Phantoms of the past - 094

13. 4度目の襲撃と犠牲者



 ハリーに話を聞いて以降、私はハリーにリドルの日記を持ち歩かないよう厳しく言い聞かせた。ハリーはなぜ私がそんなことを言い出したのか不思議そうにしていたけれど、「マルフォイや他の人にそれをまた見られたら困るでしょう?」と話すと納得したようだった。

 けれども、実のところ、他の人に見られるから持ち歩かないように言い聞かせた訳ではなかった。私はハリーが、ヴォルデモートが作ったであろう日記を持ち歩いて生活しているということが恐ろしかったのだ。本当ならばハリーから日記を借りて、ダンブルドア先生に報告するのが一番いいのだけれど、ダンブルドア先生に見せるなんて言ったら、「ハグリッドが犯人だった事実をダンブルドアに思い出させたくない」と反対されたに違いない。

 それからハリー達だが、ハグリッドが犯人だと完全に信じた訳ではなかった。ハーマイオニーは「リドルは犯人を間違えたのかもしれない」と話していたし、ハリーも信じきっていた訳ではなかったが、ハグリッドには怪しい点がいくつかあったことが彼らを悩ませていた。ハグリッドはドラゴンを実際飼おうとするほど魔法生物が大好きだし、夏休みも夜の闇ノクターン横丁にいた。それに何より、ハグリッドは本当に追放された過去があり、魔法を使ってはいけないことになっている――けれども結局3人は次の犠牲者が出ない限り、ハグリッドには何も言わないことに決めたようで、私はホッとしていた。

 その肝心の犠牲者はといえば、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーとニコラス卿が襲われてからというもの、1人も出ていなかった。ハッフルパフの2年生の子達はハリーをまだ疑っているような雰囲気があったけれど、ポルターガイストのピーブズはハリーを揶揄うことに飽き、ホグワーツは概ね平和だった。これはきっと、ハリーがリドルの日記を持っているからに違いない。でも、肝心の日記がどうやって秘密の部屋を開けているのかは分からないままだった。

 薬草学のスプラウト先生が懸命に育てているマンドレイクも順調に育っていて、ついこの間、何本かが乱痴気パーティーを繰り広げたそうだ。スプラウト先生が言うには、今後お互いの植木鉢に入り込もうとしたら、完全に成熟した証らしく、回復薬を煎じることが出来るとのことだった。


 *


「――そうだな、君なら古代ルーン文字は好きだと思うな。それに古代ルーン文字はより深く魔法を勉強するために役立つ」

 そうして、3月は驚くほどあっという間に過ぎ去り、4月の復活祭イースターの休暇がやってくると、私を含む2年生には新たな課題が出された。来年度から始まる選択科目を決めるようそれぞれの寮監から指示を受けたのだ。

 選択科目は「魔法生物飼育学」「占い学」「数占い学」「古代ルーン文字」「マグル学」の5科目で、この中から最低でも2科目選ばなければならないらしい。というわけで休暇中のとある日、私は図書室のいつもの席でセドリックにアドバイスを受けていた。相談出来る上級生でパッと頭に浮かんだのがセドリックだったのだ。

「古代ルーン文字は私も気になっていたの。1つはこれにするわ」

 古代ルーン文字の横にチェックを入れながら私は言った。

「あとは占い学と数占い学のどちらがいいか迷っていて――セドリック、どちらがいいと思う?」
「それなら、数占い学かな。占い学のトレローニー先生は毎年1人、誰かの死を占わないと気が済まない人だから……あー、君は苦手かもしれない」
「それは絶対合わないわ」

 今の一言で、私のトレローニー先生に対する印象は最悪である。もしも来年度にハリーが死ぬだなんて占われたりしたら、私は迷いなく、トレローニー先生を吹き飛ばすだろう――いけない。先生を吹き飛ばせば、流石にダンブルドア先生もフォロー出来ず、退校処分かもしれない――私はすぐさま数占い学にチェックを入れた。

 私が古代ルーン文字と数占い学を選んだ一方で、ハリーとロンは魔法生物飼育学と占い学を選んだようだった。選択科目が全く被っていないことに対してロンは「それじゃ僕達、君に何も教えてもらえないじゃないか」とガッカリした様子で、ハーマイオニーに呆れられていた。そんなハーマイオニーはといえば、なんと全科目選択したらしい。流石、グリフィンドール一の才女である。ハーマイオニーはレイブンクローでも上手くやれただろう。


 *


 復活祭イースターの休暇が明けると、ハリーもセドリックもクィディッチの練習で忙しくなり、話をする機会がグンと減った。夕食前にはハッフルパフが、夕食後にはグリフィンドールが毎日練習を始めたからだ。

 私はといえば、セドリックと図書室で会うことがなくなったこの機会を利用して、夕食前には毎日必要の部屋に通っていた。なかなか動物もどきアニメーガスに進展がなかったからだ。それから夕食後に宿題をしていたので、私はハリーやセドリックと同じくらい毎日疲労困憊だった。

「何がいけないのかしら……せめて、禁書の棚の本を読むことが出来れば……でも、どの本に記載があるのか分からないし……最悪、私が動物もどきにアニメーガスになれなければ、ロキに託すしかないわね。シリウスの潜伏中は直接話をして作戦を練ったりしたいのだけれど……」

 ここ最近は毎日必要の部屋で、同じことの繰り返しだった。身体に何か変化が訪れた気がするのだけれど、次の瞬間には元通りに戻っているのだ。私の集中力が足りないのか、それともどうしても動物もどきアニメーガスになりたいという気持ちが足りないのか、単純に知識が足りないのか、さっぱり分からなかった。

 私はすっかり動物もどきアニメーガスのことで頭がいっぱいになって、寝ても覚めてもそのことばかり考えるようになった。つい先日も夢の中でジェームズに「ハナ、君には才能がないんだ」と言われ、飛び起きたほどだった。しかし、私はもっとこの平和な時間に秘密の部屋に向き合うべきだったのだ。なぜなら、スリザリンの継承者はまだこのホグワーツの中に潜んでいるのだから――。