Phantoms of the past - 043

5. 隠し通路と閉心術



 私達がホグワーツに辿り着く頃にはもう夕方になっていた。夕食前のこの時間帯は生徒や先生達が大勢城内を歩いているので、4階の隻眼の魔女の像をじっくり眺めている時間はあまりなかった。こちらの通路の開き方も教えて貰いたかったのだけれど、今度にすることして私はフレッドとジョージと共に早々にその場をあとにした。

「今日はすぐにでも夢の中に行けるだろうな」
「でも、その前にお腹がぺこぺこだわ。それに、ロンとハーマイオニーが心配だから早く会いたいわ」
「それなら、夕食の時に会うのが早いさ。探し回るより確実だ。その前にポケットの中身を部屋に置いてくるのが先決さ」

 話しながら私達は5階へ向かう階段を上がり始めた。レイブンクローとグリフィンドールの寮の入口は全然違う場所――西塔の5階と東塔の8階――にあるので、フレッドとジョージとは5階の途中でお別れとなる。階段を上り終えたらもう一度今日のお礼を言おう、なんて考えていると、

「おお、こんなところにいたのかね」

 5階からダンブルドア先生が下りてきて、私達はピシリと固まった。3人共膨れ上がったポケットをさりげなく隠そうとしたが、ダンブルドア先生の視線がサッと私達のポケットに向いたのを私は見逃さなかった。

「実にいい休日だったようじゃな」

 楽しそうに笑いながらダンブルドア先生が言った。しかし、ダンブルドア先生はそれ以上深く追及はしないつもりのようだった。なので私が「はい、とっても」と答えると、ダンブルドア先生は笑みを深めて何度か頷いてくれた。

「では、夜はわしに付き合って貰おうかの、ハナ」
「今夜ですか?」
「いかにも。今夜8時に校長室に来るように」

 きっと閉心術のことだと私はすぐにピンときた。ちょっぴりクタクタだったけれど、ダンブルドア先生はクタクタな時に閉心術の訓練をするのがいいと考えているのかもしれないと思った。開心術を使おうとする人達――主にヴォルデモート――はこちらの体調を気遣ってくれないからだ。

「はい、ダンブルドア先生」
「フム、よろしい。それからそうじゃ――そのポケットの中にココナッツ・キャンディは入っておるかね? わしゃ最近あれがお気に入りでの」
「ええ、あります。今夜お土産に持って行きますね」

 「おお、それは楽しみじゃ」と上機嫌で話すと、ダンブルドア先生はそのまま4階へ下りて行った。私達はその場でダンブルドア先生が見えなくなるまで待って、そして、

「罰則受けるかと思ったぜ!」
「ハナ、今夜8時って君だけ罰則を受けるとかじゃないだろうな?」

 今の今まで黙っていたフレッドとジョージが息を吹き返したように話し出した。私はそんな彼らに笑いながら「罰則じゃないわ」と答えた。

「私が時々ダンブルドア先生とお茶をするって貴方達も知っているでしょう? 今のはお茶のお誘いよ」

 本当は閉心術の訓練だけれど、言えるわけがないのでお茶ということにした。閉心術の訓練があるなら、校長室へ向かう前に閉心術の本を読んでおくのがいいかもしれない。それに、夕食前にはハリーとロン、ハーマイオニーにも会いたいし……やることがいっぱいだ。

 私は5階まで行くともう一度お礼を述べてからフレッドとジョージと別れた。5階のレイブンクロー寮の入口から螺旋階段を上り、談話室を抜けて「2年生」と書かれた部屋へ入る。同室の子達はみんな思い思いに休日を過ごしているのか、部屋には誰もいなかった。

 ポケットの中のお菓子は、ココナッツ・キャンディといくつかのお菓子だけを残すことにして、あとはポシェットの中に入れておくことにした。こっそりホグズミードへ行くので、お出掛けです! という雰囲気を出したらいけないと今日はポシェットを持っていかなかったのだけれど、次の時は拡張呪文を掛けた巾着袋を用意しようと心に誓った。次があるのかは分からないけれど、2年生の間には準備した方がいいかもしれない。3年生になったら、シリウスに食べ物を運ぶときに必ず必要になるからだ。

「さあ、まずは図書室に行かなくちゃ!」

 またやるべきことが増えてしまった――そう思いつつ、私はお菓子をしまい終えるとすぐさま部屋を出て寮をあとにした。泣き言は言っていられない。私は成すべきことを成す。それだけなのだから。