Phantoms of the past - 030

3. ダイアゴン横丁の大乱闘



 楽しくなるはずだったダイアゴン横丁での1日は、ハリーの迷子事件から始まり、最後はウィーズリーおじさんとルシウス・マルフォイの乱闘騒ぎで幕を閉じた。乱闘はあれからハグリッドが現れるまで続き、ウィーズリーおじさんは唇を切っていたし、ルシウス・マルフォイも目の辺りを本で殴られた痕が出来ていた。もしもグリンゴッツで別れたハグリッドが現れて乱闘を止めてくれなかったら、2人はもっとひどいことになっていただろう。

 ルシウス・マルフォイはそんなひどい乱闘下にあっても、何故かジニーの大鍋から取り出した本をしっかりと握り締めていた。彼は最後にその本を「ほら、チビ――君の本だ――君の父親にしてみればこれが精一杯だろう――」と言って、目をギラギラさせながらジニーに突き返した。

 私はというと、その間ずっとポカンとしたままマルフォイを見ていた。未だに彼が乱闘に飛び込んで行った私を助けたことが信じられずにいたのだ。それでも、お礼を言わなければと「あの……ありがとう」と何とか口を開くと、マルフォイはハッとしたように私を掴んでいた手を振り解いて父親と共に書店をあとにした。

「ハナ、あの中に飛び込んでいくだなんて!」

 マルフォイ父子が去っていくと、ハーマイオニーがオロオロしながらこちらに走って来た。 ハーマイオニーは私が怪我をしていないかあちこち見ながら、「まさか、マルフォイが貴方を助けるだなんて思わなかったわ」と驚きと戸惑いが混じった声音で言った。

「信じられないよな、あのマルフォイだぜ。君に去年吹き飛ばされたこと忘れたのかな」

 ロンも信じられないものを見たとばかりに言う。
 私は何か答えようと口を開きかけたけれど、こんな大騒ぎを起こしてしまったので、あまり書店に長居は出来なかった。ハリーと共に大急ぎでロックハート先生の本を買うと、私達は書店から出て家路に着いた。


 *


「ルシウス・マルフォイが取っ組み合い?」

 なんだかクタクタになって家に帰り、夜になってリーマスが仕事から帰宅すると、私は日中ダイアゴン横丁で起こった出来事を話して聞かせた。リーマスはフローリシュ・アンド・ブロッツ書店でウィーズリーおじさんとルシウス・マルフォイが取っ組み合いの乱闘を始めたと聞くと、「信じられない」という顔をしていた。

「ルシウス・マルフォイはウィーズリー家の人達にひどいことばかり言っていたの。それで、おじさんがカッとなって……私、止めようとして」
「止めようとしただって?」
「あの、未遂よ。マルフォイが……あの、息子の方が私を引き戻してくれたの。“女の子なんだぞ!”って」

 リーマスが「それは息子が言っていることは正しい」と言いたげな顔をしたので、「周りにいた中で私が1番年上だったのよ。止めなくちゃ」とすかさず答えれば、彼は「ハナ、君は都合の良い時に自分の今の年齢を忘れる癖があるようだ」と厳しい表情で告げた。全くもってその通りである。弁明のしようがない。

 しょんぼりしながら私は、日中のマルフォイの行動を思い返していた。あの時、彼はごく普通の男の子のようだった。いつものように気取ってもいなくて、嫌味な感じでもない、優しくて紳士な男の子だったように思う。そして私はもしかしたら、あれはマルフォイの素なのではないか、と思えてならなかった。だって、マルフォイも無意識のうちに動いたように見えたからだ。

 普段からそうやって過ごしていれば、彼はもっと多くの人から人気を得ただろう。友達にだってなれたはずだ。そのことをリーマスに話すと彼は「ハナ、彼らは私達とは違う価値観で生きているんだ」と言った。

「伝統あるスリザリンの古い家系では、生まれた頃から純血こそが正義で純血こそが全てだと教育を受ける。多くの子ども達にとっては、その両親からの教えが全てなんだ。それに、スリザリンは非常に繋がりを重視する」
「繋がり……?」
「家族との繋がりや寮の仲間との繋がりさ。そして、彼らは時に、全ての寮を凌ぐほどの団結力を示す。中には繋がりを重視するあまり、自らの本来の意思がどこにあるのか分からなくなっている子もいるかもしれない。ただ、マルフォイがどうかは分からないよ。君達に対して普段冷たいだけで、スリザリン生に対しては今日君が見たみたいに普段から優しいのかもしれない。人のなりは一方から見ただけでは分からないものだよ」

 リーマスは最後に「ハナは魔法よりも魔法界の常識についてもっと学ぶ必要があるようだね」とつけ足した。確かに私は呪文の勉強ばかりしていて、魔法界の細やかな歴史や文化、魔法生物などの勉強は疎かにしているところがあった。けれど、もしかしたらこの先、そういう知識がないことが、戦う時不利に働くことがあるかもしれない。

 私はもっと色んなことを知るべきなのだろう。多くの知識が私の助けになる時が来るかもしれない。だって私は、英知を武器にするレイブンクローに組分けされたのだから。