当初予想していた通り、ドビーはマルフォイ家に仕える屋敷しもべ妖精ハウス・エルフで、主人が悪さを企んでいること知ってハリーに警告しに来たに違いない。これで話は全て繋がるはずだ。

 さて、一体どうしてヴォルデモートがジニーをそそのかしたのが問題だ。ジニーは例えヴォルデモートが親切丁寧にそそのかしたとしても、自分の意思で悪いことをするような子ではない。ならば、日記はジニーを洗脳したと考えるのが普通だろう。ジニーを操ったのだ。ハリーを日記の中に引き込むことが出来るのなら、その逆が出来る可能性は非常に高い。

 とするならば、あの日私に図書室の方へ行くなと忠告したジニーは、おそらくリドルだったのだろう。どうしてだか理由は定かではないけれど、彼は私を意図的に助けたのだ。もしかすると、彼は私に興味があったのかもしれない。偉大なる魔法使いが後見人になったマグル生まれの女子生徒は一体どんなやつなのか、と。ホグワーツ生時代で止まっている日記の記憶にしか過ぎない彼は、想像もつかなかったのだろう。未来の自分が召喚したから、ダンブルドア先生が私の後見人になったのだということを。

 こうなったら、どうにかしてジニーから日記を取り戻して処分しなければならない。ダンブルドア先生がいない今、私がやらなければならない。あの日私を助けたことをあの日記に後悔させなければ気が済まない。可愛いジニーに手を出したことを絶対に許してはいけない。

 しかし、行動に制限がかけられ、動物もどきアニメーガスの練習すらままならないこの状況で、寮の違う私がジニーから日記を取り戻すことはほとんど不可能となっていたのだった。