Phantoms of the past - 086

11. T.M.リドルの日記

――Harry――



 ハーマイオニーが猫になったまま戻らなくなってしまったことで、ハリーもロンも危うくマルフォイから聞いた重要な話の数々が頭から消え去ってしまうところだった。ハリーとロンは、マートル――ハリーが見てきた中で一番ご機嫌だった――がゲラゲラ笑う中、ハーマイオニーにトイレから出て医務室へ行くよう説得しなければならなかったし、トイレから出ても見られないよう医務室へ向かう必要があったからだ。

 結局、ハリーとロンがハーマイオニーにスリザリンの談話室で何を聞いて来たのかを話せたのは翌日のことだった。ハーマイオニーは相変わらず顔が毛むくじゃらで頭からは三角の耳が生えていたけれど、マダム・ポンフリーが煎じた薬を毎日飲めばそのうち元に戻ると分かって、随分と落ち着いていた。

「――それで、ハナが継承者だと思うってマルフォイが言ったの?」

 昨夜一体何を聞いたのか、ハリーとロンが話して聞かせるとハーマイオニーは信じられない、という顔をして言った。

「有り得ないわ。ハナがマグル生まれの人を襲うような人じゃないって、誰もが知ってることじゃない。それにマグル生まれだと嘘をついてるっていう説もどうかしら。確かにハナは1年生の時、私達にまだ話せないことがあるって言ってたけど、それは言えないっていうだけで嘘をついているというわけではないわ」
「だったら、その純血の魔法使いが捜していた魔女は赤の他人ってことかい? ハナを娘だと勘違いするほどそっくりなのに?」
「なら、ロン。貴方はハナが継承者だって言うの? マグル生まれを襲っているとでも?」

 ハーマイオニーは猫の目を鋭くしながらロンを見て言った。ロンも継承者だとは思っていないようで、ハーマイオニーに睨みつけられると「僕だってそうは思ってないけど……」ともごもごと話した。

「でも、怪しいところはたくさんある。本人曰くパーセルマウスだし、それにフレッドとジョージの話を覚えてる? 休日のたびにハナがいなくなるって話。それに、ヴォルデモートから狙われてるっていうのもルシウス・マルフォイの話を聞くと納得出来ると思わないかい? ハナはアズカバンにいる犯罪者の娘で、その父親がヴォルデモートをより強くする方法を知っていた――だから、狙われてる」

 確かにハナには不思議なところが多くあった。例えば、マグル生まれなのにハナは最初からホグワーツのことに詳しかったし、自分がレイブンクローになるってことも分かっていた。それは自分の母親が「レイブンクローの幽霊」と呼ばれていたレイブンクロー生だと知っていたからではないのか。けれど、

「ハナは僕達を裏切らないって言ってくれたじゃないか」

 ハリーは真っ直ぐにハーマイオニーとロンを見て言った。

「それに、僕達もハナと約束したはずだ。何があってもハナのことを信じてるって。今がその何かの時だって僕は思う。僕はハナを信じる」

 ハリーの言葉に力強く頷いたのはハーマイオニーだった。

「貴方の言う通りだわ、ハリー。私もハナを信じてる。ハナは悪いことをするような人じゃないわ」

 すると、今度はロンが罰が悪そうに言った。

「僕だって、ハナは悪い奴じゃないって思ってるよ。悪者だって言いたかった訳じゃないんだ――ウン」

 それから3人は話し合って、このことはハナには話さないでおこうということに決めた。いつか本当のことを話してくれるというハナの言葉を信じて、3人で待つ決断をしたのだ。それに――

「なら、僕達はいつも通りハナに接しよう」

 ハリーには分かっていた。上手く説明は出来ないのだけれど、どうしてだか、ハナのことはずーっと前から自分の味方だとハリーは知っていた気がするのだ。それこそ、生まれた時からずっと。ホグワーツ特急の中で初めて出会うより前から、ハナはハリーの味方だった気がしてならないのだ。


 *


 ハナはクリスマス休暇が終わる1日前に帰ってきた。ハナはクリスマス休暇の初日の朝にマルフォイに声を掛けられた話をしなかったし、ハリー達もマルフォイからハナの話を聞いたことを話さなかった。いずれ話してくれるだろうと信じて、ハリー達は何事もなく過ごした。

 新学期が始まると、何日もハーマイオニーの姿が見えないことから「もしかしたら休暇の間に襲われたのでは」という噂が流れた。誰も猫になって入院しているとは思いもせず、その噂を聞いた生徒達がハーマイオニーの姿を見ようと入れ替わり立ち替わり医務室へ訪れるので、マダム・ポンフリーはより一層厳重にハーマイオニーのベッドの周りを衝立ついたてのカーテンで囲った。

 ハリーもロンもハナも毎日夕方に見舞いに行った。ハリーとロンはその日に出た宿題を持って行ったし、ハナは授業の内容をまとめたノートを持って行った。ハナのノートはとても分かりやすくて、ハリーもロンも自分達にも欲しいと思ったくらいだった。

「髭が生えてきたりしたら、僕なら勉強は休むけどなあ」

 ハーマイオニーが入院して数週間が経ったある夜、ロンはベッドの脇机に本をひと抱えドサドサと落としながら言った。そんなロンにハーマイオニーは元気な声で「バカなこと言わないでよ、ロン。遅れないようにしなくちゃ」と答えた。

 数週間も経つと顔の毛が綺麗さっぱりなくなって、目も少しずつだが元の褐色に戻ってきていたので、ハーマイオニーは随分と前向きになっていた。しかし、ハーマイオニーが前向きになる一方で、継承者が誰なのかはさっぱり分からないままだった。絶対にマルフォイだと思っていたのにそうではなかったし、マルフォイが挙げた名前もハナだったので、実質間違いのようなものだった。

 ハリーはマルフォイがハナの名前を挙げたことを考えるたびにイライラが増していくような気がしていた。もしもスリザリンの継承者がハナだったのなら、ハリーは逆立ちをしてホグワーツを一周してもいいし、次の夏休みの時にダーズリー家の言うことをなんでも大人しく聞いてやってもいいとすら思えた。

「来月の初めには退院出来るだろうってマダム・ポンフリーが仰っていたわ」

 医務室を出て階段を上りながらハナが言った。この日もハナはハッフルパフのハンサムな上級生との勉強会を早く切り上げて、ハーマイオニーのお見舞いに付き合ってくれていた。

「ちょっと時間が掛かったけど、良かったよな。ところで、ハナ、魔法薬学の宿題はどこまでやった? 僕、“髪を逆立てる薬”にネズミの尻尾を何本入れたらいいのか分からなくなったんだ」

 ロンはそう言って、ハナに宿題の内容を訊ねていたが、ちょうどその時、上の階で誰かが怒りを爆発させている声が聞こえてきた。

「何があったんだろう?」

 それは、フィルチの声が怒り狂う声だった。