Phantoms of the past - 042

5. 隠し通路と閉心術



 フレッドを先頭に、私達はトンネルの中を歩き出した。トンネルは1人分程の大きさしかなかったが、天井は綺麗なアーチ状で地面もきちんと舗装されていた。松明の灯りも等間隔で並んでいる。しかし、5階から始まっているからか、道中にはいくつもの階段あり、トンネルはくねくねと曲がりくねりながら下へ下へと続いていた。そうして地下牢や厨房よりも更に下まできたのではないかと思い始めたころ、ようやくトンネルは真っ直ぐになった。

 いつも馬車で移動している距離を歩いて向かうので、出口に到着するのは思っていた以上に時間が掛かった。あまりに時間が掛かるので思わず「いつもこんなに時間を掛けてホグズミードへ行っているの?」とフレッドとジョージに訊ねると、彼らは「その先に楽しみがあると思えば大した時間じゃないさ」と答えた。

「さあ、出口が近いぞ」

 1時間くらいは経っただろうか。トンネルが徐々に上り坂になってきたころ、先頭を歩いていたフレッドが言った。1時間も歩くだなんて思っても見なかったけれど、毎日のランニングの成果か疲れはそれほどなかった。

「出口に人がいるかもしれない。ここからは静かに行こう」

 段々急になる上り坂を私達はなるべく足音を立てずに進んだ。出口がどこなのか2人に訊ねたかったけれど、話せないのでそれは出来なかった。夏休みの間に隠し通路はホグズミードにある建物に繋がっていると聞かされていたけれど、5階の鏡の通路の出口が具体的にどの建物なのか、私は聞いていなかった。予め聞いておけば良かったかも。

 10分後――古びた石段の前に私達は辿り着いた。物音を立てないように注意しながら慎重に上り、100段近く上ったと思われる頃、突然目の前のフレッドが立ち止まった。見れば、目の前に小さな扉がある。

 フレッドがそっと扉を開けて外を覗くと、そこには誰もいないようだった。まずはフレッドが小さな扉から腰を低くして這い出て、その次に私が、最後にジョージが外に出た。

「ここは、どこなの?」

 小さな扉の外は建物の中ではなく、外だった。どこかの店の裏のようである。今しがた出てきたばかりのそこを見ると、なんと、そこにあるのはただの建物の外壁だった。木の外壁で、指1本分の節穴が2つ空いている。この穴が扉の手掛けになっているなんて、誰が思うだろう。

「ホグズ・ヘッドっていう寂れたパブの裏さ――さあ、見つかる前に行こう」

 フレッドがそう言って、私達は「ホグズ・へッド」というパブの裏を抜けて、ホグズミードのメインの通りへと出た。

「うわあ!」

 そこに広がる景色はとても素晴らしいものだった。まるで絵本から飛び出してきたような可愛らしい茅葺屋根の小さな家や店が通りの両端に軒を連ねていて、お伽噺の世界に迷い込んだようだった。ダイアゴン横丁ともゴドリックの谷とも全く違う景色がそこにはあった。

「感動するのはまだ早いぜ、ハナ」
「まずは三本の箒でバタービールを飲もう」

 フレッドとジョージの案内で、私達は「三本の箒」に向かって歩き出した。驚いたことに、ホグズミードの人達は私達が歩いていても先生達に連絡するようなことはなく、村の人達は「また来たのかい?」と笑って2人に話し掛けていた。周りがそんな感じなので2人も堂々と村の中を歩いていて、どうやらここでは隠し通路さえバレないようにすればいいようだった。

 最初に行った「三本の箒」はホッグズ・ベッドと同じパブのようで、中は大勢の人がいて、賑やかで、明るい印象だった。カウンターには誰が見ても魅力的だと思える魔女が1人、立っている。マダム・ロスメルタという人だとジョージが教えてくれた。

 そこでバタービールを飲んだのだけれど、これがとっても美味しかった。バタービールはビールのような色合いの飲み物なのだけれど、味はビールとは違って冷やし飴にバターが混ざったような感じだった。とても濃厚な甘さなのだけれど、寒い日には特にピッタリだと思った。

 次に向かったのは「ゾンコの悪戯専門店」だった。上級生達がホグズミード休暇の時にはここが足の踏み場もないくらい人がたくさんいるらしいのだけれど、今日は閑散としていた。

 ゾンコの店には珍しい悪戯グッズが所狭しと並べられていた。私がダーズリー一家に投げつけたいと思っていたクソ爆弾もあったし、他にも私の知らないしゃっくり飴やカエル卵石鹸、鼻食いつきティーカップなどの悪戯グッズが山ほどあった。

 フレッドとジョージがそこでクソ爆弾を補充すると、私達は「マダム・パディフットの店」の前―― 真っピンクのフリルだらけのお店で入るのはちょっと遠慮したいと思った――を通り過ぎ、「ハニーデュークス」へとやってきた。ここには色取り取りのお菓子がたくさん置いてあって、前にジェームズ達が言っていた「ゴキブリ・ゴソゴソ豆板」や「ハエ型ヌガー」もあった。

 ここでは3人共たくさんのお菓子を買ったのだけれど、支払いを終えると私達は店の表ではなく、カウンターの奥へと向かった。このハニーデュークスの地下倉庫にもう1つの隠し通路が隠されているのだ。

 店員の目を盗んでカウンターの奥へ入り、階段を降りるとそこはもう地下の倉庫だった。ここでは床に隠し通路への扉が隠されているらしく、今度は行きと逆でジョージ、私、フレッドの順に隠し通路の中へと入った。

「ルーモス!」

 こっちの道は行きとは違って明かりが何もなかった。しかもこの道のトンネルはまるでウサギの洞穴のようで地面も壁も天井もボコボコとしていて気をつけていないと転びそうだった。何段もある石段を下り、下り坂を慎重に進み、暗い隠し通路を杖の灯りを頼りにホグワーツへと進んでいく。

「とーっても楽しかった!」

 下り坂を過ぎたころ、私はようやく声を出した。目の前を歩いているジョージが振り返って「そりゃ良かった」と笑う。

「バタービールも美味しかったし、悪戯グッズも面白かったわ。お菓子も不思議なものがたくさんあって――本当にありがとう。こんな経験、貴方達とじゃなきゃ、出来なかったわ」
「まだあんなもんじゃないぞ。叫びの屋敷も行ってないし、郵便局も圧巻だ。羽根ペンの店もある」
「本当? とーっても素敵。叫びの屋敷に私、行ってみたいわ。そこがどういうところなのか、一度見てみたいと思っていたの」

 帰りも1時間かけて戻って、私達は4階の隻眼の魔女の像に辿り着いた。やっとホグワーツの廊下に出た時にはもうすっかり夕方になっていて、私もフレッドもジョージも歩き過ぎてクタクタになっていたのだった。