Phantoms of the past - 058

7. 狂ったブラッジャーとドビーの再訪



 ハリー達が無事に禁書の棚にある『最も強力な魔法薬』という本を借り出し、マートルのトイレで材料を確認した翌日――ホグワーツではクィディッチ・シーズンが幕を開けた。今年度の初戦もグリフィンドール対スリザリンの試合で、私は11時が近付くころには多くの生徒達と共にクィディッチ競技場へと向かった。

「スリザリンが全員、最新の箒を持っていることが試合にどう影響するのか気になるところだね。あとは、新しいシーカーのドラコ・マルフォイがどこまで出来るのか――」

 一緒に観戦する約束したのは去年と同様、セドリックである。少し前に図書室で勉強をしている時に誘ってくれて、二つ返事でOKを出したのだ。セドリックはハッフルパフのクィディッチ・チームのシーカーでもあるので、スリザリンの箒のことや新たなシーカーであるマルフォイのことが特に気になっているようだった。

「確か箒はニンバス2001だったかしら。ハリーの箒の後継モデルよね」
「そうなんだ。ニンバス・レーシング・ブルーム・カンパニーって会社が出している箒で、現在発売されている競技用の箒の中では間違いなく最高速度が出る。悔しいけど――いい箒だ」

 試合開始前には競技場はホグワーツ生でいっぱいなった。11月だというのになんだか蒸し暑くて、雷でもきそうな気配が漂っている。試合が終わるまで天気が持てばいいけれど、と思いながら空を見上げいると、やおら、競技場がワッと歓声に包まれた。見れば、グリフィンドールの選手達が入場を始めている。いよいよ、試合が始まるのだ。

 ピッチの中央でグリフィンドールのキャプテンであるオリバー・ウッドとスリザリンのキャプテンであるマーカス・フリントが睨み合いながら握手をしているのが、遠目からでも分かった。そして、飛行術の先生で審判であるマダム・フーチが試合開始のホイッスルを鳴らすと、ピッチから選手達が空へと舞い上がった。ハリーは一番高い位置まで飛んで、あっという間に小さくなってしまった。

「さあ、グリフィンドール対スリザリンの試合が開始されました!」

 今年の実況も去年に引き続きグリフィンドールのリー・ジョーダンである。マクゴナガル先生は面白いと言ったらあまり喜ばないかもしれないけれど、リーとそのお目付役である先生との掛け合いが、とても面白くて私は好きだったりする。しかし、その掛け合いを楽しめたのは最初の数分だった。

「見て、ハナ。何か変だ――」

 最初に異変に気付いたのはセドリックだった。セドリックが私の肩を軽く叩いて上空を指差すので見てみれば、上の方に飛んで行ったハリーが何かを避けるように飛んでいる所だった。その周りでは棍棒を持ったフレッドとジョージのどちらかが飛び回っている。

「ポッターがブラッジャーに狙われてるみたいだ」

 黒いブラッジャーはどんなに棍棒で打ち返しても、ハリーを打ちのめそうとして途中でUターンしてくるようだった。ブラッジャーはハリーが急降下しても、ピッチの反対側に飛んでもハリーを追いかけていく。ほぼクィディッチ初心者の私でも、それが異常なことだということはよく分かった。

「呪いかしら……一体誰がそんなこと」
「去年もそんなことがあったね。あの時はハナがすぐ見つけて対処出来たけど……」
「犯人を探してみるわ」

 そうして私が犯人探しを始めるころには、怪しかった雲行きはますます悪くなり、遂に雨が降り始めた。すかさずセドリックが「インパービアス!」と水や火を防ぐ魔法を施してくれたので、私もセドリックも雨に濡れることはなかったけれど、視界は一気に悪くなってしまった。大粒の雨で試合がどうなっているのかも見辛くなり、そんな中で呪いを掛けている人物を探し出すのは至難の業と言えた。

「ダメ、分からないわ……」

 実況のリーのお陰で60対0でスリザリンがリードしていることだけは分かったけれど、あとはほとんど何も分からなかった。観客席から再び上を見上げれば、いつの間にかフレッドとジョージの2人がブラッジャーからハリーを守ろうと、ハリーの周りをぐるぐると回っている。

 やがて、グリフィンドールがタイムアウトを請求して、試合は一時中断となった。グリフィンドールの選手達がピッチに集まり、何やら揉めているように見える。フレッドとジョージがオリバーに向かって何か怒っていたけれど、ここからでは彼らが何を話しているのかさっぱり分からなかった。

「ハリーは大丈夫かしら」
「大丈夫ではないだろうけど、ポッターは飛ぶだろう。僕もそうする――」

 長めのタイムアウトのあと、セドリックの言ったとおり試合は再開されたけれど、状況は悪くなる一方だった。タイムアウト中、何が話し合われたのかは分からないが、ハリーがたった1人で狙ってくるブラッジャーから逃げ始めたのだ。セドリック曰く、ブラッジャーは1つではないので、ハリーがそう望んだんだろう、とのことだった。ハリーは自分の身よりチームの勝利を願ったのだ。

 ブラッジャーを狙って壊してしまえば、ハリーの身の安全は保証されるだろうけど、覚悟を持って試合に臨むハリーの邪魔をするような真似は出来なかった。ギリギリまで待って、それでもダメならブラッジャーを壊すしかない、と私はぎゅっと杖を握りしめてハリーを見守った。

「ハリー、頑張って……」

 雨はますます激しくなろうとしていた。