Phantoms of the past - 039

4. 空飛ぶフォード・アングリア



 大広間の入口で私はハリーとロンと別れた。
 中に入ってレイブンクローのテーブルを見てみると、先に行ってて、と伝えていた同室の子達は教職員テーブルの近くに座っていた。彼女達は私がやってくるのが見えたようで、目が合うと「ここよ!」と教えるように手を大きく振っている。

 同室の子達に手を振り返すと私はレイブンクローとハッフルパフのテーブルの間を進み、奥へと向かった。その途中のハッフルパフの席にはたくさんのハッフルパフ生に囲まれたセドリックの姿がある。彼は人気者なのだ。私はセドリックならあのことについて知っているかもしれないと思ったけれど、ニッコリ笑って挨拶するだけに留めた。

 あのこと、というのはロンの杖のことだった。実は話を終えて3人で大広間に向かっている途中、杖が折れてしまったのだとロンから話を聞かされたのだ。修復呪文を唱えてみたけれど直らず、他に方法がないかセドリックに聞いてみたかったのだ。いや、セドリックは杖を折ったことがないかもしれない。

「ハナ、フルーツを取っておいたわ」
「貴方、今日顔色が悪いからフルーツの方がいいって私達話していたの」
「食べられそう? 無理はしないでね」
「ええ。ありがとう、みんな」

 確かに寝不足の胃にトーストやスクランブルエッグを詰め込むものではないだろう。フルーツを選んでくれていた同室の子達に感謝をしながら食べ始めると、大広間にふくろう達が押し寄せてきた。もう、ふくろう便の時間だったのだ。1年生の時と同じようにロキが挨拶に来てくれて、私は指先で撫でてやりながらフルーツをお裾分けした。

 そのまま朝食を食べながら、杖の修復に使えるものがないか同室の子達に訊ねてみると、パドマがスペロテープの存在を教えてくれた。どうやらセロハンテープのようなものらしく、魔法道具の修理の時に使うらしい。

「今ちょうど持ってるの。これよ――私、予備を持っているからこれハナにあげるわ」

 パドマが取り出して見せてくれたスペロテープは本当にセロハンテープのようだった。これで杖を巻いたらあれ以上ひどいことにはならないかもしれない。お礼を言って受け取りながらそう考えて、スペロテープをしげしげと眺めていると、

「……車を盗み出すなんて、退校処分になっても当たり前です。首を洗って待ってらっしゃい。承知しませんからね。車がなくなっているのを見て、私とお父様がどんな思いだったか、お前はちょっとでも考えたんですか……」

 大広間中にウィーズリーおばさんの声が響き渡って私はビックリしてグリフィンドールの席を振り返った。見れば、真っ赤な封筒がロンの目の前に浮いている。

「可哀想に。吼えメールね」

 パドマが苦笑いしながら言った。私達4人の中で唯一パドマだけが両親共に魔法族なので、もしかしたらあれを見たことがあるのかもしれない。リサが「吼えメールって何?」とパドマに訊ねた。

「吼えメールは見ての通り、ああやって文句を言いたい時とか嫌がらせをしたい時に使うの。開けずに放っておいたら、爆発するのよ」

 周りの生徒は一体誰が吼えメールを貰ったのかとキョロキョロしていた。そんな視線に気付かれないように、ロンは出来るだけ小さくなろうとしていたけれど、テーブルからウィーズリー家のトレードマークの赤毛が見えてしまっていた。

「……昨夜ダンブルドアからの手紙が来て、お父様は恥ずかしさのあまり死んでしまうのでは、と心配しました。こんなことをする子に育てた覚えはありません。お前もハリーも、まかり間違えば死ぬところだった……」

 吼えメールは尚もロンにお説教を続けていた。

「……まったく愛想が尽きました。お父様は役所で尋問を受けたのですよ。みんなお前のせいです。今度ちょっとでも規則を破ってごらん。私達がお前をすぐ家に引っ張って帰ります」

 吼えメールはお説教を終えると、炎となって燃え上がった。そして大広間がシーンと静まり返ると、少ししてから何人かが笑い声を上げて、そこから段々といつも通りのお喋りの声が戻ってきた。私は未だに呆然としている様子のロンとハリーを見て、みんなが2人を心配していたことが伝わっていることを願った。


 *


 朝食のあと、私はパドマから貰ったスペロテープを持って再びハリーとロンに会うことになった。今度はハーマイオニーも一緒で、ロンの話では昨日は怒っていたらしいけれど、私が顔を合わせた時は全く怒ってはいなかった。

 折れた杖はハーマイオニーが修復呪文を唱えてもやっぱり元には戻らなくて、結局スペロテープでこれ以上折れないようにぐるぐる巻きにすることになった。ハーマイオニーは初めて見るスペロテープに興味津々で、今度ダイアゴン横丁に行ったら買いたいと話していた。

 それから私は、やっとハリーとロンに昨日何があったのかを聞くことが出来た。なんと、2人は9と4分の3番線の柵を通り抜けられなかったのだ。なので彼らは――その判断が良かったのか悪かったのかは別として――車を飛ばしてホグワーツへ向かうことにしたのだそうだ。

 もしかしたらハリーとロンがホグワーツに手紙を出さなかったのは、夏休み中ドビーに邪魔をされた経験があったからだろうかと思って私が訊ねてみると、彼らはそのことを考えもしなかったのか、口をあんぐり開けていた。

「それ、昨日聞きたかったよ……」

 そう言うロンにハーマイオニーが呆れた視線を送ったのは、言うまでもない。