Phantoms of the past - 088

11. T.M.リドルの日記

――Harry――



 日記のかつての所有者であったT.M.リドルはどうやらマグル出身らしい――ハリーは日記帳に印刷してあったロンドンのボグゾール通りの新聞・雑誌店の名前を見て思った。そしてロンが言うには、このT.M.リドルは50年前にホグワーツから「特別功労賞」を貰ったそうだ。なんでも、空飛ぶ車で学校へやってきた罰で盾磨きをした時、彼の盾にナメクジを引っ掛けて50回くらい磨かされて覚えていたと言う。ロン曰く、「名前のところについたあのネトネトを1時間も磨いてりゃ、いやでも名前を覚えるさ」だ。

「リドル……リドル……聞いたことがある名前だわ」

 ハナもロンと同じくその名前を聞いたことがあるようだった。ハナは顎に手を当てて何度も「リドル、リドル……」と呟きながら何やら考え込んでいたが、結局その名前をどこで聞いたのか、思い出せないままだった。けれどもはっきりとしていることはそれをトロフィー・ルームで見たわけではない、ということだった。ハナはそこに行ったことがないのだ。

 しかも日記には大きな欠点があった。中を見ても何も書かれていないのだ。何か書かれた形跡すらない――例えば、「メイベルおばさんの誕生日」とか、「歯医者3時半」とかすらないのだ。

 何も役立ちそうにない日記だったが、ハリーはそれが妙に気になった。ロンはどうしてそんなにこの日記が気になるのか分からないという顔をしていたが、ハナはハリーと同じく日記のことが気になるようだった。

「50年前っていうのが気になるわね……」

 ハナが何やら考え込みながらそう言って、杖ホルダーから杖をスッと抜いた。ロンは「君、何する気?」とギョッとしてハナを見たが、ハナは真剣な表情で「見てて」と言うと杖を日記へ向けた。

「アパレシウム!」

 しかし、何事も起こらなかった。ハナが「透明インクじゃないのね……」とまた考え込みながらブツブツと言った。

「今の呪文はなんだい? 成功しなかったみたいだけど」

 ロンが訊ねた。

「今のは現れ呪文よ――透明インクなどで書かれていたりすると、この呪文で読むことが出来るの。でも、透明インクではないみたい」

 ハナが暴けないものがハリーとロンに暴けるはずはなかった。結局この日、日記に隠された何かがあるのか、それとも何も書いてなかったのか、分からず仕舞いだった。それでも、ハリーにはこれが無意味なものとは思えず、そっとポケットの中に入れたのだった。


 *


 あれから、日記については何も分からないままだったが、2月の初めになると、ようやくハーマイオニーが退院して、ハリーは真っ先にそれを見せた。ロンは何故この日記をハリーがいつまで経っても捨てないのか不思議に思っているようだったが、ハリーは誰がどうしてこの日記を捨てようとしたのかや、リドルがどういう理由で特別功労賞を貰ったのかが気になっていた。なぜならそれが50年前のものだからだ。

 クリスマスの夜、マルフォイは秘密の部屋が50年前にも開かれ、そして、犯人が追放されたと教えてくれた。そして、T.M.リドルは時を同じくして特別功労賞を貰っている。その特別功労賞がもしスリザリンの継承者を捕まえたことで貰えたとしたらどうだろう? この日記には何か秘密が隠されていて、当時のことを教えてくれるかもしれない。

 ハーマイオニーもハリーと同じように考えたようだった。しかし、日記には現れ呪文も効かなければ、「現れゴム」という真っ赤な消しゴムのような道具を使っても何も起こらなかった。ロンは「リドルはクリスマスに日記帳をもらったけど、何も書く気がしなかったんだ」と言っていたけれど、果たしてそうなのだろうか?

 ハリーにも何も書いていないことはもう分かっていたけれど、どういうわけか日記を捨てる気にはなれなかった。まるでそれが最後まで読んでしまいたい物語かのように、ハリーは気が付けば日記を手に取り、何も書いていないページを眺めていた。それに一度も名前を聞いたことがないのに、ハリーはリドルの名前を昔から知っているような気がした。

 そうして日記を手にするたび、ハリーはリドルのことをもっと知りたいと、強く思うようになった。それはハナも同じようで、ハナはあれからずっとどこかで聞いたことがあるというリドルの名前を思い出そうと考え込んでいるようだった。

「ねえ、一体どこでその名前を聞いたの?」

 廊下でばったりハナに出会った時、ハリーは訊ねた。しかしハナは難しい顔で考え込んだまま、首を横に振るだけだった。

「それが、どうしても思い出せないのよ……」