Phantoms of the past - 070

8. 決闘クラブとパーセルマウス

――Harry――



 ハリーとロンとハーマイオニーが大広間から去っていくのを、多くの生徒達が遠巻きに見ていた。その様子はまるでハリーが何かの感染症にでもかかっていて、それを移されるのが怖いとでもいうかのようだった。蛇に向かってジャスティンに手を出すなと言ったことがそんなに悪いことだったのだろうか――ハリーは理由を聞きたかったけれど、ロンもハーマイオニーも何も話してはくれなかった。

「君はパーセルマウスなんだ。どうして僕達に話してくれなかったの?」

 ロンは人気ひとけのないグリフィンドールの談話室まで延々と引っ張ってきたかと思うと、ハリーを肘掛椅子に座らせてからようやく口を開いた。聞いたことのない単語だ。「僕がなんだって?」とハリーが聞き返すと、ロンは先程よりも大きな声で繰り返した。

「パーセルマウスだよ! 君は蛇と話が出来るんだ!」

 ハリーはどうして蛇と話せるだけでそんなに騒ぐのか分からなかった。だって、蛇と話したのは今回が初めてではない。去年の夏、いとこのダドリーの誕生日に動物園に行った時にガラスケースから蛇を逃してやったのが最初だ。その話をすると、ロンは「大ニシキヘビが、君に一度もブラジルに行ったことがないって話したの?」と力なく繰り返した。

「それがどうかしたの? ここにはそんなこと出来る人、掃いて捨てるほどいるだろうに」
「それが、いないんだ。そんな能力はざらには持っていない。ハリー、まずいよ」
「何がまずいんだい?」

 ハリーはロンまでもが自分のことをおかしいという風に話すので、かなり腹が立って言い返した。

「みんな、どうかしたんじゃないか? 考えてもみてよ。もし僕が、ジャスティンを襲うなってヘビに言わなけりゃ――」
「――君はそう言ったのかい?」
「どういう意味? 君達あの場にいたし……僕の言うことを聞いたじゃないか」
「君が何を話したか、他の人には分かりゃしないんだよ。ジャスティンがパニックしたのも分かるな。君ったら、まるでヘビをそそのかしてるような感じだった。あれにはぞっとしたよ」
「僕が違う言葉を喋ったって?」

 ハリーはロンをまじまじと見て言った。

「だけど――僕、気が付かなかった――自分が話せるってことさえ知らないのに、どうしてそんな言葉が話せるんだい?」

 ハリーの問い掛けにロンは何も答えずただ首を横に振った。蛇と話せることが珍しいということは分かったけれど、ハリーは何故ロンとハーマイオニーが通夜の弔問客のような顔をしているのかは分からなかった。ジャスティンを助けたことの何が問題なのだろう?

「あの蛇が、ジャスティンの首を食いちぎるのを止めたのに、一体何が悪いのか教えてくれないか? ジャスティンが、“首無し狩り”に参加する羽目にならずに済んだんだよ。どういうやり方で止めたかなんて、問題になるの?」
「問題になるのよ」

 ハーマイオニーがやっと口を開いて、ヒソヒソ声で話した。

「どうしてかというと、サラザール・スリザリンは、蛇と話ができることで有名だったからなの。だからスリザリン寮のシンボルが蛇でしょう」

 まさかそんな理由があったなんて知らず、ハリーはポカンと口を開けた。みんながヒソヒソと不吉なことを話していたのは、このことが原因だったのだ。そして、状況が読めるにつれ、途端にハナがどう思ったのかがハリーには気になった。ハナはどうしてついてきてくれなかったのだろう。

「ハナは、このこと知ってるのかな……」

 ハリーは急に恐怖と不安が押し寄せるのを感じた。味方だと言ってくれたハナが自分のことを怖がったら、と思うと気が気ではなかった。

「ハナは知っていると思うわ」

 ハーマイオニーが気遣わしげに言った。

「貴方をとても心配しているようだった。でも、ついてきたそうにしてきたから、私が来ない方がいいって目配せしたの。ハナはレイブンクローで寮が違うでしょう?」
「それにハナは君がパーセルマウスだろうが気にしないよ」

 ロンも励ますようにそう言ってくれたが、同時に「学校中が君のことを、スリザリンの曾々々々孫だとかなんとか言い出すだろうな……」と話して、ハリーは明日からの生活が一気に不安になった。ハリーは自分がスリザリンの曾々々々孫でははいと信じたかったが、違うと証明するのは難しいとハーマイオニーは言った。

「スリザリンは1000年ほど前に生きていたんだから、貴方だという可能性も有り得るのよ」


 *


 ハリーはその夜、なかなか寝付けなかった。天蓋付きのベッドのカーテンの隙間から、窓の外に雪がちらつくのを眺めながら、自分は本当にサラザール・スリザリンの子孫なのだろうかと思いにふけった。

 しかし、ハリーは父親の家族のことは何も知らなかった。ダーズリー一家が質問するのを一切禁止したからだ。もしも父親のそのまた父親の更に父親がスリザリンの血筋だったらと思うと胃がキリキリと痛む思いがしたし、それに組分け帽子がハリーのことをスリザリンに入れたがったことも思い出すと更に気分が悪くなった。

 ――明日、薬草学でジャスティンに会う。その時に説明するんだ。僕は蛇をけしかけてたのじゃなく、攻撃をやめさせてたんだって。どんなバカだって、そのぐらい分かるはずじゃないか。

 ハリーは腹が立って枕を拳で叩いたが、そのあともなかなか眠りにつくことが出来なかった。