Phantoms of the past - 064

8. 決闘クラブとパーセルマウス



 ハリーがロックハート先生によって片腕を骨なしにされた翌朝――グリフィンドールの1年生であるコリン・クリービーが襲われたというニュースが、朝食を食べに大広間へやってきた私の耳に飛び込んできた。噂によるとコリンは夜の間に襲われ、ミセス・ノリスのように石にされてしまったらしく、今は医務室で寝かされているのだそうだ。

 そのニュースを聞いた私とロン、そして、ハーマイオニーの3人は急遽退院するハリーの元へ行くのを取りやめることにした。生徒用の材料棚から必要なものをかき集めると、3階にあるマートルのトイレに駆け込む。少しでも早くポリジュース薬を完成させて、マルフォイから話を聞くべきだ、という意見で一致したのだ。「マルフォイのやつ、クィディッチに負けた腹いせでコリンをやったんだと思うな」というのがロンの意見である。

 ハリーは私達がトイレの個室に閉じこもってしばらく経ってから現れ、夜中にドビーがやってきたことを話してくれた。その話によると、なんと、秘密の部屋は以前にも開かれたことがあるらしい。ドビーが「またしても」と言っていたし、その後石になったコリンを運び込んだダンブルドア先生も「再び開かれた」と話していたというのだ。

 夏休み中にも考えていたことだけれど、以前にも開かれたことがあるならやはり、ルシウス・マルフォイが息子に部屋の開け方を教えたと考えるのが自然なような気がした。サラザール・スリザリンが残した部屋なので、スリザリン生の極一部しか知らない開け方があるのかもしれない。歴代の校長先生すら知らない特殊な開け方が。

「それから、ドビーはハナが僕を罠に嵌めようとしているって考えてるらしいんだ」

 ハリーは話の最後に、言いづらそうにしながら打ち明けた。ハーマイオニーが「有り得ないわ」と言って思いっきり顔をしかめている。

「もちろん、僕だってそんなことないってすぐに言ったんだ。でも、ドビーはハナがブラッジャーを壊したことを怒ってるのかもしれない」
「自分の計画を邪魔されたと思ったのね。でも、ドビーは例えダンブルドア先生に命令されたとしても、私がハリーを罠に嵌めることはないって最初に調べておくべきだったわね」

 「もちろん、貴方の助けになる罠にだったら喜んで嵌めるかもしれないけど」と言って笑うと、ハリーもホッとしたように笑った。

「つまり、僕をおとしめようとはしないってことだ」


 *


 その日から、私は以前に増して多忙になった。日々の宿題や魔法界の勉強に加え、閉心術の3回目の訓練もあったし、遂に杖なしの呪文の練習も開始したからだ。その上ポリジュース薬の手伝いもしていたので、私の予定は周りがびっくりするほどギチギチだった。同室の子達やセドリックには心配されることが増えたけれど、私はどれも辞めようとはしなかった。なぜなら、それが私にとって必要なことだからだ。

 その他にもジニーが元気がないことを私達はみんな心配していた。ミセス・ノリスが襲われ、呪文学で隣の席だったコリンも襲われて、今まで以上に元気をなくしていたのだ。フレッドとジョージがあの手この手でジニーを元気付けようとしたけれど、全て逆効果に終わり、遂には怒ったパーシーに「ママに言いつけるぞ!」と言われて諦めることとなった。

 12月になると、今年のホグワーツでの出来事を知ったリーマスから「必ず帰るように」という念を押す手紙が届くようになった。彼は私がクリスマス休暇にホグワーツに残ったら、何か1つや2つトラブルを起こすと考えているようだが、ある意味正解である。もちろん、約束をしていたので帰るつもりではあったけれど、もし残るのなら、秘密の部屋の入口探しを始めたかもしれないし、忙しくて手がつけられなかった秘密の部屋の怪物に関する調べ物もしただろうし、杖なし呪文も何時間も練習しただろう。因みにポリジュース薬を作っていることはリーマスには話していない。話をしたら、彼は頭痛に悩まされることになるからだ。

 そんなポリジュース薬は、順調に完成に近付いていた。入手が難しい材料も、ハリーとロン、ハーマイオニーが作戦を立て、無事にスネイプの個人用の薬棚から拝借することに成功していた。なんと、3人は魔法薬の授業中に騒ぎを起こし、その混乱に乗じて盗み出したというのだ。

「3人共凄いわ。二角獣の角と毒ツルヘビの皮が手に入ったのなら、ポリジュース薬の完成も間近ね」

 3人が材料を盗み出したのは12月の2週目の木曜日のことだった。授業終わりにマートルのトイレで集まった際に私がそう言うと、ハーマイオニーは特に得意気で「あと2週間で出来上がるわよ」と嬉しそうに話していた。

「きっと、ハナがクリスマス休暇で帰っている間に完成すると思うわ。だから、完成したら貴方の分は瓶に入れてとっておくわね」
「ありがとう、ハーマイオニー。最後まで付き合えなくてごめんなさい」
「大丈夫よ。必ず帰るようにって念を押されてるんでしょう? それなら仕方ないわ」

 盗み出した材料はもう既に鍋の中に放り込まれ、ハーマイオニーはそれをぐるぐるかき混ぜている。そんな鍋の中をみんなで覗き込みながら、ハリーが訊ねた。

「ハナが休暇中一緒に過ごしてる人ってどんな人なの?」
「とても優しい人よ」

 私はすぐに答えた。そして、ニッコリ笑うと言葉を続けた。

「来年には、貴方達にも紹介出来ると思うわ」