Phantoms of the past - 032

4. 空飛ぶフォード・アングリア



 ホグワーツ特急の発車時刻である11時が近付くにつれ、9と4分の3番線のプラットフォームには私達が来た時よりも多くのホグワーツ生やその見送りの家族の姿が見られるようになった。汽車の中の通路もコンパートメントや友達を探すホグワーツ生がたくさん行き交い、その中には私やセドリックの友達の姿もあった。

 中でもハーマイオニーは未だにロックハート先生のサイン会の時の興奮が冷めていないのか「ハナ、ここにいたのね!」と嬉しそうにコンパートメントにやってくると、「ねえ、ロックハート先生の本は全て読んだ? 彼ってとっても素晴らしいと思わない? あんなに色んなことを成し遂げてるだなんて。今日から毎日ロックハート先生にお会い出来るだなんて信じられないわ」とマシンガントークを繰り広げて「じゃあ、私ハリーとロンを探さなくっちゃ!」と去って行った。

「彼女はロックハートのファンなんだね」

 セドリックが微笑ましそうに笑いながら言った。

「そうなの。彼が今年度のD.A.D.Aの先生だって知ってとっても嬉しいみたいね。セドリックは新しく指定された本をもう読んだ?」
「ひと通りはね。ハナは?」
「私もひと通りは読んだの。授業が素晴らしいといいんだけれど……」

 実はナルシストだと思っているなんて言えなくて、言葉を濁しながらそう話すと、少なくともファンではないということはセドリックに伝わってしまったらしい。セドリックは少し意外そうにしながら「君は彼のファンじゃないんだね?」と訊ねた。

「ええ、ファンではないの」
「僕の母さんはロックハートの大ファンなんだ。とってもハンサムだって」

 ディゴリー夫人は日刊予言者新聞でロックハート先生が今年度のD.A.D.Aの先生に選ばれたことを知って、大喜びだったらしい。ウィーズリーおばさんもファンのようだったし、サイン会もすごい人集りだったので、もしかしたら世の中のご婦人はみんなロックハート先生のファンなのかもしれない。私はセドリックの方が断然ハンサムだと思うけれど。

 ロックハート先生について話をしているうちに発車時刻である11時になったのか、いつの間にか汽車はゆっくりと動きが出していた。徐々にスピードを上げながらロンドンの街中を通り抜けると、窓から見える景色は都会から牧場や草原などが広がる田舎のそれへと変化していく。きっともう少ししたら車内販売が来るだろう。そんなことを考えながら、セドリックと話をしていると、

「ハナ!」

 慌てた様子でハーマイオニーが舞い戻ってきた。

「ハーマイオニー、どうしたの?」
「ハリーとロンがどこにもいないの。私、全部のコンパートメントを見て回ったと思うんだけど、どこにも」

 取り乱した様子でそう話すハーマイオニーに私とセドリックは「まさか」という表情でお互い顔を見合わせた。けれども、言われてみれば私はハリーやロンどころか、ウィーズリー家の人達にはまだ1人も会っていなかった。早々と汽車に乗り込んでいたにも関わらず、だ。

「フレッドやジョージには会った? それに、ジニーやパーシーには?」
「フレッドとジョージとジニーには会えたわ。パーシーには会えなかったけれど、監督生用のコンパートメントかもしれない。それで、話を聞いたら彼らはギリギリで駅に着いたみたいなの」
「もう1度探しましょう。今度は私も一緒に探すわ」

 話を聞いていたセドリックも「僕も手伝うよ」と言ってくれて、私達は手分けをしてハリーとロンを探すことにした。しかし、ハーマイオニーの言う通り2人の姿はどこにも見当たらなかった。ウィーズリー兄妹の話によるとギリギリに到着したみたいだけれど、彼らは乗れているのにハリーとロンだけが乗り遅れるということがあるのだろうか? それとも、ハリーがドビーに受けたという警告が何か関係しているのだろうか。

「ハナ、ロンとハリーはいたか?」

 1つ1つ慎重にコンパートメントを見ながらハリーとロンを探していると、目の前からフレッドとジョージ、それにジニーが走ってきた。どうやら彼らもハーマイオニーと話してから2人のことを探していたらしい。けれども話を聞くと、やっぱりどこにも姿が見えないとのことだった。

「ダンブルドア先生に手紙を書くべきかしら?」
「念のためにそうするべきかもしれないな。ハーマイオニーはまだ探してるのか?」
「ええ。それにセドリックも手伝ってくれているわ」

 間もなくセドリックとハーマイオニーも合流して、私達はダンブルドア先生に手紙を書くことも重要だけれど、まずはグリフィンドールの監督生であるパーシーに相談した方がいいだろうと話し合った。パーシーは監督生でもあるが、その前にロンのお兄さんでもあるからだ。

「なんだって? ロンとハリーがいない?」

 パーシーは私達の話を聞くと、始めは「何でもっと早く言わないんだ」と怒っていたが、そのうち「マクゴナガル先生に手紙を出さなければ」と言って、大急ぎでコンパートメントに引っ込んでしまった。ふくろうがホグワーツ特急より先にホグワーツに到着してくれるか心配だったけれど、パーシーに相談したあと、私も念のためにダンブルドア先生に手紙を書くことにした。パーシーはハリーが夏休み中ドビーに妨害されていたことを知らないので、妨害されている可能性があると知らせておかなくてはいけないと思ったからだ。

「それじゃあ、ロキ、お願いね」

 急いで手紙を書くと私はロキの足に手紙を括り付けて汽車の窓からロキを飛ばした。それは汽車が出発してから数時間後のことだった。