Phantoms of the past - 079

10. 過去の手紙

――Harry――



 クリスマス休暇がやってきた。雪が降っていなかったのは初日の朝くらいで、あとはほとんどの日で雪が降り積り、その降り積もった雪と同じくらい深い静寂がホグワーツ城を包み込んだ。ハリーにとっては憂鬱どころか安らかな日々だったが、唯一ハナが家に帰ってしまったのが残念な点だった。

「なあ、ハリー。君は休みの度にハナがどこに消えてるか知ってるか?」

 もしハナが残っていたのなら、一緒に大きな音を立てて「爆発スナップ」をして遊んだり、決闘の練習をしたり、雪合戦をして遊んだり出来たのに――そんな風に考えながらグリフィンドールの談話室で魔法使いのチェスをしているロンとハーマイオニーを眺めていると、突然フレッドとジョージが両隣にやってきてハリーに訊ねた。ハリーはもしや考えが読まれていたのでは、という妙な気分になりながらも2人を見て答えた。

「ハナは休暇中は家に帰ってるよ」

 フレッドとジョージもそんなこと知っているだろうに。ハリーがそんなことを思っていると、「ハリーよ、そうじゃない」とフレッドが首を横に振った。

「ハリー、僕達は毎週日曜日、ハナがどこに消えてるか知りたいんだ」
「ハナが消えてるってどういうこと?」
「知らなかったのか? 毎週日曜日、彼女はどこかに消えるんだ。俺達はこの1年、その真相解明に全力を尽くしてきたが、未だに分からずじまいさ」

 ハナが毎週日曜日にどこかに消えているなんて聞いたことがない。ハリーは首を傾げながらも「図書室にいるんじゃない?」と言った。ハナは大体そこにいるからだ。

「ハナが1日図書室に篭っているのは、土曜日だ。大抵の場合、ディゴリーと一緒にそこにいる」

 まるでずっと見ているかのようにフレッドが話した。

「図書室の1番奥の奥だ。そこには誰もいない――普段は2人きりでそこにいるんた」

 「まったくうちの女王陛下ときたら……」と小言を言い始めたジョージを見ながら、ハリーは決闘クラブの日にハナが手を振っていた男子生徒の顔を思い浮かべた。彼はハナと並んでも引けを取らないほどハンサムなハッフルパフの4年生で、1年生の学年末にはハナをクィレルから守ろうとしてくれたし、その後お見舞いに来てくれた時にもハナを心から心配していたいい人だ。ハーマイオニーもとても褒めていたし、ハナと一緒にいるには申し分ない人だとハリーは常々思っていた。それはまるで姉の恋人を品定めする弟のような気分だった。

「私、あの2人はとってもお似合いだと思うわ」

 いつの間にかハリー達の話を聞いていたハーマイオニーがハリーの気持ちを代弁するかのように言った。そんなハーマイオニーの手元では、白のチェス駒が早く次の一手をさせ、とばかりに抗議をしていたが、ハーマイオニーはそれに全く気付いていなかった。

「おいおい、ハーマイオニー。君は正気か?」

 フレッドがわざとらしく頭を抱えながら言った。

「だって、彼ってとても優秀で紳士的で優しくて、それにハンサムだわ。2人で並んでいるとまるで1枚の絵のようだと思わない? 彼はハナのことが好きだと思うから、あとはハナ次第ね。私この間本で調べてみたんだけど、日本ではコクハクっていう文化があるみたい。“好きです”って想いを告げてからお付き合いが始まるの。だから、ハナはそういう明らかな好意を口にしないと気付かないのかもしれないわ……私、今度彼に教えてあげようと……」
「おいおい、お節介はやめろよ。それに君、ディゴリーがハンサムだからいいと思ってるだけじゃないか」

 まるで夢見心地で話すハーマイオニーにロンが呆れた口調で言った。ロンの言う通り、ハーマイオニーはハンサムな魔法使いに弱い傾向にあった。ロックハートがまさにいい例である。ご執心のあまりロックハートの明らかな失敗ですら、擁護するくらいだ。

「そんなことないわ」

 ハーマイオニーはピシャリと言った。

「それにしても、ハナが日曜日にどこかに行ってしまうってどういうことかしら? 私達、そんな話は聞いたことがないわ」

 「本当に消えているの?」とハーマイオニーは怪訝な顔でフレッドとジョージを見た。確かにハナとは寮が違うので、2人が偶然日曜日にハナを見つけられなかっただけという可能性もある。しかし、フレッドとジョージはハナが消えているという確信があるようだった。「間違いなく消えている」と2人は声を揃えて言った。

「どうしてそう思うの?」

 ハリーは訳が知りたくて訊ねた。

「それはな、ハナに印がついてるからさ」

 フレッドが声を潜めて答えた。

「印って?」
「僕達にしか見えない印さ――でも、知らないならいいんだ」

 一体どういう印がハナについているのかフレッドとジョージから聞き出す間もなく、彼らは男子寮へ向かう階段へと消えて行った。そんな2人を見て、未だに抗議を続けている白の駒を無視しながらハーマイオニーが不思議そうに言った。

「印って何かしら?」
「未成年の魔法使いの周囲での魔法行為を検知する呪文みたいなものなのかな? ほら、僕達は魔法を使うと痕跡が残るようになってるから……それで、ハリーは夏に公式警告状を受け取ったじゃないか」
「でもあれって正確ではないでしょう? 誰が使ったかは特定出来ないし……フレッドとジョージがハナだけを特定して、居場所を知ることが出来る魔法なんて使えるとは思えないわ」

 今や盤上では黒の駒も一緒になって早く先に進めろと抗議をしていた。ハリーはその様子を眺めながら、呟いた。

「でも、ハナは毎週どこに行ってるんだろう?」

 しかし、その疑問にはロンもハーマイオニーも答えられないのだった。