Phantoms of the past - 096

13. 4度目の襲撃と犠牲者



 突然降り掛かってきた事実に、私は呆然と立ち尽くした。私の考えが正しければ、ジニーは図書室の近くで誰かが襲われることを知っていたことになるからだ。ピーブズが悪戯をしているから遠回りをした方がいいというのは、私を遠回りさせる嘘に違いない。けれども、どうしてジニーが誰かが襲われることを、あるいは襲われたことを知っていたのだろうか。

 私は、あのリドルの日記こそが諸悪の根源だと思っていた。なぜなら、リドルはヴォルデモートの本名だし、ハリーが保管するようになってからは、誰も襲われなかったからだ。しかし、問題はあの日記がどのようにしてホグワーツに持ち込まれ、どのように秘密の部屋を開けたのか、だ。ハリーが保管している間、誰も襲われなかったことから日記だけでは出歩けないのは証明済みである。誰かをそそのかして開けさせたのか、それとも、去年のクィレルの時のように心の中に入り込んだのか――。

「ミズマチ、気を確かに――」

 医務室で石になったハーマイオニーを目の前にしていることをすっかり失念していた私は、マクゴナガル先生に気遣わしげに声を掛けられてハッと現実に引き戻された。どうやらマクゴナガル先生は私がショックでおかしくなったのだと思っているらしく、未だに優しい手つきで私の背中を撫でていた。

「すみません……先生。大丈夫です……」

 一瞬、このことをマクゴナガル先生に報告した方がいいのではないかと思ったけれど、すぐに思い直した。今この状況で曖昧な情報を話してしまうと、ジニーがスリザリンの継承者にされてしまう可能性があるからだ。日記こそが悪さをしている張本人だと立証する必要がある。

「無理をしない方がいいでしょう。レイブンクロー塔まで、わたくしが送ります――その前に3人共、これがなんだか説明出来ないでしょうね? 2人のそばに落ちていたのですが……」

 マクゴナガル先生はそう言って、小さな丸い鏡を取り出した。記憶が定かではないが、恐らくハーマイオニーが使っていた鏡だろう。しかし、どうして鏡を手にしていたのかはさっぱり分からなかった。私が首を横に振ると、ハリーとロンも同じように首を横に振った。

 本当はマクゴナガル先生のいないところで、ハリーとロンに詳しい話――主に日記はちゃんと保管してあるかや、どうしてハーマイオニーは図書室に行ったのかなど――を聞きたかったが、先生がそれを許してくれるとは思えなかった。ただ、私と同じようにハリーも3人だけで話したいと思っているらしく、何か言いたげに私の方を見て、別れ際にこっこりと耳打ちをした。

「手紙を書くよ、必ず」


 *


 ハーマイオニーとペネロビーが襲われたその日から、私達の生活は一変することとなった。レイブンクロー塔に戻ると、寮監であるフリットウィック先生から今後の生活についての説明があり、私達は1人で出歩かないようきつく言い渡されたのだ。

 全校生徒は夕方6時には談話室に戻るように言われ、授業に行く時には必ず先生が引率し、トイレに行く時にも先生に付き添って貰わなければならなくなった。特にみんなを落胆させたのはクィディッチの延期だったけれど、学校の閉鎖も有り得ると説明されると、誰も文句は言えないようだった。

「ミス・ミズマチ……話があります」

 そして、ハーマイオニーが襲われた翌朝――同室の子達と共に朝食を食べているとやけに深刻な表情をしたフリットウィック先生がやって来て言った。先生の隣には昨日と同じように悲痛な面持ちのマクゴナガル先生の姿もある。

「昨日の今日でショックが大きいかもしれませんが……ミス・ミズマチには直接伝えた方がよいだろうとマクゴナガル先生と話し合いました」

 先生はそう言うと、周りの生徒達がジロジロとこちらに注目する中、私を連れて大広間の横にある小部屋へと入った。部屋に入る直前、大広間をぐるりと見渡すと、ハッフルパフのテーブルではセドリックが心配そうにこちらを見ていて、グリフィンドールのテーブルでもハリーとロンがこちらを見ているのが分かった。そして、

「――ミス・ミズマチ、あー……実は昨夜、ダンブルドア先生がホグワーツの理事の総意により停職になりました」

 フリットウィック先生から思いもよらぬことを告げられたのだった。