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わたしなどのあずかり知らないところで、世界は確実に変動している
「あーはいはい分かりました! そんなに文句あんならこっちだって勝手にさせて貰うわよ!!」

我ながらけたたましい音を出してドアを閉める。飛び出した部屋に、トラファルガーを置き去りにしたあたしは、肩をいからせ甲板を目指した。ああもう、ムカツクムカツク! ほんっとに口が減らなくて腹立つあの腹黒ひんぬー好き男!! ……あ、駄目、これ言って傷つくのはあたしだったわ。くっそ。

「おいなまえ、またかよー」
「烈閃槍(エルメキア・ランス)!!」

すれ違い様にほざいてきたシャチに一発ぶちかますのはいつものこと。本当にいつものことだから、今更この船の連中も気にしない。あたしが言うのも何だけど、海賊ってのはなかなか適応力の高い生き物らしい。
しっかしまあ、此処で火炎系の呪文をぶちかまさないあたり、あたしも成長したものだ。精神系の術の中でもオーソドックスな『烈閃槍』は、肉体に依存する人間に食らわせたところで数日寝込むだけで終わっちゃう。肉体的な負荷はゼロ。嗚呼、あたしったら超優しい。

「おいなまえ、あんまシャチにあたんな」
「しょーがないでしょ。あの憎たらしい隈男には避けられまくってんだもん。……それより、あたし今から此処出るわ。何処かで会ったらよろしくね」

苦言を呈してきたペンギンのお説教も聞き流し、あたしはさくっと荷物を用意する。お金と食料以外は必要最低限。それで十分事足りる。開け放たれた扉の側で嘆息するペンギンの後ろから、ベポの声がした。

「なまえー、また出ていくの?」
「……『また』ってのはやめてくれる? そもそもあたし、此処の船員じゃないし」

そう、たとえこの船のクソッタレ……もといトラファルガーと一応、その、恋仲になってようが、あたしは『ハートの海賊団』の一員じゃあない。奪われたあたしの心臓は既に戻ってきているし、あたしがこの船に乗るのは、あたしの気まぐれとあいつの意思が一致したときだけだ。
そしてその一致は、少なくとも今は欠片も無い。だから、あたしがこの船に乗る理由なんかこれっぽっちもないのだ。

「じゃーね。また縁があったらどっかで会いましょう」

幸い、今は記録指針が指し示していた島に停泊中。そしてこの島は付近の他の島とのやりとりも活発らしく、定期船がかなりの頻度で出ている。ひらりと手を振ったあたしに、ベポは少々寂しげ(ちょーっとばかし罪悪感は擽られる)に、ペンギンはめんどくさそうに答えた。

「なまえまたなー」
「程々でまた顔見せろよ」

船長の機嫌が悪くなる。なんて言われても、今のあたしには知ったこっちゃない。

「あたしの頭が冷えて、気が向いたらね!」

なんて捨て台詞を最後に、あたしは黄色い潜水艦を降りた。1ヶ月あれば大体2回から3回は起こる(情けないことに、つまりそれだけあたしはこの船に戻ってきているわけなんだけど)ので、他の船員達も全然気にしないのが少々ムカツク。
だけどまあ、こうなった以上暫くあいつの顔を見たくなかったあたしは、取り敢えずそのまま一番最初に出そうな定期船に乗って、違う島に行ってしまうことにしたのだ。
……その選択が、ある意味で『大外れ』だったと気づいたのは、それから数時間後だったんだけども。

「だぁーかぁーらぁー! いきなりぶつかって来といて謝りもしねぇってのはどぉーなんだよぉー!?」

なーんかこう、かんに障る喋り方でイチャモン付けてきてるデカ男(どっかのジョリー・ロジャーをつけてるから、海賊なんだろうけど)が、あたしを見下ろす。決してチビではないあたしだけど、この世界の人間はのっぽからチビまで本当にピンキリだ。目の前のこいつだって、多分2メートルはゆうに超えてる。

「っさいわねえ。謝るも何も、そっちがそのデカイ図体ひっさげてフラフラしてんのが悪いんでしょーが。寧ろあんたがあたしに謝んなさいよ」

はんっ、と鼻を鳴らすあたしに、気の短いチンピラはもっと鼻息を荒げて武器を取った。周囲の野次馬共が、あたしたちから数メートル距離を取る。それでも完璧に逃げない辺りは、この程度の揉め事なんて茶飯事だってことだろう。
デカ男が構える。あたしも口の中で『力ある言葉』を唱え始める。デカ男の足が地を蹴る。あたしの呪文が終わる。――遅い!!

「ぶっ殺……っ」
「轟風弾(ウインド・ブリット)!」

不可視の風の弾丸が、幾つも飛んでチンピラを吹っ飛ばす。射程距離も短い、威力も大して強くないこの術は、けどまあこんだけ近ければ数メートルはかっ飛ばして相手を気絶させることも簡単だ。
案の定、チンピラは器用に避けていた群衆の隙間を通り、その辺の壁に激突して沈黙。ついでにその辺に詰まれてた荷物とか崩れちゃったけど、あたし知ーらなーいっと。

「目ぇ醒めたら片付けときなさいよねー」

と、優しいあたしは一応言っておいてやった。聞いてないだろーけど。

「ったく、気分悪いわね」

これはもう、美味しいものでもたらふく食べて忘れるしかない。と、あたしは吹っ飛ばしたチンピラから『迷惑料』を抜き取り、どっかのお店に入ることにした。……泥棒? まさかまさか、文字通りの『迷惑料』でしょ。海軍に突き出さないだけ有り難いと思ってくれなきゃ。

「ガブリエフ・『大厄災(カタストロフ)』……」

ん?

「よぉー、久しぶり! あいっかわらずヒョロヒョロだなお前!」

なんだとコラ。

「ハハッ、オマケに相変わらず胸も無ぇ」

……。

「喧嘩売ってんなら高値で買うわよ、チンピラ海賊同盟」

ギロッッ、と音がしても可笑しくない勢いで睨んでみるも、失礼極まりない奴らには当然……かどうかは分からないが、通用しない。
ロン毛に変な眉毛? 刺青? の兄さんと、チャイナ服着た眼鏡の手長族。それから、どう頑張っても堅気には見えないチューリップか菊か分からん赤毛のヴィジュアル系。

「お望みなら、さっきのあいつよりもずっと遠くのお空まで吹っ飛ばしてあげても良いんだけど?」

ルフィやローと同じ『最悪の世代』の中でも、『最も凶悪』と呼ばれる同盟を組んだ3船長が、同じテーブルを囲んでそこにいた。

「そうピリピリすんなよ、『大厄災』。別にお前と喧嘩がしてぇ訳じゃねえ」
「その割には人のかんに障るようなこと言ってくれたわね。開口一番ぶっ飛ばさなかったことへの感謝は無いの?」
「おお、怖ェ怖ェ」

怖ェ、とか言いつつも笑いってばっかのユースタス・キッド。何が可笑しいのか、ゲラゲラ笑い転げているスクラッチメン・アプー。それから、無表情で何考えてんのか不明のバジル・ホーキンス。
……面倒なメンツだこと。しかもこいつ等、同盟組んだのは知ってたけど何でこんなトコに3人揃っているんだか。

「1杯奢ってやるからつきあえよ、くだらねえ野郎に絡まれて気分悪ィだろ?」

確かに、気分は良くない。奢って貰えるってんなら有り難い話でもある。……とはいえ、こいつらと同じテーブルに着くリスクを考えるとちょっとなーって感じだ。

「飲むだけで終わるんでしょうね?」
「ハッ、心配すんなよ。お前相手に毒盛るようなつまんねーことはしねェさ」
「あっそ。なら良いわ。遠慮無く奢ってちょーだい」

まあユースタスならそう言うだろう。あたしは取り敢えず奴らについて行くことにした。大通りから路地裏に入り、明らかに寂れて人気の無いバーに入る。そして四人がけの、一番奥のテーブル席を選んで座った。メニューを見て、適当に注文する。

「何の遠慮もなく一番高ェの選んだな、お前」

うっさい黙れ『海鳴り』。

「……」
「? 何よ、『魔術師』」

何故だかあたしの顔をジロジロ見てくるバジル・ホーキンス。相変わらず涼しげっつーか、ローとは別の意味で何考えてんのか分からない。この男、占いが得意だって話だけど、生憎あたしはそういうものに関しては懐疑的だ。勿論言わないけど。

「対人関係、特に恋愛の運気が落ちているな」

ぶっっ。

「ギャー!! 何しやがる『大厄災』!?」

取り敢えず口に運んだお冷やが、勢いよくお口の外に噴き出した。うわあ汚い噴水。直撃を食らった『海鳴り』の絶叫が聞こえた。が、あたしには今気にする余裕なんぞない。

「げほっ、げほっ! げほっ! っ、な、ま、真顔で何言い出すのよあんた!!」
「事実だ。その様子だと、思い当たることがあるようだな」

いや、そりゃ思い当たる節ありまくりだけど! けどなんでそれ今言うし!! つーか他2人もこっち見んな!!

「何だ何だ、トラファルガーの野郎に捨てられでもしたか?」

やけに楽しそうなユースタス。こいつは本当に失礼だ。

「……お生憎様だけど、まだそういう話は出てないわね」

しかし、新聞なんかじゃあくまで『同盟』扱いの筈なんだけど、何処から広まってんのかしらね。別に隠してるつもりも無いけど、当たり前のようにこいつ等は勿論、見ず知らずの連中にまであいつとあたしの『関係』が知られてるってのは、正直気持ちの良いモンじゃない。
まあ、どっかの馬鹿が邪推半分で広めた噂が真実になっちゃった、ってのがホントのトコなんだろうけど。

「っていうか、人を『捨てられた』前提にすんのやめてくれる? あたしが『捨てる』選択肢だって十二分にあるんだからね?」
「へェ、そりゃ知らなかった」
「ペチャパイ趣味とかトラファルガーも変わってんな」
「よーし。お空の旅の覚悟出来てんでしょーね、あんたら」

いっそこの席ごとぶっ飛ばしてやろうか。ピキリと前髪で隠れたところで青筋が立っているのが自分で分かる。ホントこいつらムカツクわ。トラファルガーとは別の方向性で絶妙にあたしの苛立ちポイント抉ってくる。

「落ち着け、店内で騒いでは迷惑だ」
「あんたのせいでしょーが!!」

手酌で酒を注いでる『魔術師』は何処までもクールだ。こいつはこいつで色々腹立つ!
っつーか、あんたがこの話題持ちかけたんでしょーが!! と吠えたあたしにも眉一つ動かさず(っつーかこいつの眉は何処だ。その変な模様のとこでいいのか)、器用にタロットカードを切っている。

「『大厄災』」
「……何よ」
「女がそう声を荒げるものじゃない」
「だから誰のせいよ!!」

思わずあたしが吠えてしまうのも仕方ないってものだ。寧ろ吠えるだけで呪文の1発も放っていないことが本当に奇跡。もっと感謝しろってのよ。
ようやっと運ばれてきたワインのグラスを、乾杯もせず流し込む。あ、美味しいこれ。高いだけあるわ。

「空きっ腹に酒だけかよ……」
「喉渇いてんのよ。どっかの誰かさん達のせいで」
「誰だ?」
「あんたらに決まってんでしょ!!」

もうやだこいつ(『魔術師』)、天然か!! 天然なのか!!

「カッカすんなよ、なまえ。ほら、つまみ食えよ」
「さも『自分は関係ありません』みたいな顔してんじゃねーわよ、ユースタス」

何か疲れた……。疲れたけどお腹も空いたので、すすめられたおつまみは遠慮無くいただく。カシューナッツ美味しい。

「っていうか、あんたらこんなトコで何してんの? 海軍に見つかるんじゃない?」

別に海賊が何処の海の何処の島にいようと勝手だろうけど、『最悪の世代』の中でも一番危険と言われてる同盟を結んだ3人の船長が揃い踏みだ。とっくに誰かが海軍に通報しててもおかしくない。

「そりゃ心配ねえよ。此処は海賊達の落とす金で成り立ってる、半分治外法権みたいな島だ。よっぽど暴れなきゃ、通報の心配もねえよ」
「ふーん?」

成る程。道理でさっきもギャラリーが冷静だったわけだ。それに、こんだけ目立つ3人が同じテーブルについてて、殆どの人間が気にした様子もない。

「……悪巧みするにはうってつけってわけね」

ぐい、とワインをあおって言ったあたしの言葉に、少しだけ空気が変わった。ぴりぴりとした感覚が肌を刺す。けどまあ、殺気とは違う。

「で、あたしには何の用? まさか本当に1杯奢るために呼び止めたわけじゃないわよね?」

幾ら同盟を組んでるからったって、それは所詮裏切りなんて茶飯事の海賊同盟。それにこいつらは『最悪の世代』で、一癖も二癖もあることはよく知ってる。
そういう奴らが、『あたし』をわざわざこの席に呼んだ。……此処にあたしが来たのは偶然だったとしても、わざわざ『長話』の場に呼び込んだ以上、何かあると疑うのは当たり前。

「……明り(ライティング)」

誰にも聞こえない声量で唱えた呪文は、ただの威嚇用。見る人が見れば攻撃性のないものだけど、見慣れてない奴には、あたしが普段から出してる炎の球と変わらなく見える筈。

「言っておくけどあたし、自分のオトコ売るほど薄情でもビッチでもないわよ?」

取り敢えず、さっきと同じに釘は刺しておく。ついでにワインもデキャンタで追加注文した。
――『話』は多分、もう暫く続きそうだから。

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