Phantoms of the past - 067

8. 決闘クラブとパーセルマウス



 5分後――大広間はとてもひどい状態になっていた。「武器を取り上げるだけ」だと言われたにもかかわらず――ジョージもそうだったように――多くの生徒達はそれを守っていなかった。フリントにとっては大変不名誉なことかもしれないけれど、私達は周りに比べたらまともな方だと言えた。スネイプ先生が「フィニート・インカーターテム!」と強制的に呪文を終わらせなければ、もっと大惨事になっていただろう。

「なんと、なんと」

 この惨劇に戸惑ったような声を出しながら、ロックハート先生は悲惨な決闘の結末を見て回った。ほとんどの生徒がゼイゼイ言って床に倒れ込んでいて、中には鼻血を出している生徒もいる。セドリックは涼しい顔をして立っていたので平気そうだったが、同室の子達はハァハァ言って息切れしていた。一体何があったのかは聞かないでおこうと思う。

むしろ、非友好的な術の防ぎ方をお教えするほうがいいようですね」

 大広間の真ん中までやってくると、ロックハート先生が言った。流石にロックハート先生もこれ以上好きにさせていたら収拾がつかなくなると考えたのだろう。今度は生徒達の中から1組、代表で模範演技をさせることになり、なんと、ハリーとマルフォイのペアが選ばれた。最初は希望者を募ったが、誰も進んで模範演技をしようとはしなかったので、スネイプ先生が彼らを推薦したのだ。

 大広間の中央にハリーとマルフォイが進み出ると、ロックハート先生は何やら腕をくねくねさせてハリーに指導を始めたが、それがハリーの役に立つとは到底思えなかった。「さあ、ハリー。ドラコが君に杖を向けたら、こういうふうにしなさい」と言っていたものの、ロックハート先生は杖を落としただけで、ハリーに呪文の1つも教えてあげなかったからだ。

 反対にスネイプ先生はマルフォイにヒソヒソと何やら囁いていて、それを見たハリーは不安になったようだった。「先生、その防衛技とかを、もう一度見せてくださいませんか?」ともう一度アドバイスを求めたが、ロックハート先生がもう一度アドバイスをするようなことはなかった。陽気にハリーの肩を叩き、「ハリー、私がやったようにやるんだよ!」と言うだけだ。

 どうやら、ロックハート先生はハリーを無視して決闘を無理矢理始めることに決めたらしい。すかさずハリーが「え? 杖を落とすんですか?」と訊ねたが、聞こえないフリをしていた。もしかしたら、杖を落とした失態を誤魔化したかったのかもしれない。礼も構えもさせていないにもかかわらず、ロックハート先生は号令を掛けた。

「1――2――3――それ!」

 突然の開始の合図に反応出来たのは、マルフォイだった。杖を振り上げると大声で叫ぶ。

「サーペンソーティア!」

 すると、杖先が炸裂し、そこから1匹の長くて黒い黒い蛇が姿を現した。それを見たハリーは呪文を唱えるのも忘れてギョッとしたように固まっている。

 一方、2人の間の床にドスンと落ちた蛇は不機嫌そうに鎌首をもたげた。そして、周囲に威嚇するような仕草を見せると、流石に近くにいた生徒達は怖かったようで、悲鳴を上げて後退りした。ハリーとマルフォイが立っている大広間の中央は、先程よりもさらに広く空いている。

「動くな、ポッター」

 ハリーが身動きも出来ずに怒った蛇と目を見合わせて立ちすくんでいると、スネイプ先生が前に進み出た。「我輩が追い払ってやろう……」と杖を取り出す。しかし、それより先に動いた人物がいた。

「わたくしにお任せあれ!」

 ロックハート先生である。先生が蛇に向かって杖を振り回し、何かの呪文を唱えると、バーンと大きな音がして、蛇が宙を舞った。そして、ビシャッと大きな音を立てて再び床に落ちると、蛇の機嫌はますます損なわれたようだった。怒り狂ってシューシューと言いながら、1番近くに立っていたハッフルパフのジャスティン・フィンチ‐フレッチリーめがけて滑り寄り、牙を剥き出しにすると再び鎌首をもたげた。今にも襲いかかりそうになっている。

「手を出すな。去れ!」

 そこにハリーが進み出ると、蛇に向かって確かにそう言った。すると蛇はその言葉を理解しているのか、まるで庭の水撒き用の太いホースのように大人しくなり、床に平たく丸まった。今や従順そうにハリーを見上げている。

 蛇はもう誰も襲うつもりはないように見えた。ハリーもそう判断したのかこれで安心だとばかりにジャスティンを見てニッコリ笑ったが、ジャスティンの方はは安心などしていなかった。ジャスティンはなぜだか恐怖と怒りが入り混じった表情でハリーを見ている。ハリーがたった今、蛇を大人しくさせたのを見ていたのに、だ。そして、

「一体、何を悪ふざけしてるんだ?」

 ジャスティンは怒ったようにそう叫ぶと、大広間から出て行ってしまった。

 周りの生徒達を見れば、ハリーが蛇を大人しくさせたと思っている生徒は誰もいないようだった。恐怖の表情を浮かべながら、何やらヒソヒソと囁きあい、蛇を消すために前に進み出たスネイプ先生も鋭く探るような目つきでハリーを見ている。

「ポッターはパーセルマウスだったんだ」

 誰かがそう囁いて、私は凍りついた。なぜなら、

「ポッターってスリザリンの子孫なんじゃ……」

 ハリーの言った言葉が分かる私も、パーセルマウスだったのだから――。