酔狂カデンツァ | ナノ


▼ 耐えるか、絶えるか

※管理人の医療描写は付け焼刃です。フィクションなので当てにしないでください。あと間違っててもそっとしていただけると嬉しいです。



擦過傷、内出血、凍瘡、骨折、極めつけは内臓破裂。刃物で斬りつけられた跡が無いのが不自然なくらいに、拾った『患者』共は体中を負傷の宝庫にしていた。
特に外傷が酷いのは見ての通り男の方で、前述したものに加えて明らかに銃創と分かるそれが幾つもあった。幸いだったのが、身体に撃ち込まれた銃弾が悉く体内に残っていたことだろう。あまり長時間残留したままであると逆に内臓を腐らせる可能性があったが、どうやら撃たれて間もなかったらしく、留まった弾はいい具合に男の出血を止めてくれていた。

「つーかデケェなこいつ! 手術台乗らねぇじゃねーか!」
「ストレッチャーと繋げてやるしかないな。……3メートルくらいあるな、軽く見ても」
「嘘だろ!? ギネス記録が270センチちょいじゃねえのか!?」
「知らないよそんなの。つーかマスクしな唾飛ばすな!」
「いてェ!!」

清掃したばかりだったらしい車内を血で汚されたと文句を垂れる『悪友』の尻を蹴っ飛ばして彼らを家に運んだキリエは、そのまま男の方を処置室に引っ張り込んだ。そして消毒と手洗いだけは丁寧にし、ぐったりと血の気の失せた顔をする男に全身麻酔をかける。
本来ならレントゲンを撮るところだが、とてもそんな時間は無い。触診である程度の出血位置を確かめ、メスを入れる場所に印をつけた。

「おいキリエ! こっちのガキはどうする!?」
「心電図繋いで消毒と点滴だけ先しとけ。軽くだけど貧血と脱水起こしかけてる」
「点滴って、俺は医者じゃねーんだぞ!」
「何度もあんたの腕に打ってやっただろ。いいから手首でも何でもでも分かりやすく浮いてるとこに針刺せ。寝てんだから痛いもクソもないだろ」

マスク越しにくぐもった声で会話しながら、キリエは男の腹をまず開く。出血が傷の割に酷くない以上、一番にどうにかすべきは内臓の損傷である。肝臓に見つけた3センチほどの裂け目を縫い合わせ、少しずれてしまっていた内臓の位置を元に戻した。他に大きな傷が無いことを見て腹を閉じる。
そして今度は、わき腹に埋まったままの弾丸を摘出しにかかる。

「バイタルは?」
「どっちのだよ! ガキか? そっちのデカ男か?」
「両方」
「今ンとこ安定してる。けど、デカ男の方の血圧がちっとヤベエんじゃねーか?」
「よし」

弱めの強心剤を注射。次に胸を開き、折れて肺を圧迫していた肋骨をどかして固定する。直径4センチ近い血腫が出来ていたが、胸腔ドレナージで除去する。肺の傷自体は深くないようだったが、傷を負ってから処置が遅れたがための出血量だろう。

「……よし」

大きい傷はあらかた塞いだ。頭の方にも傷はあったが、こちらは幸い深くなく。脳挫傷のような深刻な事態にはなっていなかった。頬の傷や口の中のそれも同じく。あとは太ももの銃創を塞ぎ(こちらに弾は残っていなかった)、身体の血のめぐりを止めていたバンドを外していく。

「ハア――ッ」

ようやく一段落。時計を見れば、手術開始から既に3時間近く経過していた。がくん、と膝の力が抜けそうになるのを何とか堪え、その場で身体を伸ばす。ゴキゴキと身体の各所が音を立てた。

「終わったのか?」
「おおよそはね。どれ、そっちのチビ助は?」

と、キリエはふらふらともう一つの台に近寄り、ぐったりした子供の顔を覗き込む。

「……こっちのがマシか」

相当な暴行を受けた後はあるものの、出血量や内臓のダメージは明らかに男より軽傷である。それでも『手加減された』とはとても思えない傷跡に、キリエは柳眉を寄せた。
一番酷いのは肩の脱臼と、右足の甲の骨折。何か重いもの……例えば鉄の塊のようなものを脚の上に落とされたとしか思えない折れ方だ。もしくは、足の甲を思い切り踏み抜かれたか。

「酷ェことするな……」

何があったのかは知らないが、こんな年端の行かない子供にまで下す暴力とは思えない。こんな真似をした奴が、今この国のどこかで息をしていると思うとぞっとしてしまう。
キリエは雑念を振り払うように頭をかきむしり(髪を落とさないよう帽子越しにだが)、次は男の方の細かい怪我を診にかかった。見逃していた手足の骨折を処置し、口の中を除いて折れてしまった一本の前歯の、中途半端に残っていた部分を取り除く。
こんなもんか、とキリエがようやく息をついた時には、更に一時間が経過していた。

[ back to index ]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -