Phantoms of the past - 065

8. 決闘クラブとパーセルマウス



 ハリー達がスネイプの個人用の薬棚から材料を盗み出した数日後の土曜日には、4回目の閉心術の訓練が行われた。毎日こっそりと練習している杖なし呪文はなかなか上手くはいかなかったけれど、閉心術の訓練は順調そのもので、この日の訓練で最後になる、とダンブルドア先生は話してくれた。私はもう閉心術を使いこなせている、とお墨付きを貰ったのだ。

「君はよく、この課題に取り組んだ」

 訓練の最後にダンブルドア先生は言った。

「これでヴォルデモートは繋がりに気付いたとしても君の心の中に入り込むことが出来なくなり、その部下もまた、君が抱える多くの秘密を知ることが出来なくなったわけじゃ――しかし、油断するでないぞ。君は常に狙われておる」
「はい、ダンブルドア先生」

 閉心術の訓練が終了したことは、私の予定に大きな影響を及ぼさなかったけれど、私の心には少しだけ余裕をもたらした。1つ目標を達成出来たという安堵感はとても大きくて、私は以前にも増して杖なし呪文の課題に取り組むことが出来た。

 しかし、課題に集中出来ることと成功することは必ずしもイコールとはならないものだ。毎晩同室の子達が寝静まったあと、ベッドの周りのカーテンを閉め切って杖なしの呪文の練習をしていたのだけれど、私は危うくベッドの周りのカーテンを燃やしそうになった。魔法が杖なしでは上手くコントロール出来ないのだ。

 そもそも杖というものは、ヨーロッパで発明されたもので、魔力をコントロールしやすくするものだ。その杖を使わずに呪文を行使するのは高い集中力と魔力をコントロールする技術力が必要となる。杖なしの呪文で1番身近なものは「姿現わし」だけれど、失敗すると身体がバラけたりして大怪我をすることがあるらしい。このことから、それがどれだけ危険で繊細な魔法か分かるだろう。大人でも使えない人がいるほどだ。

 動物もどきアニメーガスに関する書籍が禁書棚にしかないのも、そういう危険性があるからだろう。失敗すれば、身体に大怪我を負ったり、もっとひどいと半人半獣のような悲惨な状態になってしまうのかもしれない。だからこそ、ジェームズとシリウスは「動物もどきアニメーガスの手引き」に変身術の基礎を徹底的に勉強しろとか、実際に動物もどきアニメーガスの練習を始める前に杖なしの呪文を使えるようになれ、と書いていたのだ。安易に挑戦することがいかに危険か、2人は分かっているからだ。

 しかし、難しいからといって出来ないわけではない。ヨーロッパ以外の地域では、多くの呪文を杖なしで学ぶというし、ヨーロッパにも杖なしの呪文を使いこなす人はいる。順序さえ間違えなければ、習得は可能なのだ。2年生の間に習得出来るだろうかという不安はあるものの、こればかりは成功を信じて1つ1つこなしていくしかない。


 *


「決闘クラブ?」

 ハリー達がスネイプ先生の薬棚から薬を盗み出した翌週――玄関ホールの掲示板に「決闘クラブ」を開催するという知らせが貼り出された。この知らせは、大広間へ朝食を食べに行く多くの生徒が目にすることとなり、朝食の席では必然的にこの話題でもちきりとなった。

「玄関ホールの掲示板に貼り出されていたのを、マイケルが見てきたんですって」

 初めて聞く単語に私が聞き返すと、こんがり焼けたトーストにジャムをたっぷり塗りながら、リサが話した。因みにマイケルというのは、同じレイブンクローで2年生のマイケル・コーナーのことである。

「きっと、グリフィンドールのコリン・クリービーが襲われたから、私達が決闘について知っておくべきだって先生達が考えたんだわ」

 オートミールをよそいながらマンディが言う。

「監督生のペネロピーが3年生のチョウ・チャンと話しているのをさっき聞いたんだけれど、フリットウィック先生は若いころ、決闘のチャンピオンだったんですって。先生が教えてくださるんなら、興味があるわ」

 コーンフレークを食べながらそう話すのはパドマだ。

「スリザリンの怪物が決闘出来るとは思えないけど――でも、何かの役に立つかもしれないわね」

 彼女達の話に耳を傾けながら、私は言った。知識欲が旺盛なレイブンクロー生は決闘クラブに興味津々で、今夜8時から行われる1回目のクラブに誰もが参加をするようだった。決闘といえば、去年ハリーとロンがマルフォイに申し込まれていたように思う。けど、あれは実際に決闘をしたわけではなく、三頭犬を見ただけだったので、私はそれがどういうものなのかあまり知らなかった。

「私達も行ってみましょう」

 今後のために学んでおいて損はないだろう。そう考えながら私が言うと、同室の子達は大乗り気で頷いたのだった。