Phantoms of the past - 044

5. 隠し通路と閉心術



 図書室で閉心術の本を借り出しあと、私は夕食前には無事にハリーとロン、ハーマイオニーに会うことが出来た。ロンは逆噴射されたナメクジの呪いがまだ完全に効果を失っていないようで、時々ナメクジを吐いてしまうと話していたけれど、フレッドとジョージの言う通り、このあと控えている罰則の方が嫌そうだった。なんでも、トロフィー・ルームで銀磨き――しかもマグル式――を言い渡されたらしい。

 ハリーはロンと違う罰則で、ロックハート先生がファンレターに返事を書くのを手伝わなければならないらしく、心底嫌そうにしていた。ハリーは夏休み中もそうだけれど、ホグワーツに戻ってきてからもロックハート先生に絡まれて悩まされているみたいなので、彼のことが苦手なのだ。2日の日も度々絡まれたと言っていたし、その後は彼が現れる度に隠れるということを繰り返していたらしいので、無理もない。私でも銀磨きの方がいいと思うだろう。

 ハーマイオニーはマルフォイに「穢れた血」と言われたことを悲しんではいたけれど、それよりもその後に会ったハグリッドに「ハーマイオニーの使えない呪文は1つもない」と言われたことが嬉しかったようで、今はそれほど気に病んでいないと話していた。

 ハーマイオニーが気に病んでいないと分かってホッとしたのと同時に、私はマルフォイの本質が益々わからなくなった。上っ面だけを見ればただの嫌なやつだけれど、私はフローリシュ・アンド・ブロッツ書店での彼の行動がずっと引っ掛かっていたのだ。とはいえ、彼の本質がどうあれ、差別発言をしたことは許されることではないのだけれど――。

 話しているうちに夕食の時間が近付いてきたので、私達は別れることとなった。別れる直前、ポケットの中に入れていたお菓子を3人に渡すと、ハーマイオニーは「ハナ、貴方これをどこで手に入れたの?」と厳しい顔をしていたけれど、ハリーとロンはとても喜んでくれていたから良しとしよう。

 大広間で夕食を食べ、8時になるまで談話室で閉心術の本を読んで過ごしたあと、私は8時になる10分前に校長室へと向かった。校長室は行くたびに合言葉が変わっているのだけれど、今回の合言葉は「ココナッツ・キャンディ」だ。ダンブルドア先生が最近のお気に入りだと言って教えてくれるお菓子が、実は校長室の合言葉だということが分かる生徒はきっと私だけだろう。

「ココナッツ・キャンディ!」

 3階にあるカーゴイル像に合言葉を言うと、私はその背後に現れた螺旋階段に飛び乗った。レイブンクロー寮の入口と違って、校長室の螺旋階段はエスカレーターみたいに自動で上がってくれるのだけど、レイブンクロー寮の入口もそうなって欲しいものである。体力作りにはなるけれど、あれを毎日上り下りするのはとても大変なのだ。

 螺旋階段で上へと辿り着くと、そこに現れた扉は、私が階段から降りるといつも通り勝手に開いた。何か特殊な魔法が掛かっているのかもしれないけれど、それが何なのか調べるのはやめておこう。これ以上やることを増やしてしまったら、頭がパンクしてしまう。

「いらっしゃい、ハナ」

 私が部屋に入るとダンブルドア先生はにこやかに挨拶をした。ペットである不死鳥のフォークスやたくさんの魔法道具が置かれてある部屋の向こう――事務スペースにある事務机に座って待ってくれている。1年生の時と違って、今日は事務机の前にティーセットは置かれていなかった。

「こんばんは、ダンブルドア先生。それから、ココナッツ・キャンディのお土産です。お茶をする時にでも是非食べてくださいね」
「ありがとう、ハナ。早速明日のお茶の時にでもいただこうかの」

 差し出したココナッツ・キャンディを嬉しそうに受け取ると、ダンブルドア先生はそれを事務机の引き出しの中に仕舞った。私は挨拶が終わればすぐにでも閉心術の訓練に移るのかと思っていたのだけれど、ダンブルドア先生はまだ何もする気配がなかった。確かにここへ来るように言われた時は何も言われていかなったが、今日は閉心術の訓練ではないのだろうか?

「ダンブルドア先生、今日は閉心術の訓練だと思っていたのですが――」
「左様。しかし、君がわしに送ってくれた2通の手紙について先に話をしようと思っての。まず、1日に送ってくれた手紙じゃが……何者かがハリーを妨害しようとしている、とあったのが気になっての」

 ダンブルドア先生はそう話しながら、今度は先程ココナッツ・キャンディを仕舞った引き出しとは違う引き出しから2通の手紙を取り出した。夏休み中とホグワーツ特急の中で私が書いたものだ。

「実は夏休み中も私達がハリーへ送った手紙が途中で奪われて届かなかったということがありました。ハリーの話ではドビーという屋敷しもべ妖精ハウス・エルフの仕業なのだと」
「フム……わしも気になって調べてみたのじゃが、キングズ・クロス駅の9と4分の3番線の入口には何者かが魔法を掛けた痕跡があった。妨害されたのじゃろう。マクゴナガル先生から聞いたのじゃが、ミスター・パーシー・ウィーズリーの話では駅へ向かうまでも何度も忘れ物をして引き返して到着がギリギリになったそうじゃ。わしはこれもハリーをホグワーツへ行かせたくない何者かが魔法を掛けておったのじゃと思っておる」

 きっと、全てドビーの仕業だろうとすぐに分かった。私はドビーがハリーに嫌がらせをしようて、そんなことをしたのだとは思っていなかった。何故なら私は内容は知らないものの『ハリー・ポッター』の2巻目のタイトルが『秘密の部屋』であることを知っているからだ。そして、その部屋がサラザール・スリザリンの残した部屋だということも夏休み中にリーマスに聞いて知っている。

「ダンブルドア先生、これはドビーが主人に隠れてこっそり行ったハリーに対する警告だと思います」

 私ははっきりとした口調で述べた。

「秘密の部屋に関することです」

 私がその部屋の名を口にした途端、校長室の中がにわかに騒がしくなった。見れば、部屋の上の方に飾られた肖像画達が一斉に私に向かって何かを言っている。黒髪に黒い目、尖った髭に細い眉毛の男性は一際大きな声で「虚言をほざくな! 小娘め!」と喚いた。しかし、ダンブルドア先生が「フィニアス、鎮まるのじゃ。他の者もじゃ」というと肖像画達はピタリと静まった。彼はフィニアスというらしい。

「ハナ、秘密の部屋はここに飾られている歴代の校長達の誰も見つけられなかったものじゃ」
「けれども、今年度、秘密の部屋に関する何かが起こることは確実だと思います。ダンブルドア先生、ヴォルデモートはその部屋の場所を知っていたのではないですか?」

 ダンブルドア先生は私がそう言うと、じっとこちらを見つめたあと、静かな口調で「気を付けておこう」と夏休み中に書いた手紙の返信と同じことを繰り返したのだった。