Phantoms of the past - 072

9. ジャスティンとほとんど首無しニック



 ハリー達と話をしたあと、大広間へ戻ると、今日の薬草学の授業が全てキャンセルされたことが知らされた。この寒さでマンドレイクの成長が遅れてしまわないように、スプラウト先生が靴下を履かせ、マフラーを巻く作業をしなければならないからだ。厄介な作業な上、今はミセス・ノリスやコリンを蘇生させるために一刻も早く育ってくれることが重要なので、誰にも任せられないという。

 薬草学の授業でジャスティンに説明すると意気込んでいたハリーは出端を挫かれて、焦りからか、ひどく苛ついているようだった。なぜなら、今日の薬草学の授業を逃してしまうと、クリスマス休暇が明けるまで、ハッフルパフとの合同授業はないからだ。

 一方私はというと、1時間目の授業は休講にはならなかったけれど、急遽欠席してダンブルドア先生と話をすることになった。朝食の時に教職員テーブルに座っているダンブルドア先生を見掛けたので、大事な話があると伝えると時間を作ってくれることになったのだ。授業はあまり休みたくはないけれど、これを逃せばきっと、クリスマス休暇で更に報告が遅くなったことだろう。

「今日は随分と寒いのう。こういう日には温かいココアを飲むに限る」

 寒々しいホグワーツの廊下を歩きながら、ダンブルドア先生は言った。私達は校長室のある3階の廊下を通り過ぎ、上の階へと向かっていた。「校長室では聞き耳を立てている者がいっぱいおるからの」というのがダンブルドア先生の意見である。ダンブルドア先生はどんな話をされるのか聞く前から、歴代の校長先生達には聞かせない方がいい話だと分かっているようだった。ダンブルドア先生の前では閉心術なんてものも無意味になってしまうのかもしれない。本当に習得出来たのか不安になるというものである。

「君の国でもこの時期はこんなに寒いのかね?」
「12月ともなると寒かったですけど、それでもホグワーツの方がずっと寒い気がします」
「日本は随分と興味深い国じゃ――向こうにはトヨハシ・テングというクィディッチ・チームがあっての。これがなかなかに強い」
「日本にもクィディッチ・チームがあるなんて、知りませんでした。こちらの日本にもいつか行ってみたいです。魔法界では海外渡航の際はどうされているんですか?」
「方法は様々じゃ。姿現わしをする者もあれば、汽車を使ったり――キングズ・クロス駅にはたくさんの隠されたプラットフォームがあるのじゃ――それからそう、暖炉を使う方法もある。あとはわしの教え子のニュート・スキャマンダーはマグルのパスポートを持っておった」

 他愛もない話しながら階段を上り、私達はふくろう小屋へと辿り着いた。こんな吹雪の中ふくろう小屋を訪れようなんて人は誰もおらず、中には寒そうに身を寄せ合っているふくろう達がいるだけだった。ダンブルドア先生が寒くないよう魔法で鮮やかなブルーの炎を出してくれ、私達はそれを挟むようにして向かい合うった。それからダンブルドア先生は杖をもう一度振ったが、無言呪文だったので何の呪文を使ったのかは分からなかった。

「それで、君の話というのは何かね? ハナ」

 杖をローブに仕舞ってから、ダンブルドア先生が訊ねた。

「あの、パーセルマウスのことです……昨夜のハリーの件はご存知ですか?」
「スネイプ先生から報告を受けておる。生徒達の前で蛇語を話したそうじゃな?」
「ええ、そうなんです。それで、私、ハリーがなんて話したのかはっきりと分かったんです。私はまだ、蛇と直接話したことはありませんが……」

 それから私は昨夜の決闘クラブで一体何があったのかをダンブルドア先生に詳しく話して聞かせた。スネイプ先生から報告があったと言っていたけれど、スネイプ先生はきっとハリーが蛇に向かってなんと喋ったのか分からないだろうと思ったからだ。

「それでハリーは“手を出すな。去れ“と言ったのかね?」
「はい。多くの生徒達にはハリーが唆しているように見えたようですが――私には蛇が命令を聞いて大人しくなったように見えました」
「フム――これは実に奇妙なことじゃ。違う世界からやってきた君にも蛇語を話せる能力が備わっておるとは……」

 話を聞いたダンブルドア先生は長い髭を撫でつけながら何やら考え込んでいるようだったが、先生が何を考えているのかまでは分からなかった。それにどうして私までパーセルマウスなのかもさっぱり分からなかった。ハリーだけなら遺伝的なことが考えられるけれど、私はそうではない。私とハリーの共通点といえば、ヴォルデモートの魔法を受けたということだけれど、それがパーセルマウスに関係があるのだろうか。

 私とダンブルドア先生だけしかいないふくろう小屋に長い沈黙が訪れると、辺りには吹雪いている音とふくろう達がゴソゴソと羽根を動かしている音しか聞こえなくなった。やがて――どれだけ沈黙が続いたのか定かではないが――ふくろう小屋の階段を上がってくる足音が聞こえて、私達は同時にそちらを見た。誰かがこちらに近付いて来ているらしい。その人物はダンブルドア先生が再び杖を振って2度目の無言呪文を使ってすぐに現れた。

「アルバス――大変なことが起こりました」

 それは、いつになく深刻な表情をしたマクゴナガル先生だった。