Phantoms of the past - 085

11. T.M.リドルの日記



 夜になり、ホグワーツ特急はホグズミード駅に到着した。駅のすぐそばで待機してくれているセストラルがく馬車にセドリックと共に乗り込みホグワーツ城へと向かっていると、途端に胃が重くなるのを感じた。クリスマス休暇の間にポリジュース薬を飲み、マルフォイと話をした彼らが私のことについても聞いたかもしれないと思うと気が気ではなかったからだ。休暇中、どうなったのか何も連絡がなかったことが私の不安を増長させていた。

「大丈夫かい? ハナ」

 馬車の中でぎゅっと唇を噛み締めていると、隣に座っていたセドリックが心配そうにこちらの顔を覗き込んだ。私はそれに「大丈夫。寒かっただけなの」と言って微笑み返すと、「それにお腹が空いちゃって」となんとか誤魔化した。

「夕食が待ち遠しいね」
「ええ。大広間に行ったらたくさん食べなくちゃ」

 馬車が城に到着すると、私達は真っ直ぐに樫の木の扉を潜って玄関ホールへと入った。ホグワーツ城は空調が効いているわけではないので玄関ホールはそれほど暖かくはなかったけれど、それでも外よりずっと暖かかった。冷えた指先がじんわりと温まっていくのが分かる。すると、

「ハナ!」

 聞き慣れた声に大声で呼ばれて、私は顔を上げた。見れば、玄関ホールの掲示板の近くにハリーとロンが立っている。彼らはセドリックを見て少し気まずそうにしながらもこちらへやってヒソヒソと言った。

「ハーマイオニーが大変なんだ。ちょっと、時間はあるかい?」

 マルフォイから話を聞いたのか聞いていないのかは分からないものの、少なくともハリー達は私を避けるということはないようだった。私は内心ホッとしつつセドリックに「私、行かなくちゃ。また明日会いましょう」と言うと、ハリー達のあとを追って玄関ホールを横切った。

「それで、何があったの?」
「実はハーマイオニーがミリセント・ブルストロードの髪の毛だと思って持ってた毛が猫の毛だったんだ。それで、今、医務室にいる」
「まさか――ハーマイオニーは元に戻るの?」
「うん。マダム・ポンフリーがしばらく掛かるだろうけど、元に戻るって」

 3人はクリスマスの日に作戦を実施したそうだ。ハーマイオニーの考えた作戦でクラッブとゴイルの髪の毛を手に入れ、3人別々の個室に入って薬を飲んだという。そして、ハリーとロンは無事にクラッブとゴイルに変身し、マルフォイの話を聞くことが出来たのだが、ハーマイオニーが毛むくじゃらになったのだ。ポリジュース薬は動物の毛を入れたらいけない薬なので、戻らなくなってしまったのだろう。

「ハナ……! あ、あれ、猫の毛だったの……!」

 もう遅いからと渋るマダム・ポンフリーに無理を言って、ハーマイオニーを見舞うと、彼女は涙声でオロオロと言った。久し振りに会うハーマイオニーは、顔が黒い毛で覆われ、目は黄色に変わっていたし、髪の毛の中から長い三角耳が突き出していた。唯一の救いは生徒がこんな状態でもマダム・ポンフリーが深く追求せず、毛むくじゃらの顔が人目に触れたら恥ずかしいだろうとベッドの周りを衝立ついたてのカーテンで囲ってくれたことだろう。

「大変だったわね、ハーマイオニー。大丈夫よ。時間はかかるけど、マダム・ポンフリーがきっと元通りにしてくれるわ」

 これから治るまで、授業が何週間も受けられなくなると思うと不安だというハーマイオニー――ハリーとロンは信じられないという顔をしていた――に「毎日ノートを持ってくるわ」と話すと、少し安心したようだった。こんな時にでも勉強の心配をしているというのは流石ハーマイオニーである。

「そうだわ。貴方の分の薬がここにあるの」

 ようやく落ち着きを取り戻して来たころ、ハーマイオニーが枕の下に隠し持っていた小瓶を慎重に取り出しながら言った。中にはどろっとしたとても美味しそうとは言えない魔法薬が入っている。

「ずっと持っていてくれたのね。ありがとう、ハーマイオニー」
「貴方は大丈夫だと思うけど……使う時は気を付けてね。私みたいにならないように」
「ええ、十分気を付けるわ」

 それから3人は作戦を実行したクリスマスの日、何があったのかを話してくれた。ハリーとロンは無事にクラッブとゴイルに変身し、スリザリンの談話室でマルフォイの話を聞くことに成功したらしいけれど、スリザリンの継承者はマルフォイではなかったそうだ。それもそのはずだ。自らがスリザリンの継承者なら、私を手伝おうなんて言わないはずだ。

「でも、マルフォイ家の応接間の床下に闇の魔術の道具があるらしいんだ。僕、パパにすぐ手紙を書いたよ」

 マルフォイがハリー達に私について何か話したのではないかと気掛かりだったけれど、ハリー達が何も言わないところを見るに何も聞かなかったようだった。もし聞いていて黙っているのならば、それはそれでいい――どちらにせよ私から真実を話すことはまだ出来ないのだから。