Phantoms of the past - 041
5. 隠し通路と閉心術
9月に入って初めての土曜日がやってきた。いよいよホグズミードへ行く日である。因みにフレッドとジョージとは昨日の夕食の前に「みんなが昼食で大広間に集まる12時半頃に5階の廊下で落ち合おう」と話をしていて、待ち合わせもばっちりだ。
規則違反であることは分かっているんだけれど、私はこのホグズミード行きがとても楽しみだった。午前中の空いた時間にいつものルーティンをし、レイブンクローの談話室で『幻の動物とその生息地』を読みながらソワソワ過ごして、約束の時間には5階の廊下に向かった。
「フレッド! ジョージ!」
待ち合わせの場所へ向かうと、フレッドとジョージはもうそこにいた。彼らは何やら羊皮紙を覗き込んでいたけれど、私がやってくるとそれを閉じてフレッドが自分のポケットの中に突っ込んだ。あれは何か私に知られたらまずい悪戯グッズの買い出しリストに違いない。彼らの名誉のために詮索はしないことにしよう。
「やあ、ハナ」
「時間ぴったりだな」
昼食の時間帯なので当たり前だが、廊下には私達以外誰もいなかった。しかし、だからといってあまりのんびりしていては誰かに見つかってしまうかもしれない。というわけで、私達は顔を合わせると挨拶もそこそこに移動をすることになった。フレッドとジョージの話では、待ち合わせの廊下から隠し通路のある鏡は比較的近い場所あるらしい。
「聞いてくれよ。俺達、オリバーに夜明けと共に起こされたんだぜ」
歩き出して間もなく、フレッドが心底疲れた声で言った。なんでも、彼らは新しい戦術を試すというグリフィンドールのクィディッチ・チームのキャプテンであるオリバー・ウッドに叩き起こされたそうで、今日は少し寝不足らしい。
しかも、フレッドとジョージの話では、夜明けに突然叩き起こされること以外にも大変なことが怒ったらしい。寝起きで長々と新戦術の話をされた挙句、いざ練習を始めようとするとスネイプ先生の許可証を持ったスリザリン・チームがやってきて言い争いが始まったのだ。
スリザリン・チームは新しいシーカーであるマルフォイを従え、全員が最新の箒であるニンバス2001――ルシウス・マルフォイが買ってくれたらしい――を持っていたそうだ。その箒を自慢気に見せるだけならまだ可愛げがあるけれど、やはりというかなんというか彼らはグリフィンドール・チームの箒をバカにし出したという。
そこで、その場に居合わせたハーマイオニーが「少なくとも、グリフィンドールの選手は、誰一人としてお金で選ばれたりしてないわ。こっちは純粋に才能で選手になったのよ」と言い返したらしい。けれど、それがマルフォイのお気に召さなかったようだ。
「マルフォイがハーマイオニーを“穢れた血”と呼んだんだ。大乱闘が始まる寸前だった。怒ったロンがマルフォイに呪いをかけようとして――失敗した」
「ロンの杖は折れてるから逆噴射されたんだ」
「私、全然知らなかった――ロンは大丈夫なの? それに、ハーマイオニーも心配だわ……」
「ロンは大丈夫さ。ただ、ナメクジを吐いちまうだけさ。昼前に見かけた時はマクゴナガルに派手なご登場の際の罰則を伝えられて、そっちに顔色悪くしてたぜ。ハーマイオニーも僕達が見掛けた時は大丈夫そうだった」
私も朝の時間帯にはランニングをしたり座禅をしたりしていたけれど、クィディッチ競技場の方へは行かなかったから、彼らと鉢合わせにならなかったらしいい。しかも朝のルーティンのあとは談話室にいたので、ハリーやロン、ハーマイオニーに会っていないのだ。ホグズミードから戻ったら真っ先に会いに行かなくては。
「それにしても穢れた血だなんて――」
「古い考え方さ。自分達が高貴で偉いと思ってる」
「そんなのナンセンスだと思わないか? 俺達のご先祖様がマグルと結婚してなきゃ魔法族はとっくに絶滅してるぜ。賭けてもいい」
話をしているうちに私達は鏡の前に到着した。人通りの少ない場所にあるその壁掛けの鏡は、枠に美しい装飾がされていることや大きいという以外は、特別変わったところのない普通の鏡だった。壁にぴったり張り付いているので、ここに通路が隠されているなんて
「さあ、辛気臭い話はここで終わりだ」
フレッドがニヤリと笑って言った。
「ハナ、ここを5回ノックしてみて」
鏡の枠にあるバラの装飾を指差して、今度はジョージが言った。何の変哲もないバラである。
私は周りに誰もいないことを念入りに確認してから、そこを慎重にノックした。1回、2回、3回、4回、5回――すると、ノックする前は5cmほどで平らだった薔薇の装飾が、みるみるうちに大きくなった。装飾はどんどん立体的になり手前に迫り出してきて、10秒後――動きを止めたバラの装飾は、見たこともないほど美しいバラのドアノブに姿を変えていた。
「美しい魔法だわ……素敵」
私が感嘆の声を漏らすと、フレッドとジョージは満足気に笑っていた。しかし、ここでドアノブを眺めている暇はあまりない。今度は出来立てほやほやのドアノブを握りカチャリと捻ってみると、壁にピッタリとくっついていたはずの鏡がゆっくりと開いた。中にはぽっかりと大きな穴が1つある。
「すごい」
ドキドキしながら中を覗き込むと、穴は先が見えないほど真っ暗だった。まさに隠し通路に相応しい道である。この先にホグズミードがあるなんて、とっても素敵だ。
穴にはまず、フレッドが入った。床から少し高い位置にあるのでよじ登って入り、次に私がフレッドの助けを借りながら穴に入った。最後はジョージで、全員が穴の中に入ると鏡の扉は完全に閉ざされ、穴の中は一瞬真っ暗になった。しかし、
「「ホグワーツの隠し通路へようこそ」」
2人のその言葉を合図に長いトンネルの両側に松明の明かりが灯ったのだった。