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恋よりもなお深く
「お前らってさ、並んでるとカップルってより双子だよな」

……という、受け取り方によっては失礼だったりするかも知れないこの感想は、竜也と私のツーショットを見た人間がそれなりの確率で口にするものだ。口にするだけでも『それなり』なんだから、同じ事を思ったけど黙っている人間を合わせれば、きっともっと多いんだと思う。勿論、私に人の頭を覗く特殊能力なんてものはないから、多分に想像を含んでいるけれど。

「帰るか」
「うん」

当たり前のように自分と、それから私の分の鞄を持って立ち上がるのは金森竜也。容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群で喧嘩も最強。『上院の竜』なんて呼ばれる、この学校を締める番長だ。勿論何処ぞのギャグマンガみたいに手下を侍らせて威張ったり後輩をパシったり喧嘩に明け暮れたりはしないけど、でも彼はまごう事なきこの学校の顔で、町内ではちょっとした有名人だ。騒がれる率は彼の弟とその一味(恐ろしいことにそこには私の弟も含まれる)が高いけど、竜也も十二分に有名人だったりする。

「今日どっか寄るか?」
「寄るっていうか、ちょっと買い物したい。片栗粉と胡椒がそろそろ切れかけてて」
「じゃあ鷺川市場だな。『あげてんか』にも行くか」
「コロッケ? 竜也以外と揚げ物好きだよね」
「お前もだろ」

で、そんな竜也の横に並んで、ぐだぐだとくっだらない会話をしている私は、一応竜也の『彼女』という、きっとこの学校の女子の半数以上が狙っていただろうポジションに収まっていたりもする。恋人同士になったのは中学からとはいえ、元々は小学校、そして学年も同じの幼馴染みだった私達の間に、変な照れや気後れするような感情はない。ちらちらとこちらを伺って来る女子生徒や囃し立てようとする男子生徒が多少鬱陶しいけど、それももう慣れたものだ。

「今日は飯どうすんだ?」
「お母さんが作るよ。今日は早く帰って来られるって」

ちなみに晴れて「おつきあい宣言」をした当時、竜也の弟は『名前姉がホントのねーちゃんになった!』と随分気の早い喜び方をし、私の弟は『……え。あんたらまだ付き合ってなかったの?』と何だか微妙な反応を寄越してきた。一体奴は姉の私と竜也を何だと思っているんだろう。

「金森家は?」
「うちはいつも通り。メニューはタイムセール次第だな」

喋る内容はいつも通り。別に聞いても聞かなくても困らないようなことばかり。色気も何も無い、と以前竜也の舎弟(本人は『右腕』を自負している)が喚いていたけれど、昔から恥も外聞も無く一緒になって遊び回っていた私と竜也だ。今更そんな色っぽい会話なんて寒気がするに決まってる。

「弥生お母さんは主婦の鑑だね」

竜也は美少年だ。さらさらの絹みたいな黒髪に、黒目がちな切れ長の目。肌はちょっと病人みたいだけど白くてきめが細かいし、鼻筋も通っていて唇の形も綺麗だ。眉だって何もしなくても細い。にきびも余計なホクロもないし、顎の線もシャープで整っている。声変わりを迎えて出っ張ってきた喉仏が、何だか男っぽくて色気がある。
血の繋がった伯父と実の両親という美形を見て育った私から見ても綺麗な竜也は、世間から見ればきっともっと綺麗なんだろう。……と、前に本人の前で零したところ、「お前も似たようなもんだろ」と呆れたように返されたことがある。曰く、私が述べた竜也の特徴は、その男性的なところを除けば私にも大体共通するからだそうだ。

「土日なんか予定ある?」
「土曜は別に。日曜はテスト勉強会誘われてる」
「それって明らかに竜也のノート目当てじゃん。もうお金取ったら?」
「前も言ってたな、それ」

確かに私も黒髪ストレートで、目も黒でどちらかと言えば切れ長だ。お母さんの指示のもと手入れしている肌はそれなりに綺麗だと自負している。ついでに言うなら、弟の裕介と同じく母親似の私の顔は、確かに繁華街を歩いていれば3回に1回はスカウトに声をかけられる程度には綺麗だ。自慢では無く、ただの事実だけども。

「つか、忘れてた。名前にも声かけろって言われてたんだ」
「勉強会? そなの?」
「まあ冗談半分な感じだったけどな」
「だろうね。毎回断ってるし」
「お前大人数苦手だもんな」
「うん。だから悪いけど、今度も断って貰って良い?」
「ああ。無理して参加することじゃないしな」

ぽん、と竜也の手が私の頭にのる。よしよしと撫でる竜也の動作は自然で、嫌味も何もない。彼はこれを「弟がいたからだ」と言うけれど、彼の弟と私の弟は同い年だ。私だってそれなりに弟の面倒は見てきたつもりだけど、私にこの面倒見の良さや世話好きや、やや過保護なところは無い。
弟にあまあまな竜也と、竜也兄大好きな彼の弟に比べて、私と裕介はだいぶドライだ。多分、元々、もはや生まれつきレベルでべたべたすることを好まないからだろう。

「そっちは? 土日の予定」
「どっちも何もないよ。家でゴロゴロしてると思う」
「じゃあ土曜どっか出かけるか?」
「いいの?」
「いいよ。どっか出かけて、買い物かなんかして、美味いもん食べるか」

女の買い物は長いというけれど、私の買い物は割と即決だ。それを分かっている竜也は、私の買い物にも割と気楽に付き合う。私も長考があまりないとはいえ買い物自体は嫌いでもないので、竜也の申し出には嬉しくなった。

「何か食べたいものある?」
「あー……肉? ってか、洋食系?」

私と竜也は、並んでいると「カップルより双子」らしい。竜也は実弟のてつし君よりも私の弟に似た端麗な容姿をしていた、そして私と私の弟はそっくりだ。それはつまり、私と竜也も顔立ちが似ているということ。A=BでB=Cなら、A=Cっていうのは数学の常識だ。勿論完璧なイコールではないし、私が男っぽいわけでも竜也が女々しいわけでもない。
けれど私達は、傍から見ると結構似ているらしい。それこそ「双子?」と首を傾げられるレベルで。ついでに言うと、竜也と私の間に所謂『恋人らしさ』があまり無いことも、私達が双子に見える要因の1つらしかった。

「分かった。美味しいお店探しておくね」
「任せた」
「任されました」

見た目。確かに似ていると思う。顔つきそのものがそっくり、っていうんじゃないんだけど、でも確かに似てる。私は自慢じゃなく事実として美少女の部類だし、竜也はまごうことなき美少年だ。外見的特徴も割と共通するし、何も知らない他人から見れば兄妹(姉弟?)にも見えるだろう。
でも、私と竜也は双子じゃない。血の繋がりはない。

「竜也は優しいね」
「……急にどうした?」

竜也は優しい。
鞄だって当たり前に持ってくれるし、今だって歩く歩調は私基準だ。コンパスのある竜也が普通に歩いていれば、私なんかさっさと置いて行かれてしまう。買い物だって多分、私が買ったものを多分当たり前に横から掻っ攫って持ち運んでしまうだろう。
竜也は優しい。優しくて男前だ。そしてその優しさに押しつけがましさが無い。水が上から下に流れるみたいに、色んなものが自然だ。気取って無くて、良い人に思われようだとか、かっこつけようとするときの見苦しさが無い。
そういうところが、好きだ。ずっとずっと、小さな頃から。

「名前も優しいよ」

うっかり恥ずかしい方向に思考がトリップしていたところを、急に引き戻された。精神的に凄いGがかかった気がする。いや、気がするだけだけど。

「……急にどうしたの」

弟の皮肉には随分慣れたものだけど、急にそんな風に言われてはどう返して良いのか分からない。間抜けにもそれしか言えなかった私を見て、竜也はちょっぴり、ほんのちょっぴりだけど笑った。

「さっきのお返し」

そう言って、竜也はにやりと笑う。

「びっくりしたの? さっき」

そういえばさっきの竜也も、「急にどうした」って言ったっけ。

「したよ。名前もしただろ」
「うん。したした」

くすくす笑う。私と竜也と、ふたりぶん。普段はあまり表情の変わらない竜也だけど、血の通った人間だもの、笑いもすれば怒りもする。あんまり泣いているのは昔から見たことないけど、それもゼロじゃあない。竜也の家族を除けば、きっと私が一番、色んな竜也を知っているだろう。それは私の、数少ない自慢だ。

「ねえ、竜也」
「ん?」

時々、思うことがある。
どうして私達は、私と竜也は、周りが言うように双子じゃないんだろうと。
血の繋がった実のきょうだいなら、恋人でなくても竜也と一緒にいられるのに、と。

「私、生まれるなら竜也の妹でも良かったな」

見た目も割かし似てて、気も合うし、お互い一緒に居ることがちっとも苦にならない。それならいっそ血が繋がっていればと思ったことは、実は1度や2度じゃない。
だって血は水よりも濃い。恋人なんて曖昧で不確かな関係よりも、ずっと確かにお互いを繋ぐから。何も考えなくても、何もしなくても、切れない笑んで繋がっていられるから。

「何言ってんだ、お前」

突拍子も無い私の言葉に、案の定竜也は変な顔をした。予想通りの反応だった。だから予定通り笑って誤魔化そうとした私を、けれど竜也は予想外の言葉で遮った。

「兄妹じゃ結婚できねえだろ」

……。

「……竜也」
「何だよ」
「私と、結婚する気あるんだ」
「悪いか」
「ううん」

うん。ごめんね竜也。今のは私が悪い。馬鹿なのは私だ。

「竜也ー」
「何?」
「好きだよ」
「知ってる」

一緒にいていいかな。ううん、いいよね。ずっとずっと。これまでのように、これからも。
きょうだいじゃなくても、貴方と。

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