Phantoms of the past - 048

6. 襲われたミセス・ノリス



 毎日時間ギリギリまで図書室で本に齧り付き、休日には必要の部屋にこもったりしているうちに、9月はあっという間に過ぎ去った。閉心術の訓練はタイミングが悪くてあれ以来1度も行われていなかったけれど、ダンブルドア先生は11月になれば2回目が出来るだろうとこの間手紙をくれた。その時には星屑製造機スターダスト・メーカーを忘れずに見せようと思う。

 無言呪文の方は普段からこっそりと練習するようになったお陰か比較的順調に進んでた。しかも普段の練習に加え、毎週末必要の部屋にこもって練習をしているので、9月の終わり頃にはある程度使いこなせるようになっていた。これで動物もどきアニメーガスに一歩近付いたというわけだ。けれども、まだ難しい呪文は失敗も多いし、この次には杖なしでの練習も待っているので、まだまだ先は長そうだった。

「ホグワーツってどうしてこんなに寒くなるのが早いの?」

 10月にもなるとホグワーツには早くも冬の気配が近付いてくるようになっていた。ホグワーツはロンドンのずっと北の方にあるので夏でもうだるような暑さの日は少なくて、冬が来るのはとても早いのだ。校庭や城には湿った冷たい風が吹くようになり、私が寒いことをぼやくと、マンディやリサ、パドマはおかしそうに笑っていた。

「ハナって寒がりよね」
「だって、とっても寒いんだもの。日本の10月はこんなに寒くはないのよ。まだ日中は暑い日もあるくらいだし……」
「この辺りは特別よね。イギリス国内でも北の方にあるから、ロンドンの辺りとは気候も少し違うもの」

 寒いのは私だけではないようで、生徒達の間では急激な気温の変化の影響もあって、風邪が流行るようになっていた。校医であるマダム・ポンフリーもとても忙しそうにしていたけれど、風邪の生徒が医務室のベッドを占領するようなことはなかった。魔法界では風邪は数時間で治るものだからだ。

 マグルの世界だと考えられないことだけど、魔法界には「元気爆発薬」という風邪薬があるのだ。これを飲むとすぐに風邪が治るのだけれど、飲むと体温が上がってしまい、数時間は耳から煙を出さなければならないという副作用付きというのがちょっと困るところではある。

 なので、好んで飲もうとする生徒はあまりいなかったが、風邪を引いた生徒は半強制的にマダム・ポンフリーに薬を飲まされていた。まるで蒸気機関車のようになるので、あれは思春期の子達には恥ずかしいだろう。どうやらジニーも体調が悪かったらしく、パーシーに無理矢理飲まされていた、とハリー達は話していた。

 10月といえば、月末にハロウィーンが迫っていた。ハグリッドが育てている例のかぼちゃは、今ではちょっとした物置小屋くらいに膨れ上がっていて、ハグリッドは「当日にはもっと大きくなっとるぞ」と自慢げに話していた。

 私は今年のハロウィーンをとても楽しみにしていた。去年はハーマイオニーのことがあるのでずっと心配して過ごしていたのだけれど、今年はハロウィーン・パーティーに参加する予定だったからだ。かぼちゃのスイーツがたくさん並ぶらしいので、今からウキウキしている。

 因みに今年のハロウィーンは同室の子達に「今年は絶対一緒に過ごしましょうね!」と既に予約済みである。何でも、去年も過ごせなかったうえ、一緒に汽車に乗る約束も毎回先を越されていたので、今回ばかりは先を越されないようにと3人で話し合ったらしい。けれども、ハロウィーンに行われるパーティーは1つではなかったようだ。

「絶命日パーティー?」

 ハロウィーンが数日後に迫ったある日。夕食を食べに大広間へ向かっている途中で、ハリーとロン、ハーマイオニーに声を掛けられて私は首を傾げて訊ね返した。何でも彼らはほとんど首無しニックという愛称で知られるグリフィンドールのゴースト――ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿に「絶命日パーティー」というものに誘われたらしい。

「今度のハロウィーンがニックの500回目の絶命日に当たるんだ。それで、広めの地下牢を使ってパーティーをするから来て欲しいって僕誘われたんだ」
「私とロンも行くのよ。生きているうちに招かれた人はそういないはずだわ。面白そうだと思わない? ハナも一緒に行きましょうよ」

 自分が亡くなった日を祝うパーティーをやるだなんて、どうやら魔法界のゴースト達は変わっているらしい。到底喜ばしい気分はなれないと思うけど、500年も経つとゴーストになった記念日みたいなものに変わってしまうのかもしれない。

「とても興味深いけれど……ごめんなさい。私、ずっと前から同室の子達と約束をしているの」

 少し気になるけれど仕方ない。私が眉尻を下げて断りを入れると、ハリーとハーマイオニーはあからさまにガックリと肩を落とした。一方ロンはというと断るのは当然だ、という顔をしていた。「断って正解だよ。自分が死んだ日を祝うなんて絶対落ち込みそうじゃないか」というのがロンの意見である。

 しかし、約束さえなければ私は絶命日パーティーに参加しただろうと思う。確かに楽しくはなさそうなパーティーではあるけれど、後学のためにはなると思うのだ。それに、絶命日パーティーが一体どんなものなのか、知る機会なんて早々ない。

「どんなパーティーだったか、今度教えてね」

 私の言葉に元気よく頷いたのはハーマイオニーだけだった。