Phantoms of the past - 033

4. 空飛ぶフォード・アングリア



 ホグワーツ特急が小さなホグズミード駅に到着すると、辺りはすっかり暗くなっていた。私達はハグリッドの案内で別の道へと行くジニーと別れ、駅の前に待機していた馬なし――私にとっては馬有り――の馬車へと乗り込んだ。同じ馬車に乗ったのはセドリックとハーマイオニー、それからフレッドとジョージだ。

 フレッドとジョージはハリーとロンの件について、「なんとかなるさ、心配ない」と私達の中では楽観的な方だったが、ハーマイオニーは手紙を出してからも何度も確認に行って心配そうな顔をしていた。ジニーもホグワーツ初日から起こるトラブルに不安そうだったし、セドリックは私達と同じように2人のことをとても心配してくれた。

「大丈夫かしら……」

 ホグワーツへと向かう馬車の中で、ハーマイオニーがもう何度目かになる言葉を呟いた。私は「きっと大丈夫よ」と言ってそんな彼女の背中を撫でたが、大丈夫な保証はどこにもなかった。今の私に出来ることといえば、ふくろう便が早めに到着して、無事にハリーとロンがホグワーツへ辿り着けていることを祈ることだけである。

「マクゴナガル先生とパーシーだわ」

 ホグワーツ城の玄関扉の前へと到着すると、マクゴナガル先生とパーシーの姿を見つけて私は言った。難しい顔をして話をしているので、きっとハリーとロンのことを話しているに違いないとすぐに分かった。ふくろう便が届いたのか、2人がどうなったのか私達も確認しなければいけない。私がそう思ってみんなを見ると、みんな同じことを考えていたのか深く頷いてくれた。

「マクゴナガル先生!」

 私達が駆け寄りながらマクゴナガル先生に呼び掛けると、マクゴナガル先生はいつになく深刻な表情をして振り返った。そんなマクゴナガル先生の手には1通の羊皮紙が握られている。ホグワーツ特急より先に、パーシーが書いた手紙が届いていたのだ。

「良かった。先生、手紙が届いていたんですね。ハリーとロンはもうこっちに着いていますか? 私達、2人が無事か心配で」

 同じように手紙に気付いたハーマイオニーが矢継ぎ早にそう問い掛けると、マクゴナガル先生は「今状況を確認中です」とだけ言った。それを聞いて私は、もしかするとふくろう便が届いたばかりなのかもしれない、と思った。ハリーとロンのことを知って、慌てて確認を取っている最中なのだろう。

「貴方達がいち早く気付き、ふくろうを飛ばしくれて助かりました。ミスター・パーシー・ウィーズリーの話ではギリギリで汽車に乗ったようですが、どうして2人だけが乗り遅れたのか――」
「マクゴナガル教授、ちょっとよろしいですかな」

 厳しい表情でマクゴナガル先生が話をしていると、誰かが話し掛けてきて、マクゴナガル先生の言葉は中途半端に途切れた。見れば、生徒達の群れの中からいつになく不機嫌そうな表情のスネイプ先生こちらに歩いてきていた。その手には、何故か日刊予言者新聞の夕刊が握られている。

「ポッターとウィーズリーの件でお話が」

 スネイプ先生はそう言うとマクゴナガル先生にだけ見えるように、日刊預言者新聞の夕刊を見せた。すると途端にマクゴナガル先生が顔を青ざめさせ、私達に「貴方達は他の生徒達と一緒に大広間に向かいなさい」とだけ言い残して、大急ぎでスネイプ先生と共に城の中へと行ってしまった。

「一体何があったんだ?」

 ジョージが訝しげな表情で言った。

「おい、誰か記事を見たか?」

 今度はフレッドが問い掛けた。
 けれど、この中の誰も記事を見た人はいなかった。もっと時間があるならハリーとロンから連絡があったのかや、ウィーズリー夫妻からの連絡があったのかも訊ねたかったけれど、あの様子だとどちらもなかったのかもしれない。

 後ろ髪引かれる思いで、とぼとぼと大広間に向かうと私達はそれぞれの寮のテーブルに着いた。レイブンクローのテーブルに着くと、マンディやリサ、パドマがそばにやって来たけれど、私は彼女達と楽しくお喋りをする気分にはなれなかった。ハリーとロンがどうなったのか、結局何も分からなかったからだ。

 マクゴナガル先生の様子だとハリーとロンやウィーズリー夫妻からはどうも手紙が来ていないようだった。ハリーをホグワーツへ行かせまいとドビーが妨害しているから手紙すら届かなかっただけなのか、それとも、ホグワーツ特急に乗る直前にハリーとロンの身に何か起こって、それをウィーズリー夫妻が知らないままでいるのか――

「なあ、ポッターとウィーズリーが空飛ぶ車で墜落して退校処分になったらしいぜ」

 私がそんなとんでもない噂を聞いたのは、組分けの儀式と歓迎会が終わり、寮へ戻る直前のことだった。