Phantoms of the past - 037

4. 空飛ぶフォード・アングリア

――Harry――



 少なくともスネイプは、ハリーとロンが退校処分になるのが相応しいと考えているようだった。とても貴重な暴れ柳――あの木の名前らしい――が被害を受けたと御立腹だったし、そもそも車でホグワーツまでやって来たことも、当前だが気に入らないようだった。

 けれど、スリザリンの寮監であるスネイプにはグリフィンドール寮生であるハリーとロンを退校処分には出来ないらしい。スネイプは苦々しげにそう伝えると、退校処分の決定権を持っている人達を連れてくると言って、一旦部屋から出て行った。連れてきたのはマクゴナガル先生だ。

「ご説明なさい」

 マクゴナガル先生がスネイプと違ったのは、何故車でホグワーツまで来ることになったのかの経緯をきちんと聞いてくれたことだった。けれども、聞いてくれただけで決して怒っていないわけではなかった。ハリーとロンが柵が通り抜けられずに汽車に乗り遅れたこと、他に方法がなかったことを懸命に伝えたが、マクゴナガル先生は「何故、ふくろう便を送らなかったのですか? 貴方はふくろうをお持ちでしょう?」と冷たく言い放っただけだった。

「貴方達は思いつきもしなかったでしょうが、ミスター・パーシー・ウィーズリーは、汽車の中に2人がいないと報告を受けてふくろう便を送ってくれました」

 マクゴナガル先生が固い表情のまま言った。

「ミス・ミズマチもダンブルドア先生にふくろう便を送ってくれています。それがなければ今頃貴方達はどうなっていたことか――」

 ハリーとロンは、何故自分達が汽車に乗っていなかったことが既にバレているのかようやく知ることが出来た。パーシーとハナが手紙を書いたからだったのだ。もし、パーシーとハナが手紙を書かなければ、今頃ハリーとロンは誰にもバレずにグリフィンドールの談話室に戻れたかもしれない。

 ハリーがそんなことを考えていると、マクゴナガル先生をここまで案内したあと、またどこかへ居なくなっていたスネイプが今後はダンブルドアを連れて戻ってきた。ダンブルドアはひどく失望したような声で「どうしてこんなことをしたのか、説明してくれるかの?」と聞くので、ハリーはスネイプのように怒鳴ってくれた方がマシだとすら思った。

 ハリーはダンブルドアの顔を見れずにダンブルドアの膝を見ながら、マクゴナガル先生にした説明をもう一度話した。きっとダンブルドアにはお見通しだろうけれど、ウィーズリーおじさんに迷惑が掛からないように車の持ち主がウィーズリーおじさんであることは伏せて偶然見つけたように話した。

 ハリーもロンもきっと退校処分になるのだと思ったが、なんとダンブルドアもマクゴナガル先生も2人を退校処分にすることはなかった。ただ、2人の家族に手紙を書くこと、今後このようなことがあれば今度こそ2人を退校処分にせざるを得ないということをダンブルドアはハリーとロンに話した。

 ハリーとロンは罰則を受けることになったけれど、まだホグワーツが始まる前にしでかしたことなので、寮の減点はされなかった。2人はスネイプの研究室でマクゴナガル先生が魔法で出してくれた食事を食べ、そのまま大広間へは行かずにグリフィンドール寮へと行くことになった。

「やっと見つけた! 一体どこに行ってたの? バカバカしい噂が流れて――誰かが言ってたけど、貴方達が空飛ぶ車で墜落して退校処分になったって」

 寮の目の前までくると、ハリーとロンはようやくハーマイオニーと再会を果たした。2人の元へすっ飛んで来たハーマイオニーにハリーが安心させようと「退校処分にはならなかった」と伝えたが、あまりお気に召さなかったらしい。空飛ぶ車で墜落したという部分を否定しなかったことにハーマイオニーはすぐに気付いたのだ。

「まさか、ほんとに空を飛んでここに来たの?」

 まるでマクゴナガル先生のように厳しい口調でハーマイオニーが言った。

「お説教はやめろよ」

 ロンがイライラして返した。

「新しい合言葉、教えてくれよ」
「“ミミダレミツスイ”よ。でも、話を逸らさないで――」

 しかし、ハーマイオニーのお説教は長くは続かなかった。合言葉で太った婦人レディの肖像画が談話室への入口をパッと開くと、突然拍手の嵐が巻き起こったからだ。新学期の歓迎式を終えたほとんどのグリフィンドール寮生が起きてハリーとロンを待ってくれていたのだ。

 グリフィンドール生達は大盛り上がりで、フレッドとジョージなんて「オイ、なんで、俺達を呼び戻してくれなかったんだよ?」と言っていたし、その悪友のリー・ジョーダンも「やるなぁ! 感動的だぜ! なんてご登場だ! 車を飛ばして “暴れ柳” に突っ込むなんて、何年も語り草になるぜ!」とハリーとロンを囃し立てた。

 しかし、その中にもハーマイオニーと同様ハリーとロンをお説教したがっている生徒がいた――パーシーだ。盛り上がっている生徒達の中、パーシーは明らかに不機嫌そうな顔をして2人を叱りつけようとこちらに向かってきている。

 これ以上怒られたくはなかったハリーとロンは未だに盛り上がる生徒達の中からなんとか抜け出して、自分達のベッドがある部屋へと向かった。向かいながハリーはハーマイオニーとパーシーがあんなに怒っていたのだから、ハナもきっと怒っているに違いない、と思った。もしかしたら、ダンブルドアのように失望してしまったかもしれない。

 そう思うとハリーはズーンと胃が重くなる気がしたが、ロンは違うようだった。部屋まで続く階段を上り、新たに「2年生」と書かれた扉の前に辿り着くとロンは「僕、あそこで喜んだりなんかしちゃいけないって、わかってたんだけど、でも――」と話しながらハリーを見て罰が悪そうにニヤッと笑った。

「僕、ハナも怒ってると思うな」
「ハリー、その話はするなよ――」

 しかし、ハリーも同じ2年生で同室のシェーマス、ディーン、ネビルが2人のあとを追って部屋にやって来るととうとう我慢出来なくなった。

「ほんとかよ!」
「かっこいい」
「すごいなぁ」

 と次々に言う3人にハリーは遂にニヤッと笑った。