Phantoms of the past - 080

10. 過去の手紙

――Harry――



 クリスマスの朝は、寒い、真っ白な朝だった。あまりにも寒いのでもう少し温かな布団の中で眠っていようと思っていたハリーだったが、いつもより早くに起こされることとなった。ハリーとロンのクリスマスプレゼントを持って、ハーマイオニーが飛び込んできたからだ。いつから起きていたのか、ハーマイオニーはすっかり着替えを済ませている。

「起きなさい」

 ハーマイオニーは窓のカーテンを開けながら呼び掛けた。寮の部屋にハリーとロンしかいないことをいいことに、遠慮のない大きな声だった。ロンが「男子寮には来ちゃいけないはずだ」と指摘したけれど、ハーマイオニーはその指摘をまるっと無視してロンにプレゼントを投げて寄越した。そんなやり取りを横目に見ながら、ハリーはまだぼんやりとしていたが、

「私、もう1時間も前から起きて、煎じ薬にクサカゲロウを加えてたの。完成よ」

 ハーマイオニーがそう言った途端、パチリと目が覚めた。

「ほんと?」
「絶対よ。やるんなら、今夜ね」

 ネズミのスキャバーズを脇に押しやり、ロンのベッドの端に腰掛けながらハーマイオニーは自信たっぷりに言ったちょうどその時、ヘドウィグがスーッと部屋に入って来た。嘴に小さな包みを咥えている。

「やあ」

 ベッドに降り立ったヘドウィグに、ハリーは嬉しそうに声を掛けた。ヘドウィグは空飛ぶ車でホグワーツに飛んできて以来、ハリーに腹を立てっぱなしだったのだが、ようやく口を聞いてくれる気になったらしい。ハリーが「また僕と口を聞いてくれるのかい?」と訊ねると、ヘドウィグはハリーの耳を優しく齧ってくれて、その方が運んできてくれた包みよりずっといい贈り物だった。因みに包みはダーズリー一家からで、爪楊枝一本とメモが入っており、メモには「夏休み中にも学校に残れないかどうか聞いておけ」と書いてあった。

 そう出来るならとっくにそうしていると思いながら、ハリーはメモを放り出すと他のプレゼントを開封することにした。ダーズリー家以外からのプレゼントはどれもとても嬉しいもので、ハグリッドは糖蜜ヌガーを大きな缶一杯贈ってくれた。ロンからはお気に入りのクィディッチ・チームのおもしろいことがあれこれ書いてある『キャノンズと飛ぼう』という本を。ハーマイオニーからはデラックスな鷲羽根のペンをそれぞれ貰った。

 とびきり大きな包みを開けるとそれはハナからのプレゼントで、お菓子とふくろうフーズをどっさり――例の巾着袋に入れておいてねとメモがあった――と、なんと杖ホルダーベルトも贈ってくれた。杖ホルダーベルトは細い革製のベルトに同じ素材で出来た杖ホルダーが備え付けてあって、ホルダー部分には「H.P」と金の糸で刺繍がされていた。

 しかも杖ホルダーベルトは4人お揃いで買ったらしく、ハーマイオニーは「H.G」の刺繍がされているものを既に腰につけていた。これにはロンも大喜びで、パジャマの上から腰に巻き付けて早速杖を入れようとしていたけれど、杖がスペロテープでぐるぐる巻きにされていたので杖ホルダーベルトの魅力が半減しているようにハリーには見えた。

 最後の包みは、ウィーズリーおばさんからのものだった。中には新しい手編みのセーターと大きなプラムケーキ、それからクリスマスカードが入っていた。そのクリスマスカードを飾りながら、ハリーは新たな自責の念に駆られた。ウィーズリーおじさんの車が暴れ柳に衝突して以降行方知れずだというのに、これから更に校則を破ろうとしているのだから――。


 *


 クリスマスの1日はあっという間に過ぎ去った。頻繁にマートルの女子トイレに通いポリージュース薬をかき混ぜる必要が無くなったので、1日遊んで過ごせるのは良かったが、このあとそれを飲まなければならないという恐怖が付き纏った。

 しかし、どんなにポリージュース薬を飲むことを恐れていても、クリスマス・ディナーは楽しかった。大広間は、霜が輝くクリスマス・ツリーが何本も立ち並び、天井には魔法が掛けられ、暖かく乾いた雪が降りしきっていた。さらにそんな天井には柊と寄生木やどりぎの小枝が縫うように飾られ、豪華絢爛だった。マルフォイはスリザリンのテーブルから、聞こえよがしにハリーの新しいセーターの悪口を言っていたが、ハリーは気にも止めなかった。上手くいけば、あと数時間で、マルフォイは罪の報いを受けることになるのだから。

 けれども、その報いのためにハリーはロンと共にクリスマス・プディングの3皿目を途中で放棄しなければならなかった。ハーマイオニーが今夜の計画の詰めに入ろうと、2人を大広間から追い立てたのだ。

「これから変身する相手の一部分が必要なの」

 ハーマイオニーは誰もいない場所までやってくると、「ちょっとスーパーで洗剤を買ってきて」とでもいうような口調で言った。それがなければポリージュース薬が完成しないことはハリーとロンも分かっていたが、2人にははどうやって相手の一部を手に入れたらいいのかさっぱり分からなかった。しかもハーマイオニーはマルフォイの腰巾着であるクラッブとゴイルの一部をご所望なのだ。更には、マルフォイの取り調べをしてる最中に、本物のクラッブとゴイルが乱入するなんてことが絶対ないようにしておかなければならないという難題付きである。

「私、みんな考えてあるの」

 戸惑っているハリーとロンを無視して、ハーマイオニーはふっくらとしたチョコレートケーキを2つ取り出しながら言った。

「簡単な眠り薬を仕込んでおいたわ。貴方達はクラッブとゴイルがこれを見つけるようにしておけばいいの。あの2人がどんなに意地汚いか、ご存知の通りだから、絶対食べるに決まってる。眠ったら、髪の毛を2、3本引っこ抜いて、それから2人を箒用の物置に隠すのよ」

 こんな計画本当に上手くいくのかとハリーとロンは 不安になったが、ハーマイオニーは自信満々だった。しかも、ハーマイオニーは決闘クラブで取っ組み合いをした時にミリセント・ブルストロードの髪の毛をゲットしていたらしい。ハーマイオニーのローブに残っていたというのだ。「それに、彼女、クリスマスで帰っちゃっていないし――だから、スリザリン生には、学校に戻ってきちゃったと言えばいいわ」というのがハーマイオニーの考えだ。

 いくらクラッブとゴイルでも、落ちているものを拾い食いするような大間抜けではないだろうし、スリザリン生達も急にブルストロードが帰ってきたら不審に思うだろう。ハリーはハーマイオニーの計画に不安を隠せなかったが、それはロンも同じようだった。ハーマイオニーがポリジュース薬の様子を見に、慌ただしく去って行ったあとで、ロンが運命に打ちひしがれたような顔でハリーを見た。

「こんなにしくじりそうなことだらけの計画って、聞いたことあるかい? ハナさえ残っていてくれたら、もっとまともな計画だったかもしれないのに」