Phantoms of the past - 074

9. ジャスティンとほとんど首無しニック



 驚くべきことに、校長室から解放されたのは、ダンブルドア先生の質問にハリーが「何もありません」と答えてすぐだった。ダンブルドア先生はハリーの言葉に難しい顔をしたままではあるものの「なら、行ってもよろしい」と言ったのだ。ダンブルドア先生と一緒に校長室へ向かった私もハリーと一緒に帰ることになり、私達は人気ひとけのない廊下を2人で歩いていた。

「――それで、ハグリッドと別れて談話室に戻ろうとしたところで、2人を見つけたんだ。そこに偶然ピーブズが現れて……」

 歩きながらハリーは、一体何が起こったのかを事細かに話して聞かせてくれた。薬草学が休講になってしまったので、このままではクリスマス休暇に入ってしまうと思い、ジャスティンを探しに図書室へ行ったこと。そこで、ジャスティン以外のハッフルパフ生達がハリーが継承者なんだとヒソヒソ話していたこと。我慢出来ずに説明しようとしたけど言い争いになり、腹が立って図書室を飛び出したこと。そこで、ハグリッドに会い、鶏が襲われた話を聞いたこと。別れてすぐに石になったジャスティンとニコラス卿を発見したこと――全てだ。

「ダンブルドアは信じてくれたけど、僕はパーセルマウスだし、みんなが僕を犯人だと思ってる」

 ハリーは俯きながらそう呟いた。そんなハリーの背中をそっと撫でてやると、ハリーはゆっくりと私を見遣って悲しげに微笑んだ。

「僕、スリザリンに組分けされるべきだったんだ……」
「どうしてそう思うの?」
「組分け帽子が、僕はスリザリンでも上手くやれる可能性があるって。さっきハナ達が来る前にこっそり帽子を被って聞いたんだ。それに、これは誰にも話してないことなんだけど、実は去年も組分け帽子は僕のことをグリフィンドールに入れるかスリザリンに入れるかで迷ったんだ」

 ハリーの言葉を聞いて、私は唯一見た『賢者の石』の映画や小説のことを思い出していた。確か「スリザリンは嫌だ」と言って、ハリーはグリフィンドールに入ることになったのだ。

「ハリー、貴方は本当に自分がスリザリンに入るべきだったと思うの?」

 出来るだけ優しく聞こえるよう私は問いかけた。ハリーは首を横に振りながら、「僕、スリザリンに入るのは嫌だったんだ」と答えた。

「スリザリンは闇の魔法使いが多いって聞いたし、ヴォルデモートも……でも、僕はサラザール・スリザリンみたいにパーセルマウスだし、組分けが間違いだったのかもって思ったんだ……」
「スリザリン出身の闇の魔法使いが多いのは事実だけれど、偉大な魔法使いもいるわ。あのマーリン勲章で知られている中世の魔法使いのマーリンはスリザリン出身だった。それに、パーセルマウスだけでスリザリンに決まるのなら、私もスリザリンに入るべきだったわ。そうでしょう? でも、組分け帽子は私をレイブンクローに入れたわ」
「それは、ハナが勉強が出来るから――」
「いいえ、違うわ。私が知識を得たいと思ったからよ。グリフィンドールかレイブンクローと迷っていたけれど、組分け帽子は私の希望を聞いてレイブンクローにしてくれたのよ。そして、ハリー、貴方もそうだったはず。私達は自ら選んだのよ。ヴォルデモートとは違うわ」

 ヴォルデモートなら喜んでスリザリンに入ったことだろう。サラザール・スリザリンだってそうだ。自らスリザリン寮を作ったのだから、もし組分けを受けるのなら、他の寮に入る選択肢を選ばなかったはずだ。でも、ハリーは違う。自らスリザリン以外の寮を選んだ。ヴォルデモートやサラザール・スリザリンとは違うのだ。

 ハリーはそんな風に考えたことがなかったのか、目をパチクリとさせてこちらを見た。「自ら選んだ?」と繰り返すように呟いている。そんなハリーを励ますように私はニッコリ微笑んだ。

「ええ、そうよ。貴方のご両親はきっと、貴方がたった11歳で自ら自分の進むべき道を選んだと知ったら、流石我が子だってとても喜んだと思うわ。だから、自分を卑下してはダメよ」

 きっとジェームズならハリーがグリフィンドールに組分けされたことをとても喜んだことだろう。私の言葉がハリーの不安を全て取り除けたかどうかは分からないけれど、それでもハリーは僅かに元気を取り戻したようだった。

「ありがとう、ハナ。君に話せて良かった」

 そう言ったハリーは少しだけ笑っていた。