Phantoms of the past - 040

5. 隠し通路と閉心術



 ホグワーツが再開して数日が経った。
 この数日、ハリーはロックハート先生やグリフィンドールの新入生であるコリン・クリービーという男の子に頻繁に絡まれてとても大変そうにしていた。どうやら2日の日に散々な目にあったらしく、その日の夜再び顔を合わせた時には疲れ切った顔をしていた。

 ロンも折れた杖が調子が悪くて、何もしていないのに火花が出たり、シューシュー煙が出たりして悪戦苦闘しているようだった。「新しい杖を送って貰ったらどう?」と提案してみたのだけれど、ロンはそうしたらまた吼えメールが届くと言ってウィーズリー夫妻に手紙を書くことを頑なに拒んでいた。

 ハーマイオニーはというと、ハリーとロンと違っていつも嬉々としていた。というのも彼女はロックハート先生の大ファンだからである。彼女は、初授業で彼がピクシー妖精を大暴れさせた上、後処理を押し付けられても彼は体験させたかっただけだと信じて疑わなかったらしい(ロン談)。因みにレイブンクローでは3日の午前にD.A.D.Aの授業があったのだけれど、内容は寸劇に変えられていた。どうやら、ピクシー妖精は1回で懲りたようだ。

 私はというと、既に色んなことに追われていた。1年生の時は日々の宿題に加えて、動物もどきアニメーガスを習得するための勉強や戦いに必要な呪文の勉強くらいで良かったけれど、今年度はそれに魔法界の歴史や文化、魔法生物についての勉強、そして、ダンブルドア先生の閉心術の訓練が加わったのだ。

 それに秘密の部屋のこともあるし、私にはのんびりしている時間はあまりなかった。まだ閉心術の訓練は始まっていなかったけれど、始まってしまえばもっと忙しくなるのは分かりきっていたので、今のうちにやれる範囲をやっておこうと毎日ギリギリまで図書室で粘っていたら、セドリックに心配されてしまった。

「ハナ、君、O.W.L試験を控えた5年生やN.E.W.L試験を控えた7年生より勉強してるよ」

 図書室の例の1番奥の席で一緒に勉強している時、セドリックはひどく真面目な顔で私に言った。そんな彼に私は苦笑いしながら応えた。

「うーん……私もそう思うわ」
「少し減らしたらどうだい? 変身術や呪文学なんて、僕と同じ範囲をやってるじゃないか」
「ええ、そうね。でも私、大丈夫よ。優先順位はちゃんと決めてあるの。心配してくれてありがとう、セドリック」

 私の最優先事項は動物もどきアニメーガスと閉心術だった。特に動物もどきアニメーガスは、今年度中に習得しなければならないので、私は特に変身術の勉強に力を入れていた。9月最初の日曜日には必要の部屋に行って、無言呪文の練習も再開する予定である。

 無言呪文はまだ1度も成功していなかったけれど、今年度は少し成功する可能性があった。というのも、3ヶ月前の6月――私は地下にある部屋でたった1回だけだけれど、杖なしで呪文を使うことが出来たからだ。あれから1度も試せていないので、また出来るか分からないけれど、あの感覚を思い出せればきっと成功への時間はグッと早まるはずだ。

 そんな前の世界でなら有り得ないほど勉強漬けの毎日を送っている私だけれど、楽しみもあった。朝のランニングに座禅である。同室の子達は私が毎朝ランニングしていることに心底驚いていたけれど、これがいい気分転換になるのだ。

 それに、フレッドとジョージと約束していたホグズミード行きが明日に迫っていた。私もフレッドもジョージもホグズミードへこっそり忍び込むこの計画をとても楽しみにしていて、この数日は顔を合わせる度に3人でにんまり笑い合っていた。


 *


 金曜日の午後、私は昼食を食べると図書室には直行せずにハグリッドの小屋に行くことにした。禁じられた森で花を摘ませてもらって、それをマートルのところに持っていこうと思ったのだ。この日はとても気持ちのいい天気で、ハグリッドの小屋へ向かうのに校庭を横切っていると気持ちのいい風が吹いている。

「ジニー!」

 ハグリッドの小屋の方へ向かっているのは、私だけではなかった。目の前に見慣れた赤毛の女の子の姿を見つけて声を掛けると、ジニーはバッと効果音が付きそうなほどの速度でこちらを振り向いた。驚かせてしまったのかもしれない。

「こんにちは、ジニー。初めての1週間はどうだった? 貴方もハグリッドの所へ行くところなの?」

 ジニーは無言で私の方をジーッと見つめていた。なんだかいつものジニーとは様子が違うように思えて、「どうしたの、ジニー」と問い掛けると、彼女はようやく「なんでもないわ、ハナ」と口を開いた。

「あたしは散歩をしていたの。ねえ、ハナについて行ってもいいかしら?」
「ええ、もちろん。花を摘みにいくのよ」

 2人でハグリッドの小屋を訪れるとハグリッドは快く迎えてくれた。花を摘みたいのだと伝えると、前に連れて行ってくれた場所に案内してくれたのだけれど、その途中、自慢の畑を見せてくれた。畑は小屋の裏にあるのだけれど、そこには今年のハロウィーン用に育てているという特別大きなかぼちゃがある。

「ハグリッド、とっても上手く育てているのね」

 私がニッコリ笑って言うとハグリッドは大きな咳払いをしつつ、「あー、まあな――ちーっと手助けしてやっとるからな」とソワソワしながら言った。かぼちゃに肥らせ魔法を使っていることを知られたくないらしい。ハグリッドは許可なく魔法を使ってはいけないことになっているのだ。なんでも、3年生の時に退校処分になって杖を折られたらしい。うろ覚えだけれど『賢者の石』でそんな話をハリーにしていた気がする。でも、そもそも何故退校処分になったのかは分からなかった。

「ハグリッド、花を摘ませてくれてありがとう。マートルも喜ぶと思うわ」

 畑を見たあと森で花を摘ませて貰うと私は言った。ハグリッドに「マートルに花をやろうって奴はお前さんくらいだ」と笑われながら見送られると、ここまで一緒だったジニーとも別れて私は3階の女子トイレに向かった。私が花を持って現れると、

「まーたあんたなの? 物好きね」

 なんて言われてしまったけれど、なんだかんだ追い出されないので、私はマートルと友情を築けていると思う。