酔狂カデンツァ | ナノ


▼ 真実はいつも一欠片

某Gから始まる大手検索サイトでの『フレバンス』および『ハクエン』のヒット数、0件。名前を間違ったのかと思い再度ローに尋ねてみても、『フレバンス』と『ハクエン』の音は覆らなかった。

「つーか何処にあるんだその国? 音からしてヨーロッパっぽいけど、北欧とかその辺か?」
「ほくおう?」
「あぁ〜、そうだな。フィンランドとかノルウェーとかの辺り。分かるか?」
「知らねェ。けど、フレバンスは『北の海(ノース・ブルー)』の国だ」
「あ? ノースブルー? 北海か?」
「ほっかい? 北の海だって」
「いや、そりゃローカルの呼び名だろ? 私が聞いてンのは世界基準の話で」
「何処の海でも北の海は北の海だろ。何言ってんだお前」
「いや。寧ろお前が何言ってんのだよ、このおガキ様め」

喋れば喋れるほど食い違う互いの言葉。業を煮やしたキリエが、手帳についている世界地図を広げて「さあお前の国は何処だ」と聞いてみると。

「何だこれ」

という予想だにしない回答がきた。

「こんなの嘘だ。『赤い壁(レッドライン)』も無ェなんてあり得ねえ」
「レッドライン? レッドクリフじゃなく?」
「れっどくりふって何だ」
「知らないか? 赤壁の戦いっての。まあ大昔の話だけど」

言葉が遅かったり言葉遣いが可笑しい訳では無く、ただその発言が異様。思わず精神に妄想の疾患でもあるのかとキリエは疑ってしまうが、子供が考えたにしては少々設定が懲りすぎている感じがする。
そしてローの本名は『トラファルガー・ロー』らしいが、ヨーロッパで『苗字・名前』の順番で名乗る国はそう多くない。しかも『トラファルガー』は元々スペインにあるトラファルガル岬の沖を指す言葉だ。スペインは当然名前から先に名乗る。
肌の白さ(白斑の部分を除いたところだ)から「フィンランドの生まれか?」と聞いてみたが、ローの答えはやはり「そんな国は知らない」であった。そもそもこの年頃のフィンランド人が、此処まで流暢に日本語を喋れるというのも妙である。片親が日本人だったとしても、大体は現地の言葉を一番に学んで覚えるものだからだ。

「お前らをあたしが見つけたのは3日前だ。うちの近所の神社ン中で2人してぶっ倒れてたんだよ。お前が眼ぇ醒ましたのは昨日だから、その2日後だ。覚えてるか?」
「……知らねェ」
「ふむ」

返答に何か含みがあったようだが、追求はしないでおく。少なくとも、子供の言葉の『多く』には嘘は見当たらない。子供の証言と、現場の状況と、その他の色々な可能性を考えると、現実的な答えが少しずつ事実の候補から脱落していく。
そして最後に残ったのは、何とも非現実的な、けれども最近のフィクションものにはありがちな結論だった。

「ま、何にせよお前もそこのデカ男もまだまだ要安静だかんな」
「チッ」
「舌打ちすんな」

とはいえ、そんな突拍子も無い結論を、まだまだ安心は出来ない状態の子供に聞かせるのは少々躊躇われた。せめて彼の保護者らしい男が意識を取り戻してからの方が、色々面倒がなくて良いだろう。キリエはがしがしと頭を掻くと、

「飯食って寝て……いや、その前に検査だな。今日はレントゲン撮るぞ」

『フレバンス』そして『珀鉛』。ローが口にしたのはそれだけだった。珀鉛というのは読んで字の如く白い鉛のような物質だそうで、そうなるとローの身体を蝕んでいるのは間違いなく中毒症状である。

「レントゲン……」
「お前、血液にその珀鉛とやらが混ざってたろ。ってことは高確率で内蔵、特に腎臓だな、そこに珀鉛が沈殿してる可能性が高い。高いってだけで確証はないし、だからって胃カメラ飲むのはなるべく避けたいだろ」
「……」
「? 何だ、急に黙りこくって」

何を思ったのか、ローは暗い顔で俯いてしまった。首を傾げたキリエが尋ねても、少しの間返事もしなかった。やがて、

「お前……」
「あン?」
「医者なのか?」

と、何ともこちらがずっこけたくなる程に今更過ぎる質問が飛んできたので、キリエは本当にその場でずっこけかけてしまったのだった。

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