Phantoms of the past - 093

13. 4度目の襲撃と犠牲者



 あのバレンタインの日から数週間が経った。
 レイブンクローの3年生であるチョウ・チャンとマリエッタ・エッジコムはすっかり私とセドリックが恋人関係にあると思っているらしく、談話室で顔を合わせるとあからさまに避けられることが増えた。けれども、私とセドリックの関係は以前とまったく変わっていなかった。セドリックは私に手渡したバレンタイン・カードについて触れることはしなかったし、私もそれに甘えて触れることはなかった。私はセドリックとこれまでの関係性が変わってしまうことが怖かったのだ。

 しかし、セドリック以外のことでは少し進展があった。バレンタインデーの翌日、ハリーがマートルのトイレで拾ったT.M.リドルの日記の謎を解き明かしたと、一部始終を話してくれたのだ。大事な話があると誰もいない教室へ、ロンやハーマイオニーと共に向かったら「リドルの日記と話したんだ!」とハリーが言い出して心底驚いたのを覚えている。

 ハリーの話では、あの日記は書いた文字が紙に吸い込まれる仕組みになっているらしく、それに気付いたハリーが文字を書いてみたらなんと返事が来たというのだ。そして、質問を重ねていくうちに、どういう訳かハリーは日記の中に入り込むこと――日記に顔を押し付けたら入れたと話していた――になり、リドルが50年前に秘密の部屋を開けた犯人を捕まえた日の夜の記憶を見たという。一体どんな魔法を掛けたらただの日記がそんな風になるのか気になるところである。

 マグルの父親と魔女である母親の間に生まれたリドルは、母親がリドルを産んですぐに亡くなったことから、マグルの孤児院で育ったそうだ。父親は話に出なかったらしくどうか分からないが、もしかしたら亡くなっていたのかもしれない。

 T.M.リドルというのは、トム・マールヴォロ・リドルの頭文字で、トムを父親から、マールヴォロを祖父から取ったのだという。そんなリドルはどうやらマグルの孤児院に帰ることが嫌だったようで、当時の校長であるディペット先生に夏休み中もホグワーツに残れるよう直談判したが、無理だと断られたそうだ。秘密の部屋が開かれ、女子生徒が1人亡くなったからだ。

 ディペット校長は、解決しない限りホグワーツの閉鎖も有り得る、と漏らした。そんなことになれば、リドルはずっとマグルの孤児院にいなければならない――そこで、ディペット校長と話を終えたリドルは、何やら考えごとをしたのち、階下へ向かって歩き始めた。犯人に心当たりがあったリドルは、犯人を捕まえ、突き出そうと決意したのだ。

 そうしてリドルが階下に向かっていると、玄関ホールに差し掛かったところで、ダンブルドア先生と鉢合った。ハリーの話では、ダンブルドア先生はジーッと何かを見通すようなあの目でリドルを見ていたのだという。襲撃事件があったにもかかわらず、リドルが歩き回っていることを怪しんだのかもしれない。それとも、リドル自身を怪しんでいたのかもしれない。ダンブルドア先生は開心術を使おうとしたに違いない――そこまで考えた時、私は今まで思い出せなかったことをやっと思い出した。例の友人がヴォルデモートのことをリドルと呼んでいたのだ。

 その事実を思い出した時、私は思わず叫びそうになって、すんでのところで思いとどまった。ハリーにその事実を伝えることが出来ないと思ったからだ。「前の世界の友人が話していたのを聞いたことがあるの」なんて、どうして言うことが出来ようか。話すのなら、もっと確実な証拠を掴まないと話すことは出来ないだろう。

 結局自分が秘密の部屋を開けたせいでホグワーツに残ることが出来なくなったリドルは、犯人をでっち上げることにした。しかも、好都合なことに、リドルは犯人に仕立て上げるのにちょうどいい人物を知っていた――ルビウス・ハグリッドである。リドルは、ハグリッドが地下でこっそり魔法生物を飼育していたこと知っていたのだ。

「ハグリッドが本当に犯人かどうかは怪しいところではあるけれど――」

 ひと通り話を聞き終えると、私は言葉を選びながら言った。ハグリッドが犯人でないことは既に分かっていることだったが、それを話すとリドルがヴォルデモートだという話をしなければならなくなるので、はっきりと伝えられなかったのだ。それに他にも気になることがある。そもそもどうやって日記の秘密に気が付いたのか、ということだ。ハリーは日記が見せてくれたことを話すのに夢中で、そこに至るまでの経緯をすっ飛ばしていたのだ。

 私がこのことを訊ねると、ハリーはようやくどうやって日記の秘密を知るに至ったのかを話して聞かせてくれた。なんでも、ロックハート先生の配達キューピッドと一悶着あり、荷物が散乱した時にインク瓶が割れて本がインクまみれになるという出来事があったらしい。その時、リドルの日記にはインク染みが一切ないことに気付いたのだという。

「危うくマルフォイに日記を取られそうにもなって、ヒヤヒヤしたよ。表紙の年号に気付くんじゃないかとか……」

 ハリーはその時のことを思い出しながらそう話した。すると、ハーマイオニーも何か思い出したのか、「そういえば」と言って口を開いた。

「――ジニーがそれを見て、とっても顔を引きらせていたわ。きっと、マルフォイにハリーの日記が読まれてしまうんじゃないかって心配していたに違いないわ」