酔狂カデンツァ | ナノ


▼ 瓦礫に花を咲かせましょう

たとえば、じゃんけん。
たとえば、くじ引き。
たとえば、ポーカー。
たとえば、スロット。
たとえば、長半博打。
たとえば、実弾を込めた銃で行う、生死を分けるロシアンルーレット。

イカサマを幾ら仕込んでも、最後は偶然がものを言う。どんなに実力差のある相手との決闘だって、万に一つくらいは勝ち目があったりする。100%なんてこの世には無いし、0%だって存在しない。
どんな偶然だって起こりうる。タイタニックを見てる最中に氷の塊が屋根を突き破って落ちてきたなんて恐ろしい事件もかつて起こった。全ての可能性は途絶えない。それが人間にとって想像できることなら、どんなことだってこの世には起こる。

「そう思わねぇ、おチビ?」
「俺はチビじゃない」

ギロリ、と音がしそうな鋭い目つきで、子供はキリエを睨んだ。年ごろを考えれば、他の子供と数人、公園やらどこかで駆け回ってそうな子供だ。けれどその肌は病的に白く、そして眼の下にはくっきりと隈が浮いている。何よりキリエを睨め付けるその眼差しは、とてもこの日本と言う平和な国家で育ったとは思えないほど殺伐としていた。
しかしそんな、子供の子供らしからぬ表情にも、キリエは動じない。寧ろ愉快そうに笑みを浮かべたかと思えば、彼の帽子の上から、その丸い賢そうな頭をゆうるりと撫でた。

「ガキ扱いすんな」
「ガキはガキだろが。撫でられるうちに撫でられときな」
「嬉しくねえ」
「コラソンはこないだ喜んでたよ。あのクソデカイ図体で」
「コラさんは中身がガキなんだよ」
「口汚ぇな、おチビ」

コラソンには言ってやンなよ。うるさいから。キリエがそういえば、「言われなくても分かってる」と可愛くない返事がきた。全く、上げ足を取るのが上手い子供だ。キリエはこっそり脱帽する。頭の回転が良いのは出会った時から分かっていたが、随分ひねくれた方向に伸びているものだ。よほど悪い世の中を見てきたらしいと、キリエはこっそり嘆息する。

「確かに、コラソンのがお前より素直だもんな」

素直すぎて色んな奴に騙されそうだ。

「……そこまでチョロくねえよ」

ぼそりと呟かれた言葉は、なけなしのフォローだった。キリエはケラケラと笑い、そうかそうかとますます子供の頭を帽子越しに撫でまくる。

「可愛い弟分じゃねーか。良いなコラソンは」
「うるせえ」

青白い頬が、ほんのり薄紅色に染まる。こういう表情は年相応で可愛らしい。キリエは眦をゆるりと細めた。それに目ざとく気付いた子供が、何か文句をつけようと目を吊り上げたその途端、

「ギャ――っっ!!」
「コラさん!?」
「今度は何やらかした?」

野太い男の悲鳴と一緒に、どすんっ、がつんっ、という嫌な音。慌てて廊下に続く扉を開ければ、そこには後頭部を強かに打ったらしい、長身の――それはもう、往年の巨人プロレスラーすら見上げなければならないような長身の男が、ダンゴムシのようになって身悶えていた。

「何で、こんな何もない場所でこけるんだあんた……」
「コラさんはドジっ子なんだよ! しょうがねえだろ!」
「やめろおチビ。少なくともこいつはドジっ『子』なんて年はとっくに過ぎてる」
「とにかくドジなんだよ! 良いから手当しろよ!」
「へーへー。つーかどうせならあんたやんな。何事も練習練習」

と、片手でひっつかんでいた救急箱を乱暴に渡す。「危ねぇな!」と苦言を呈されたが、この程度は知ったことではない。

「コラソンがひっきりなしに怪我するから、私も検体手に入れる手間がなくて良いやね」
「……俺の心配はしてくれねぇのか」
「あんたが頑丈なのはよく分かってるよ」

壊れないあんたと割れる食器なら食器の心配だろ、普通。

「ひでえ女!」
「最低だ!」
「黙れタダ飯食らい共。今日の飯はオールベーカリーにすんぞ」
「「鬼――ッっ!!」」

仲良く同じ悲鳴を上げる、大の男とませた子供。キリエは大きく口を開けて、涙が出るほど笑う。
そうして、頭の片隅にふと思い浮かべた。
血まみれ傷だらけで死にかけていた、この二人を拾った時のことを。

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