Phantoms of the past - 056
7. 狂ったブラッジャーとドビーの再訪
11月に入って最初の土曜日の朝、私はようやく閉心術の2回目の訓練の知らせをダンブルドア先生から受け取った。訓練は前回と同じ午後8時からということで、私は日中をセドリックと図書室で勉強したり、空き教室を借りて魔法の練習をしたりして過ごしたあと、約束の時間になる少し前に校長室へと向かった。今回はいつものポシェットも持参である。
ジェームズ達からの贈り物である拡張呪文が施されたポシェットには、
そう言えば、前回ダンブルドア先生に「フィニアス」と呼ばれていた肖像画なんだけれど、あの人はなんとシリウスのご先祖様なのだそうだ。図書室で本を読んでいたときに偶然知ったのだけれど、彼はフィニアス・ナイジェラス・ブラックと言って、シリウスの曾々お祖父様らしい。フィニアスはスリザリン出身なので、前回私が秘密の部屋について言及したことが特に気に入らなかったのだろう。
「ダンブルドア先生、こんばんは」
「おお、ハナ。待っておったよ」
合言葉を言って校長室に入ると、ダンブルドア先生はペットである不死鳥のフォークスに何やら話しかけているところだった。いつも真紅の羽根が美しく神秘的なフォークスは、私が2ヶ月ここに来ていない間に羽根が少し抜け落ちて元気がないように見える。
「先生、フォークスはどうされたんですか? どこか具合でも悪いんですか?」
「いやいや。燃焼日が近付いておるだけじゃよ。今、早く済ませてしまうように言い聞かせておったところじゃ。不死鳥はな、死ぬ時が来ると炎となって燃え上がり、そして、灰の中から蘇るのじゃ」
「『幻の動物とその生息地』という本で少し読みました。不死鳥は驚くほど重い荷物を運び、涙には癒しの力があって、そして、主人に忠実であると」
「君はよく勉強しておるようじゃな、ハナ」
ダンブルドア先生は満足気に頷くとフォークスから離れ、事務机の方へと向かった。私は弱々しくなっているフォークスをもう一度見たあと、ダンブルドア先生のあとに続き事務机の方へと向かう。フォークスはゲッゲッと苦しそうに鳴いていて、私はダンブルドア先生が早く燃焼日を迎えるようにと説得する気持ちが分かるような気がした。苦しんでいるペットをずっと見ていたい主人などいない。
「ダンブルドア先生、今日は訓練の前にこれをお見せしたくて持ってきました。前回お約束していた魔法道具です」
事務机の前に向かい合って立つと、私はポシェットの中から
「
ダンブルドア先生は興味深そうに球体を持ち上げて下から覗き込んだり、星型の穴から中を覗き込んだりしながら訊ねた。私は「はい、そうです」と言って杖を取り出すと「ステラ・ルクス!」と唱えた。すると、私とダンブルドア先生の間に瞬く間に夜空が生まれた。辺りは深い青の
「実に素晴らしい出来じゃ。自分の父親がこれほど素晴らしいものを残したといつの日かハリーが知ることが出来たら、とても喜ぶことじゃろう――前にも話したが、ジェームズが遺したものがあるということは素晴らしいことじゃ」
ダンブルドア先生はそう話すと吊り金具に付けられている羊皮紙を手に取った。随分と色褪せているその羊皮紙をじっくりと眺めている姿を見ていると、なんとなくジェームズとリリーが遺したものが手元に1つも残っていないことをダンブルドア先生が悲しんでいるように思えた。だから、
「ハナ、この呪文が書かれた羊皮紙を譲ってくれることは出来んかの? この呪文は実によく出来ておる。そして、何より美しい――ジェームズがこんなに素晴らしい魔法を生み出したことをわしは覚えておきたいのじゃ」
ダンブルドア先生の切なる願いに私は躊躇なく頷いた。ジェームズも自分が生み出した魔法をダンブルドア先生に褒めて貰えたと知ったら喜ぶだろうし、リーマスもシリウスもこの羊皮紙をダンブルドア先生に渡すことに反対はしないだろう。むしろ、自慢気に喜ぶかもしれない。
「ええ、どうぞ。先生が持っていてくれたら、ジェームズもきっと喜びます」
私がそう言うとダンブルドア先生はとても嬉しそうにお礼を言って、吊り金具から丁寧に羊皮紙を外すと事務机に仕舞ったのだった。